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第3話:メリケン山の珍道中

 メリケンマウンテン。

 魔物が巣食う山、ということらしい。今俺は山中をシャルナと一緒に歩いている。

 

 へっぽこな主は、山に入って以降、一瞬たりとも俺の服の裾を離そうとしない。しかしずっと涙目だ。怖いなら無理をしなければいいのに。まぁ背中を押すことになったのは俺だが。

 魔物はたまに現れる程度。一匹でもいることが問題なのかもしれないけど、巣食っているというほどでもない気もする。


 「うう……なに、あれ」


 「小屋か? なんでこんな場所に」


 俺が中を確認するために、小屋の方に向いて歩き出すと、シャルナは俺の裾を掴んだまま、地面に踏ん張って止まろうとする。

 顔を見ると、ものすごい真剣な顔をして、首を凄い速さで左右に振っていた。


 「だっ、ダメだよ! あれって絶対なんかあるよ!」


 「何かはあるだろうけど、それが目的だろ?」


 「とにかく開けちゃだめぇー!」


 シャルナがついに必死なのは、俺がシャルナをずるずる引きずりながら小屋のドアの前まで歩いてきたからだ。怖いなら手を離せばいいのに。

 とりあえず、ドアノブを回すが鍵が掛かっている。


 「開かないな」


 「じゃ、じゃあもういいよね……?」


 「いや、蹴破るが」


 「ダメだよ! 人がいたらどうするの!」


 「この山誰もいないぞ?」


 ドアを蹴ると、長方形のドアは一直線に小屋の中に押し込まれ、綺麗な穴を開けて小屋の向こう側の壁を突き破っていった。

 小屋の中には、骸骨がいっぱい居た。白骨遺体という方がいいか。これは……きつい。妙に生活観がある。というか生活してる。


 「きゃあー! 動いて……る……」


 「シャルナ!? 意識をしっかり持て!」


 黒目をくるくる回して、なんかいろいろやばいことになっているシャルナが地面に倒れないように支えながら、敵を見据える。

 骸骨……見た目はワイトそのもの。

 

 ワイト一家、計4人。全員こちらに迫ってきた。シャルナがついに限界を迎える。


 「いやぁー!」


 「お、落ち着け。あいつら高く見積もっても攻撃力300だ」

 

 とりあえず近づいてきたワイトAの頭を掴み、ドアで開いた大穴から小屋の外へと排出する。

 そして残り三匹も、掴んでは投げ、掴んでは投げ。

 小屋の中のワイトを全部彼方へと消し去った。


 「倒したぞ」


 「うう、もう帰りたいよぅ」


 「主よ、あきらめ早過ぎないか?」


 シャルナが歩けそうもないので、とりあえず俺は、世界を救う勇者ばりにたんすの中を物色する。中には、ワイトの代えの服と思われるボロ布がいっぱい入っていた。

 なんか……酸っぱい臭いがする。腐ってんじゃねぇか?


 都合よく回復アイテムや、小さなメダルは入っていなかった。しょうがないからシャルナを持ち上げて、ちゃっちゃと終わらせよう。

 物色を終え、シャルナに近づいた瞬間。轟音が響いた。そして地面が揺れる。


 「なんだ?」


 外を確認しなくては。

 なんだかシャルナは限界を超えて、泡を吹いてるけど、とりあえず外を確認しよう。


 「ギャオオオオオ!」


 「うわーお、ファンタジー? 赤い龍だからレッドドラゴン?」


 真っ赤な体に、鋭い目を持つドラゴンが、小屋の前にいた。

 どこからやってきたかは不明だ。たださっきの轟音はこいつがこの場所に着地した音と考えていいだろう。

 巨大、全長10メートルはあろうかという絵に描いたようなドラゴン。そいつがその巨大な体で突進攻撃を仕掛けてきた。シャルナは小屋の中。俺がかわせば小屋ごとシャルナに被害が及ぶので、避けることはできない。


 ま、避ける必要ないですが。


 巨大な龍のアギトを、指一本でとめる。指一本の意味は無い、ただの憧れです、夢がかないました。

 レッドドラゴンは驚いていた。だがすぐに次の攻撃のために、距離をとる。


 そして、息を吸い込んだかと思うと、広範囲に炎を吐き出した。

 これだとかわそうが、かわさなかろうが、炎は小屋、ひどければ山を襲い火事にする。それは困るので、うちわで扇ぐ感じで手をパタパタさせて風を起こしてみる。


 表現だけ見ればたいしたことは無いが、実際には台風の比ではない突風が炎ごとレッドドラゴンを吹き飛ばしている。


 「よし、俺ってやっぱ規格外だな」


 思いっ切り走る。

 なんと今発見したが、ある程度スピードをつけると、空気を蹴って空も走れるんだな。飛ばされるレッドドラゴンより速く、俺は空を走って追いつき、硬そうな頭をぶん殴る。

 レッドドラゴンは、吹っ飛ぶのでは無く、その場で塵となり消えた。


 決着がついたので、全速力で小屋に戻る。


 地面に着地すると、シャルナが小屋から出てきていた。


 「すごいねっ! やっぱりリュウスケはすごいね!」


 めっちゃ目をキラキラさせて、俺に羨望のまなざしを向けるシャルナ。さっきまでがくがくぶるぶるだった女の子だとは思えない。さすがは我が主。いや、褒めてるんだからな。

 

 「その意気だ……それで、あのワイトの軍隊はどうしようか」


 「きゃあああああ!」


 忙しい主だ。切り替えは早い、しかしパニックに陥るのも早い。


 とりあえず、ワイトどもを殲滅する。

 具体的には小屋を投げつけた。


 「キリが無いなー、これ終わるのか?」


 いっそ山ごと消してしまった方が早いんじゃないだろうか。

 小屋も俺が投げつけたから無くなったし、山の中をまた歩くことにしよう。


 辺りはまたすぐに木々に囲まれ、薄暗くなる。シャルナはすぐに落ち着きを失う。


 「だ、大丈夫……大丈夫……」


 と、思いきや、平静を保とうと努力しているようだった。まぁそれでも俺の服から手を離すことはしないが。


 「オーホッホッホ!」


 「ひゃっ!」


 頭上から突然高笑いが聞こえてきた。シャルナは驚いて俺の腰に抱きつき、離れようとしない。とりあえず上を確認してみるのだが、誰もいない。

 ……いや、遥か頭上、高い木の上の木の葉の影に人影が見える。


 とりあえずその木を揺らしてみた。


 「は、ちょっ何を……きゃあああああ!」


 声は女のそれだ。

 俺が木を揺らしたため、バランスを失い、声の主は枝に引っ掛かりながら落下してくる。

 魔物の可能性も否定はできないが、人の可能性もある。それに俺ならば何をされても問題ないので、シャルナを限界までそいつと遠ざけながら、片手で受け止めた。


 そいつは、小柄な女の子だった。多分俺と同い年くらいかと思われる。真っ黒ななぜの装束に身を包み、腰には剣を差している。

 真っ黒な髪を腰の辺りまで伸ばしていて、肌は白く、3歳児みたいだ。顔は、ビックリするほどの美人だ。多分10人の男が10人振り返った上に、求愛してくるだろう。


 「くっ……不覚!」


 そいつは俺の手から逃れると、剣に手を掛けた。


 「お、恩人に剣を向けるのか?」


 「うるさい! あなたが木を揺らしたからでしょうが!」


 「リュウスケー、あの変なのなに……?」


 「知らん」


 「へ、変なのですって? 下々の分際で……王女たる私になんという……」


 「(リュウスケ、こいつ痛い奴だよ!)」


 「(こら、聞こえたらどうする)」


 「まる聞こえですわ!」


 変な自称王女様(笑)の顔には、微妙に血管が浮かんでいた。それほどにお怒りということらしい。顔立ちはものすごく綺麗なのに、一発で台無しだ。


 「許しませんわ……私の黒魔術で、堕ちなさい」


 言い終わると、俺とシャルナの周囲に真っ黒なもやもやが出現した。


 「呑まれるがいいわ! オーッホッホッホ!」


 「いや、こんなもん目暗ましにしかならねえよ」


 片手で軽くもやもやを振り払う。

 開けた視界から覗く女の顔は、驚愕に染まっていた。俺も自分の力の凄さを知った時にはそんな顔してたと思う。


 「そんな……私の魔法が……」


 「終わりか?」


 「くっ! ならば、最後の――」


 言い終わる前に、一気に距離を詰め、女の額を指で突く。

 加減はしたが、それだけで女は凄い速さで地面を転がっていく。俺だけだったらいいんだが、あまり広範囲に攻撃されるとシャルナに被害が及ぶ。


 「つ、強すぎ……ですわ……」


 「まあ落ち着けって、闘ってもしょうがないだろ」


 女の元まで歩いていって、手を貸してやる。つもりだったが、女は俺の手を弾いて自力で立ち上がった。


 その様子に俺は、ついつい口元をにやつかせてしまいそうになるが、とりあえずは我慢して、自己紹介だ。


 「俺はリュウスケ。この子の使い魔、らしい」


 「……私にも名乗れというの? まぁ、いいわ。私は、セレスティーナ。セレスティーナ様と呼んで結構よ」


 「セレス」


 「なっ! わわわ、私をそのような……下々の分際で……!」


 「分かった分かった」


 顔を真っ赤にして、俺を睨みつけるセレスティーナから一旦目をそらし、シャルナを見る。

 

 「私は、シャルナ。よろしく」


 「ええ、こちらこそ」


 「えぇ!? 俺のときと対応違いすぎ……」


 「なんですの、この奴隷の分際で……」


 「ど、奴隷!? シャルナも何とか言ってくれ」


 「いや、あながち間違いじゃないわ。私のことはシャルナ様と――」


 「いやだよ」


 嫌に決まっている、年下の女の子に好き勝手言われて、喜ぶのは変態だけだ。そして俺は完成されたノーマル。純粋。つまりそんなこと嬉しくもなんとも無い。


 シャルナは、なんで!? 見たいな顔をしているが当然だ。


 「セレース! 探したぞー!」


 また頭上から声がする。セレスティーナの事を呼んでいるから、こいつの仲間だろう。

 それはいいだが、おかしいな。めちゃくちゃめんどくさい気配がするのはなぜだ?


 上から背の高い男が降りてきて、目の前に着地した。

 

 背は、190くらいだろうか。すらっとしていて、顔もかなり良い線いってるだろう。茶髪の短めの髪、鋭い目が印象的だ。


 「ん? 誰だい君たちは?」


 「あぁ、俺はリュウスケといいます」


 「私はシャルナ。リュウスケの主人よ」


 「私はハイラム・ロックウェル。セレスの主人です。どうもセレスがお世話になったようで」


 めんどくさい、なんていう予感は気のせいだった。めちゃくちゃ常識人。

 口調も丁寧で大人びている。


 「では、行きましょうか、マイスイートエンジェルセレスちゃん」


 あれ? おかしいな、普通の流れだったのに、最後の最後でなぜかこいつが変態だと確信してしまったぞ。これはきっと何かの間違いなんだ。

 だから念のため確認しよう。


 「ちょ、ちょっとハイラムさん」


 「ん? どうしました?」


 「さっきのとこ、もう一回言ってもらっていいですか?」


 「ん? どうしました?」


 「いやいや、その前」


 「マイスイートエンジェルセレスちゃん」


 ビッグスマイル……

 いや、それ犯罪! やべぇ、常識人どころかこの人ほっといたら法のライン踏み越えるよ。人として超えちゃならないラインを余裕で超えるよ。


 シャルナはあまりの状況に、俺にしがみつき「気持ち悪いよぉ」と本気で嫌悪感をあらわにしていた。

 そしてセレスティーナのほうも、表情が曇っている。


 「もういいかい? では、セレスちゃん。2人で愛を……」


 「離れなさい下等種ゲスが!」


 ハイラムさん、いや。変態さんがセレスティーナに突き飛ばされ、地面を転がる。

 でもセレスティーナさん。下等種ゲスは酷いんじゃないかな。


 「あぁ、いい。もっと私を罵ってくれたまえ」


 「き、キモイよ……」


 「同感だ」


 「はぁー、こんな主人いやよ……」


 「俺って、シャルナの使い魔でよかった」


 「あ、当たり前よ。感謝しなさい」


 いや、まず召喚しないでほしかったというのが最初にあるんだが。


 「どうしたんだ、セレス? 今日は随分と控えめだね」


 控えめ……だとぉ?

 下等種ゲス呼ばわりが控えめなのだとしたら、この変態は日常セレスティーナになにを言われて何をされているんだ? 事としだいによっては両方変態なのでは……


 まぁ他人の関係に口出しするのもあれだから、放っておこう。それよりも気になるのは――


 「ここで何してんですか?」


 「当然、クエストだ」


 「俺もですよ」


 「なるほどね、仕事がバッティングしたわけか……」


 変態……ではなくハイラムさんは、しばらく考えこみ、少ししてから顔を上げた。


 「では協力しよう」


 「はぁ、それはいいですが」


 「ではよろしくね」


 ハイラムさんが握手を求めてきたのでそれに応じる。

 別にどうでもいいんだけど、ここで握手するのは俺ではなくシャルナのほうではないか?


 俺と同じ疑問シャルナも行き当たったらしく、首をかしげた跡で俺のほうに向かってきた。


 「なんでリュウスケが主人っぽいことしてるの!?」


 「おやや? よく見れば君も可愛らしいね」


 「ひぃっ」


 シャルナが露骨に嫌そうに、俺の後ろに隠れた。


 「嫌われてしまってるね、なぜだろう」


 本気で疑問に感じているから怖いな、この人。



 

 とりあえず共同戦線を張ることに決めた俺たち4人は、早速行動を開始、といくはずだったが、周りにただならぬ気配を感じ、立ち止まった。

 ただ1人、人数が増えて安心しきっているシャルナだけは頭にクエスチョンマークを浮かべている。


 「多いね……」


 「ふん、女王たる私に、数で挑もうなどと、無意味なことを」


 「ほんと、無意味なんだが、集まってくれてるな好都合じゃね?」


 俺は全力で駆け出した。

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