プロローグ
【美しい人】の白くて長い指が、私の頬を優しく伝う。
「え、エリナお義姉様……!」
「……違うよ。教えたでしょう?」
少し困ったように眉を下げて、エリナお義姉様は告げた。
「私は、【エリナお義姉様】ではなくて――」
【目の前の人】は甘い声色で囁くと、さらさらと薄墨色の長髪をこぼす。
「……ね、ちゃんと言える?」
「……っ」
「アメリア」
促すように名前を呼ばれて、胸のときめきと共に、反射的に頷いてしまう。
私の反応を見やり、【その人】は長い睫毛を揺らし、口元に笑みを湛えた。
「本当に可愛いね、君は……」
ふんわりと品良く微笑むと、ごく自然に私の頬へとキスを落とす。
「大好き」
「……っ!」
「ああ。私に忌まわしい呪いさえかけられていなければ――」
【薄墨色の瞳を持つ人】はふいに悲しげな表情をすると、私の唇に指を這わせた。
「すぐにでも、ここに口づけられるのに」
――そう。【彼】と私が結ばれることはない。
『呪われた王子様と救済の魔法使い』の世界では、主人公ただひとりだけが、【王子様】の呪いを解くことができる。
そして、【彼】も知らない事実ではあるけれど――。
私は、【この王子様】を死の呪いへと導く、史上最悪の悪役令嬢なのだ。