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10/17

準備

 金曜日になった。

 花宮のお陰で、今週は驚くほど充実した一週間だったと思う。

 いつもならテスト期間と聞いただけで気が重くなるのに、今回は不思議とそうでもない。花宮様様、というやつだ。

 ただし、今日の放課後に花宮の姿はなかった。

 スマホには、『放課後できなくてゴメンね』というトークが1通だけ届いていた。

 毎週金曜はバイトがあるらしく、チャイムが鳴るや否や、彼女は鞄を肩にかけて足早に教室を出ていった。

 さすがにクラスメイトに囲まれた状況では、俺と話すこともできなかったのだろう。

 謝られるようなことじゃない。むしろ今週は、助けられてばかりだった。

 本当に、感謝している。

 週明けにはすぐテストがある。

 今日は今日で、自分の力でちゃんとやらないといけない日だ。そう自分に言い聞かせながら、机の上にテキストを広げる。

 取り出したのは、現代文。

 ……俺が一番得意な科目だ。

 別に日和っているわけじゃない。

 満遍なく勉強しておいた方がいいと思っただけだ。

 うん。




 17時。

 いつもなら半過ぎくらいまで続けている勉強を、今日は少し早めに切り上げた。

 花宮のバイトが何時に終わるのかは知らない。

 けれど、もし俺より先に着いて、外で待たせるようなことがあってはならないだろう。

 勉強道具をしまい、鞄を肩に掛ける。

 教室を出て、足早に帰り道を進んだ。

 家に着く頃には、空はすっかり茜色に染まっていた。端の方では宵の表情さえ窺える。

 フロントを確認するが、花宮の姿はまだない。スマホを見ても、向こうからの通知は来ていなかった。

 ……まだ、だな。

 きっと今もバイトを頑張っているのだろう。

 そう思いながら、鍵を回し、静かな家の中へと足を踏み入れた。




 通知が届いたのは、19時手前だった。

 画面に表示された名前に、反射的に視線を落とす。『今から向かうね!』という短い文面。


 『気を付けてきてください』


 それだけ返信して、スマホを伏せた。

 住宅街とはいえ、この時間帯になると街灯や家々の灯りがあるとはいえ心許ない。

 車通りも昼間ほど多くはなく、音のない道は妙に広く感じる。

 迎えに行った方がいいのだろうか。

 そんな考えが頭をよぎるが――それは、少し下世話だろうか。

 友達という距離感を越えてしまう気がして、結局その一歩が踏み出せない。

 ……過保護だと思われるのも、違う気がするしな。

 リビングの時計に目をやる。秒針の音が、やけに大きく聞こえた。

 どうせ暇なのだから、食材の準備とご飯を炊いておこう。

 俺は落ち着かないまま、いそいそとキッチンに立ち、冷蔵庫から食材を取り出し始める。

 まずは合いびき肉と玉ねぎ。それから麩。

 麩を使うのは、パン粉よりもハンバーグの肉汁を多く吸ってくれるからだ。

 ふっくらとして、噛めば中から肉汁があふれ出るようなジューシーなものに仕上がる。

 見た目はあまり変わらないが、仕上がりだけは確実に変わる。

 続いて取り出したのはじゃがいも、きゅうり、にんじん、それにハム。これでポテトサラダを作る予定だ。

 ハンバーグだけではどうしても味気ないし、箸休めとしても丁度いい。

 全体のバランスを鑑みても組み合わせは無難だろう。

 さらに、彩り要員としてブロッコリーとプチトマトも取り出しておく。ブロッコリーに関しては他の食材と比べて常温保存には不向きだが、花宮の到着までであればさして問題もないと思う。

 今夜使う食材を出し終えた俺は、最後に米を取り出す。

 祖父が農家のおかげで半年に1回ペースで一斗分送られてくる。そのため買う必要はないから助かっている。

 サッと米を研ぎ、炊飯器にセット。多分料理中に炊き上がるだろう。

 ひと通り準備を済ませてしまったせいで、急にやることがなくなった。

 シンクも作業台もきれいで、フライパンもまだ出番を待っているだけだ。

 ……静かだな。

 時計を見ると、まだ少し時間がある。

 折角なら、週明けの中間テストに向けて勉強でもするか。

 鞄からテキストを取り出し、テーブルの上に広げる。

 不思議なことに、机に向かうこと自体が億劫じゃない。花宮のおかげで、今回のテストに対するモチベーションはかなり高めだ。

 誰かと一緒にやった時間が、こんなにも自分の中に残るものなんだなと実感する。

 ページをめくる指先も軽い。

 つい数日前までは、文字を追うだけで眠くなり、そもそもどこから手を付ければよいかわからなかったはずなのに。

 自分のためでもあるし、何より、あの「わかりやすかった」という言葉を嘘にしたくなかった。

 そう思いながら、俺はペンを取った。



1,000文字になろそうな話を、強引に2000弱までもっていきました。

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