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3話:情報整理をしよう

 ふたりの男女が、華やかな花畑で幸せそうに語らっている。

 それを見て、【私】は腹の底からぐらぐらと煮えたぎるような怒りを感じていた。


――どうして、あのふたりが。

――だめでしょう、あなたは……他の女性を目に映したら。


 だって、それじゃああまりにも報われない。


「王子様は……お姫様だけを見ていなくちゃ」


 ……そうじゃなきゃ、許せない。


   *


「……っ!?」


 荒い息で目を覚ます。


「はあ……はあ……」


 何やら悪い夢を見ていたらしい。目を覚ました瞬間、内容は朧気になってしまったけれど……。


「でも、悪役令嬢になっちゃったってところは夢じゃない……よね」


 目の前に広がる豪華な部屋を見て、嘆息する。

 窓の外を見ると、まだ日が昇り始めてすぐのようだった。


 せっかく早く目覚めたみたいだし……情報収集しなくちゃ。

 部屋中をひっくり返して、この世界や、アメリア自身について知れる情報がないか探ってみる。

 すると、カバンの中から数冊の教科書らしき本と、引き出しの奥からアメリアが昔から付けていたらしい日記を見つける。

 大きなヒントになりそうだ、幸先がいい。

 急ぎ捲ってみると、書いてある文字は日本語じゃないのに不思議なことにすらすら読めた。

 

「一応、アメリアの身体だからなのかな……?」


 簡単に理屈をつけると、あとはひたすら内容を頭に入れていった。

 ……そして凡そ、この世界のこと、アメリアのことを知る。


  *


 アメリアたちが暮らすこの国は――名をフローラ王国と言う。

 資源豊かな大国で、魔法の力を操る優秀な王侯貴族と最強と謳われる騎士団により、安定した治世が保たれている。

 魔法……についての記述は専門的すぎてよくわからなかったので、あとで調べ直そう。


  *


 アメリアの生家・ブランシャール伯爵家は、伯爵家の中では取り立てて格の高い家というわけではなかった。けれど、アメリアの両親が優秀な魔法使いであり、何度か王族を手助けしていることから、今は王家でそれなりに重用されているらしい。

 そんな両親たちは、一人娘であるアメリアに対しては一切興味を持たなかった。娘よりも金よりも名誉よりも、魔法への興味が尽きない人たちだったのだ。


 両親の愛情を得られなかったアメリアは、自分で自分を愛そうとした。

 ただ、決して賢いとは言えないアメリアが自分を愛せる要素は、生まれ持つ華やかな容姿だけだった。

 だから、自分の容姿に異常に執着した。


 服を買いあさり、宝飾品や化粧道具を毎日のように買い求めて自身を飾り立てては、使用人やブランシャールよりも家格が落ちる貴族の子息たちに自分を誉めたてさせ、自尊心を保とうとした。

 呆れる同性や、自分に興味を持たない異性。我儘放題に困り果てる使用人たち、自分に興味を持たない両親――それらのすべてに目を背けながら。


 そんな、五年前のある日。両親は突然、養子をとったと言ってひとりの少女を連れてきた。

 それは、当時十二歳のエリナだった。

 エリナは、化粧っけなど一切ないのに匂い立つように美しかった。そして心根までも美しく、両親すら愛さないアメリアの姉として、どうしようもないアメリアの世話を根気よく焼こうとした。


 アメリアのプライドは、当然ずたずたに傷つけられた。

 エリナはすぐに全寮制の学校に入ったので、接触はほとんどなかったものの……彼女が屋敷へ帰ってくるたびに使用人を使い、嫌がらせをしようとした。


 けれど、エリナは態度を変えなかった。そのことがアメリアをより惨めにさせる。

 だから、一年遅れで彼女と同じ学校に入学してからは、アメリアはエリナをいないものとして振る舞うようになった。


 私には姉なんていない。あんな女のこと、誰にも話さない。

 自分をちやほやしてくれる同級生の男たちだけ周りに置いて、我儘の限りを尽くすのだった――。


  *


 ……というのが、私が転生するまでのアメリアの状況らしい。

 

「いや……ちょっと可哀想じゃない? アメリア」


 どうしようもない子だし、使用人やお義姉様に当たるのはどうかと思うけど……元凶は両親だと思う。

 幼い子どもが親の愛情を求めるのは、当たり前のことなのだから。


「アメリアの魂はどこに行ったんだろう……」


 私の意識が表に出ているだけで、深くで眠り込んでいるのか。あるいは転んで気を失った拍子に――彼方へと霧散してしまったのか。

 少なくとも、今のところはまるで表に出てくる様子はない。


「でも……アメリアの心配をする前に、今は自分の心配をするべきか……」


 せっかく転生したのなら、この世界で平和に暮らしたい。

 伯爵令嬢として好き放題に暮らそうだとか、この世界に存在しているであろう攻略対象のたちとどうこうなろうだとか、そういうことは思わないから。


 ……いや。攻略対象のイケメンたちとはどうこうなりたい気もするけど。

 だって私、弊社のゲーム大好きだし。新作のクリエイター陣は信頼できるから、私好みのイケメンも絶対出てそうだし……。

 でも、悪役令嬢の身じゃ攻略対象と結ばれたりはできないんだろう。残念すぎるけど。


 やっぱり、平和に暮らす方向にシフトしよう。平和に暮らすためにはどうしたらいい?

 プレイ済みのゲームなら、これから起こるであろう出来事を予見して動くことができる。

 でも、私はサブキャラクターのうっすらした情報以外、本当に何もわからないんだよね……。

 悪役令嬢もののセオリーで考えるなら、主人公にも攻略対象にも悪いことをせずに大人しくしていれば、そう悪いことは起きないと思うのだけど。


「……とりあえずはいい子にしてよう」


 それと、重要そうなイベントからはできる限り遠ざかるようにしよう。

 あとは……前世で一般人だった私が貴族らしく生きていけるとは思えないから――適当なところで、伯爵家の責務とかから逃れられるといいんだけど。

 体調が悪いふりをして、田舎に引っ込むとかね。

 お金はあるみたいだし、アメリアの両親は家を存続させることにも興味がなさそうだから、うまくやればそのくらいはできそうだ。

 ただ、まだわからないことが多すぎるから、そのあたりは一旦様子を見よう。


「何にしても、主人公と攻略対象が誰なのかは知っておきたいな」


 優しく味方のように振る舞うにしても、避けるにしても。

 とりあえずは情報収集のターンだ。孤独な戦いだけど……頑張ろう。


「だけど……お義姉様が不思議なんだよなぁ……」


 どうして子どもにも家の存続に興味のない両親が、養子なんて取ったのか。

 それに、私は彼女をサブキャラクターのリストで見た覚えがない。

 あんなに美しい人がただのモブだとは思えない。悪役令嬢のアメリアの義姉っていうのも、物語と何かしら関わりがありそうな……?


「あっ」


 もしかして――気がついてしまったかもしれない。


「お義姉様って……『呪われた王子様と救済の魔法使い』の、主人公?」


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