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第7話:これがギルド

 「これなんてどうですか?」


 どこぞの有名RPGの第七作目のボスキャラのような服だ。

 ……これは無いな。


 「では、これは!」


 いやいや自慢げに見せられても、どこかの卍解、虚化な主人公とほとんど同じじゃないか。


 「これならどうです!」


 なんだこの金ピカ……

 まんまギルガ○ッシュじゃないか、こんなの恥ずかしすぎるだろ。

 

 どうしよう、出てくる服出てくる服全部あんなんだ。

 そもそも美的な感覚が違うから、なんと言ったらほしいものが出てくるか分からない。

 カッコいいは当然ダメだろう。またギル○メッシュが出てくるのは目に見えている。あの店員自信満々で持ってきたからな。

 渋い、違うな。地味……


 「地味なの持ってきてみてくれる?」


 「は、はぁ? でも、それだと……」


 「いいから一度持ってきてくれ」


 俺が言うと店員は店の奥に消えていった。


 「こ、このようなものになりますが……」


 そして帰ってくる。

 手にはギルガメ○シュではなく、主人公の方が着ているような普通の服がもたれている。

 なるほど、この世界の感覚はアニメやマンガに対して思う感覚に近いな。確かにこの服なんかめっちゃ地味だ、しかし自分で着るのにはデニムやら普通のシャツの方が良いのだ。


 「これもらおう」


 「えっ!? ほんとですか……?」


 「そう、これでいい。じゃあシャルナの分とあわせてさっきので足りるか?」


 「は、はい! も、もちろんです!」


 さっそく俺とシャルナは買った服にその店の試着室で着替えた。

 しかしここで問題が起こる。もと着ていた服の置き場なのだが……


 店員さんが「ぜ、ぜひ! 預からせていただきます!」と言うのでお言葉に甘えた。




 ★




 「じゃあそろそろ」


 「う、うん。そうだっ!」


 「いやいや、そろそろギルド行かねえ?」


 その歩みをカジノの方へと向けていたシャルナの腕を掴む。未成年のちびっ子が入店できるのかは不明だ。

 そしてギルドのある帝都の中心部に向かって歩いていく。

 帝都は広い。そしてこの端っこの方でも人が多い。

 さっきちょっと帝都の地図を見たのだが、東西南北の4つと中心部の合計5つに大まかに区切られていた。


 今いるここは南の方。

 この辺はお店が多いらしい。そして今から行く中心部は、まず王城、そしてギルド。他にも帝国が動かしている施設などが多い。


 「……中央部に近づくほど人が多いな……」


 息苦しいほどに人が多い。

 これだけ人が多いと、シャルナと一度はぐれたら、また出会うのに相当苦労しそうだ。注意しないとな。


 「シャルナ……あれぇ?」


 うっかりしてた、すでにいねぇ。


 さて、どうしようか。俺の力で通行人を全員飛ばす……いくらなんでもそりゃ無茶だな。

 人が多いというのはめんどくさいな、上を越えていったとしても、シャルナの姿を見つけることができなければ意味は無い。


 うーん……どうしようか……


 目を瞑り思案する、そこで気がついた。


 ――見える、目を瞑っていても。


 「どーなってんだ?」


 いったん人ごみから脱出する。そして手ごろな位置に椅子があったのでそこに腰掛ける。

 さて、どういうわけか目を瞑っても集中すれば見える。それもさっきは真後ろを見ていた。

 まさかとは思うが、千里眼的なあれか?


 ――間違いない、視点の位置、方向、全て自由に弄れる。これなら帝都全体を凄い早さで捜索できる。

 とにかくまだそんなに離れていないはず。このあたりをどんどん千里眼で探していく。


 高速で動く俺の視点に、突如黒いひらひらとしたものが突っ込んでくる。必然、俺の視界はそのひらひらの内側となる。


 「……ぶっ!」


 見てはいけないものを……罪悪感……

 思わず吹き出してしまった俺を、近くにいた人たちは変なものを見る目で見ている。

 と、そんなことより続けなくては。しかしこの能力、最強の覗き技だな……


 ……あれ、セレスかこれ。それにすぐ横にシャルナもいる。


 じゃあさっきのはセレスの……

 ま、事故だ事故。


 とにかく俺は人の間を高速ですり抜けながら、

 2人のところまで進んでいく。


 「シャルナ、勝手に消えるな」


 「ごめんねっ」


 反省の色無しと。


 「そんでセレスはどうしたんだ?」


 「ふんっ、低劣で愚かなあなたなどに話すことではありませんわ」


 なんだこの言われようは。


 「まぁいいが」


 「ギルドにクエストを受けに行きますのよ」


 話すのかよ、よくわからない奴だな。


 「じゃあ一緒に行くか? 俺たちもギルドに用があるんだ。……そういえば、セレス。ハイラムさんは?」


 「どこかに消えてしまいましたわ」


 「そうか」


 まぁ探せなくもないだろうけど、場所がある程度絞れていないと……

 できることにすらさっき気付いたばかりだし。それにハイラムさんは別に大人だから問題ないだろう。


 「……そういえば、あなた。私のことをセレス、と呼んでいますわね」


 「そうだな、つか最初からそうだったんじゃねぇ?」


 セレスティーナだなんて長い呼び方した覚えはないな。


 「……まぁ、いいですわ」


 いいのかよ、いまいち良く分からない奴だな。




 ★




 「うわぁ……大きい……」


 「マジでかいな……」


 俺とシャルナはギルドのあまりの大きさに、揃って声を上げた。

 

 それに人の数も半端ではない。これでは先が全然見えない。

 まぁそれについては千里眼というなんか便利な技が使えるようになったから問題ないけど。

 ギルドの中のとりあえず椅子に腰を下ろす。そして千里眼でギルドの中をざっくり見てみる。

 どうもクエストを受ける場所だけというわけではないらしい。店を開いている場所もあるし、なんかカードを弄ってる奴もいるし、サイコロ転がしてる奴もいる。あと麻雀みたいなのを……

 ここは遊び場なのか?


 しかし帝都ともなると、集まっている人もなんか強そうなのがいるな。

 まあパッと見だし、別に過信とかじゃなく俺より強い奴なんか1人もいないんだろな……


 「兄ちゃん」


 誰かに声を掛けられた。

 金髪、それにバンダナをしている変な男。ピアスがいっぱいついている。なんかみるからにヤンチャという感じだ。


 「ちょっとやってかない?」


 手にはトランプを持っていた。この世界にもあるのか……

 しかし、カードの山が全て見える俺にその勝負を挑むとは愚かだな。



 ★



 金塊ちらつかせて、この世界のお金をちょっと稼ぐことができた。

 こうなると、やってること完全悪人だけど、あいつらイカサマしかけてきたし、多分この人の集まる場所でセコセコお金集めてたんだろう。

 被害者側からの些細な仕返しだ。まあ俺は被害者にはなり得ないけど。


 「す、すごいですわね……あなた強すぎよ」


 「リュウスケ……何者っ!?」


 2人はただただ驚いていた。


 「悪魔のようでしたわ……」


 いやまあ、どちらかというと神様のほうなんですが。

 

 ――遊んでいるのもこれくらいにして、クエストを受けないといけない。

 

 と、真面目なことを考えた時に気付いた。

 なんで、俺のほうが主よりも仕事に一生懸命になってるんだ? 思えば、帝都に来ていきなりシャルナは甘いものを食らい、ドレスに飛びつき、遊びまくっている。

 まあ俺も先ほどヤンチャっぽい詐欺青年をかもったんだけど。


 「じゃあ、クエスト受けるか」


 「え? クエスト?」


 シャルナは「何を言っているの?」とでも言いたげな顔をしたが、直後に失敗に気付いたらしい。


 「シャルナ」


 「は、はい……」


 「忘れてただろ」


 申し訳なさそうに、というよりはちょっと恥ずかしそうにシャルナは俯いてしまう。


 「遊ぶこと考えてただろ」


 「そっ、そんなこと!」


 「……」


 無言の圧力。これが持つ凄まじい威力を、俺は身内にキッチリと教えられている。ちなみに妹なんだがそれはどうでもいい。

 ただ無気力にシャルナの目を見つめる、それだけでものすごい精神に重圧が掛かることを俺は知っている。


 「うん……」


 そして認めた。


 「なんで俺のほうが一生懸命なんだよ!」


 俺は怒鳴った。


 「だって帝都楽しいんだもんっ!」


 すると開き直りやがった。なんて奴だ。


 「そうですわよ! 女の子はこういう場所に来ると楽しくて仕方がないのですわよ! それぐらい、男のほうはちゃんと考えないといけませんわ!」


 「はぁ!? なぜにそちらに援軍が!?」


 「そうだよっ! リュウスケは全く分かってない、だからもてないんだよ……」


 「うるせえ! 俺の何を知ってる!」


 生まれてこの方彼女がいたことないが、それがどうした。

 というか女2人して俺のほうを哀れむように見てるんじゃねえよ! 別にもてなかったわけじゃない、そうだ、もてなかったわけじゃ……

 くそ! 多勢に無勢。どうしようもないじゃないか。


 「漸く見つかりました……感動の再会です、私の胸に飛び込んできなさい、セレス」


 「なっ! 人前で何を気味の悪いことを……!」


 セレスの主人、ハイラム・ロックウェルが両手を広げながら歩いてきた。

 全身、ビシッとしたスーツを着ている。このぽかぽか陽気に実に暑苦しいのだが……しかもここは人が多い。


 「さぁ! 準備はできていますよ!」


 「こっちの準備は生涯整うことはありませんわ!」


 セレスは顔を真っ赤にすると、周囲を気にしながらハイラムさんの鳩尾に鉄拳を打ち込んだ。


 「うっ……ツッコミ、容赦ないな……」


 「はぁ、はぁ……」


 ハイラムさんは、口ほど痛そうでもない。

 

 「では、私たちはクエストを受けに行きます。あなたがたも、目的はそれでしょう」


 「あぁ、まあ一応な」


 シャルナを横目で見る。

 俺の視線に気付いたのか、ちょっと顔を赤くすると誤魔化すように笑った。


 「オホホホホ、ではがんばってください」


 セレスはなんだか露骨に貴族みたいな笑い方をしながら、人ごみの中に消えていった。


 「じゃあ俺たちも行くか?」


 「うんっ! そうしよ!」


 シャルナは笑顔で答えると、椅子から立ち上がった。

 どうやらもう頭の中に帝都で遊ぶということはないらしい。やはり、召喚士として強くなりたい的な思いも強いのだろう。


 とはいっても、闘うの実質俺なんだけどな。

 ハイラムは召喚士の方らしいけど、あの人は単体でもそれなりに闘えるみたいだった。

 まあ戦い方もいろいろなんだろう。


 人ごみの中をするすると進んでいく。

 シャルナは俺の横にピッタリとついている。俺は結構進むのに苦労しているのだが、シャルナくらい小柄だと本当にすり抜けるように歩いていけるようだ。

 そしてカウンターまでたどり着く。


 カウンターは全部で8箇所用意され、どれも全て女性が対応をしている。

 どうやら厳つくてごついおっさんが対応をするということは無いらしい。


 「いらっしゃいませ、クエストをお受けになるのは初めてですか?」


 ――なるほど、これが正しいギルドか。

 今思えば、タイラーさん適当すぎだろ……


 「2回目です!」


 シャルナが胸を張りながら言う。

 カウンターの女性はあくまで接客スマイルだ。


 「では、Fランクから「Aランクよ!」


 さすがに苦笑する女性、まあそうなる。Aランクのクエストって、内容めちゃくちゃだったからな。

 困った女性は、シャルナの横に立っている俺に確認を取ってきた。


 「大丈夫ですよ、前もAランクで問題なかったので」


 「え?」


 「とにかく大丈夫ですから」


 俺が言うと、女性はなにやら薄っぺらい書類を引っ張り出し、目を通した。

 そしてこちらに向き直る。


 「Aランクのクエストは今現在、6つ届いています。ですがどれも大人数でいくものなのですが」


 「大丈夫! リュウスケはすごく強いから」


 「は、はぁ……では、切裂き魔の討伐を」


 「なんだそれ……」


 警察の仕事じゃないのか?

 それに切裂き魔って、人間を相手にするのだろうか。


 「切裂き魔と言っても人ではありません。最近、帝都周辺の町をモンスターが次々と人をを襲うという事件が起きています」


 「でもそれって、探すのすげぇ大変なんじゃ」


 「いえ、住処はすでに判明しています。詳細な地図もあります」


 「つまりはモンスター1匹の討伐ですか」


 「はい。しかしモンスターの種類は不明です。なにせ町単位で被害が発生していますので、目撃情報が少ないのです」


 なるほど、町単位か……そりゃそうとうの化け物なんだろう。

 

 「それって切裂き魔って言うのか?」


 「微妙なところですね、ただ町中の人が切り刻まれ、建造物もかなり広範囲に刃物で切られたような跡を残しています」


 住んでいる人だけじゃなくて、建物まで壊していくモンスターか。

 

 「じゃ、これでいいか」


 「うんっ、そうだね」


 「え……受けるのですか?」

 

 「当たり前だろ。あんたが教えたんじゃないか」


 カウンターの女性は、せっせと資料を集めると、俺に手渡した。

 地図と、あとクエストの詳細。まあモンスターについての情報とかもあるが、あてになりそうなものはあまりない。


 その中に一枚の写真が挟まっていた。

 それは、町の写真のようだ。深く、大きく切裂かれた屋根。壁も、地面さえも深い傷がつけられている。

 めちゃくちゃだ。これはシャルナには見せないでおこう……


 「じゃあ行くか」


 「うん!」


 俺とシャルナはギルドを後にした。



 ★




 帝都の出口、ここは北側の出口だ。

 地図によるとモンスターの住処は、ここからさらに真北にある。さて、これは前のクエストよりもなんかやばそうな予感がする……


 「シャルナ」


 「なに?」


 「絶対に俺から離れるなよ」


 「え? うん、分かった」


 緊張感無いなぁ。大丈夫だろうか。


 俺とシャルナは目的地まで歩いて――行きはしない。


 シャルナの体を持ち上げて、俺は地面を蹴り空へと飛び立つ。

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