名前
この作品はフィクションです
屋上に続く階段を昇って、ドアを開ける。
「はあ...」
今は一時間目の半ば、俺はつまらない授業を体調不良、と偽り抜け出して、いつものようにここに来た。決してこれが初めてでは無い。きっと先生も、気づいてる。
この場所で、俺は何回死のうとしたんだろうか。
「え?」
思わず声が出る。気付かなかったが、人が座っている。......一体誰だ?こんな時間に、なんでここにいるんだ?ここは学校だと言うのに、彼女はギターを持って弾き語っている。
「...綺麗だ。」
びくっと肩を震わせて、驚いたように目を見張りこちらを見てくる。
「あ、いや、えっと...」
普段人と話さない俺はもたついた言葉を出すばかりで、そんな自分に嫌気がさす。
「...名前は?」
どう考えても、おかしい。警戒されてしまったのか睨まれている始末だ。
「あ、ほら、こんな所で会ったのも何かの縁ですし...」
俺は本当に何を言っているんだ?そうだ、笑おう。笑顔が大事とかってよく言うじゃないか。
俺は、いつものように完璧な笑顔を作った。すると、彼女は不思議そうな顔を見せた。
「俺の名前は翔って言うんだ。」
名前を教え、もう一度笑顔を作る。苗字は、言いたくなかった。彼女は無言で、スケッチブックを取りだした。そして、そこにこう書いた。加藤唯です、と。
「...喋れないのか?」