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第18話:炎の使い魔

 ――ふんっ! はぁっ! せいっ!


 ベッドで眠っていた俺は、そんな声を聞きながら目を覚ました。なんだ、朝っぱらから。まだ……夜が明けきって無いぞ。眠気眼をこすりながら、起き上がろうとする俺に「うるさいっ!」と罵声が飛ぶ。


 「俺じゃねぇよ……」


 同じく眠そうなシャルナが、寝間着姿で俺の部屋に入ってきていた。


 「それは分かってるよ……あれってリュウスケの弟子なんだよね?」


 「弟子にした覚えは、ねぇ」


 窓から外を見ると、まだ薄暗いのに、汗をかきながら剣を振っている男が1人。昨日、帝都で勝手に俺を師匠扱いし始めた少年、ルーク・スタンフォードだ。いろいろあって、この村で暮らすこととなったのだが、こいつの住んでいる場所は、タイラーさんのギルドのはずだ……そして、ギルドからこの家までは、普通に歩けば15分くらいかかる距離のはず。


 「なんでわざわざここで剣を振ってんだよ」


 窓を開けて、苦情を言う。


 「あ、おはようございます!」


 「お、おはよう……で、何でここなんだよ、ギルドでやれよ……」


 「いや、でも、タイラーさんがやるならここでやれって」


 「あのやろう!」


 なんだかんだ、あいつのせいか。面倒なことはこっちに押しつけてきやがった。そりゃタイラーさん的にも、家であるギルドの前で朝からふんふん剣を振られたら、そりゃあめんどくさいしうるさいし、迷惑だろう。


 「場所変えてくれ……」


 「え、じゃあ教えてください! 修行場所を!」


 「……はぁ?」


 「修行場所なら、師匠に聞くのが一番早いって……タイラーさんが!」


 ……仮に、俺がこいつと同居することとなったなら、真逆のことを俺はしたかもしれない。剣を振るなら、ギルドに行け。場所なら……この村に詳しいあのおっさんが教えてくれる、と言っただろう。

 まさかここまで考えて、最善の手が、あえて寝床の提供だけして、さらに雑用の手を増やせるこの方法だったというのか……!? 侮れない。日中は体育会系のこいつは、絶対に家の中に籠るようなことはしなさそうだしな。


 「やられた……しょうがない、探すか、修行場所」


 毎日家の前でふんふんやられるのも迷惑だ。

 なんだか、本当に師匠みたいになってきてるんじゃないかと、少し不安だ。



 とりあえず、近くの森に、修行場所を求めることとした。シャルナは今日は、やることがあるとかで修行場所探しにはついてこない。めんどくさい、という理由では無いと今は信じておこう。村からは出ないらしいから、一応使い魔である俺が、一緒にいる必要も無いだろう。

 

 「リュウスケさんは、使い魔なんですよね……魔法使いなんですか?」


 道中、ルークがこんなことを聞く。俺は歩きながらそれに適当に答えた。真実を語るならば、『神様百柱分の力を得た、もと一般の高校生』だが。


 「近いかな、少し違うんだが……魔法も使えなくはないだろう」


 「じゃあ、魔法の素養はあるんですね……すごいなぁ……」


 「魔法の素養?」


 魔法の才能的な、そんなイントネーションの言葉のようだ。


 「俺は魔法が全く駄目なんですよ……そういう人も多いんですけどね。こればっかりは生まれ持った才能みたいなものなので、どうしようも……」


 「へー……召喚術というのも、魔法なのか?」


 「はい、そうですよ。魔法の事は詳しく知らないですが……魔法の一種であることは確かです」


 ――シャルナは魔法が使える、ということだよな。

 召喚師、というのも魔法使いの一種であるという理解でいいだろう。召喚した使い魔が、召喚師としてのステータスだとすると……使い魔自身である俺が言うのもなんだけど、超すごい召喚師ということになるんだろうか。

 しかし、召喚される直前までは――いや、正確には召喚過程であろう、俺が訳の分からないマーブルの世界を流されている段階では、俺はごく普通の高校生だった。俺がこんな能力を手にしたのは、俺自身としても、神様達にとってもハプニングだったのだから……やっぱりシャルナは見かけどおり頼りない魔法使いなのだろうか。


 「そうなると、シャルナさんは、リュウスケさんのような物凄い使い魔を呼びだしたんだから……凄い召喚師なんですね」


 やっぱりそういう結論に至るのか……どうなんだろう。頼りない主としての側面しか見た覚えは無いが、実は凄い魔法が使えたりするのかな。


 「さあな、どっちにしても、俺が一瞬で片付けちまうから」


 こんな言葉が自分の口から出たことに、言い終わってから驚いた。シャルナを守る、使い魔としての自覚か? そんなものが芽生えつつあるのだろうか、ああ怖え。


 「しかし、修行場所って、案外無いな……」


 「そうですね……」


 そもそも道という道すらなかった森の中だ。開けた空間など、あるはずもないか。無ければ……作るか。これも、騒音を防ぐための作業だ。決して、師匠が弟子のためにやる行為ではない。


 「ちょっと後ろに下がっててくれ」


 ルークが俺の後ろに下がったことを確認し、地面を蹴る。表面を削るように蹴る。それだけで、地面がえぐれ、木を薙ぎ倒していく。大地震でも起きたような轟音が響き渡り、土砂崩れのようにえぐれて持ち上がった土が、森の全てを押し流していく。

 森の中に、平らな地面が出現し、さらにその先には、小高い丘が形成された。


 「こんな具合か……」


 「さ、すが師匠……めちゃくちゃですね……」


 ルークは若干震えているように見える。武者震いか、違うよな。あり得ない光景にかなり驚いた、というところだ。丁度、目の前にUFOでも着陸したら、こんな表情をするんじゃないだろうか。

 少しして落ちついたルークは、剣を抜いてその場で数回振る。それから、こちらに向き直った。


 「師匠、お願いします!」


 「あぁ?」


 俺は、苛立ちを含ませた言葉を発するが、よくよく考えれば、ここでこいつの修行とやらを放っといて、村に戻ったとして、主不在の俺がやることは無い。村で交流があるのは悲しいことに、あのおっさんだけだ。

 まぁ、交流に関しては、これから頑張っていこう、と思うが今の現状というとだ。俺にはこいつの修行に付き合うくらいしかやることがない。


 俺は1つため息をついて、決めた。


 「今日だけな、今日だけだぞ!」


 俺が念を押すと、ルークは「はい!」と良い返事をする。可愛げゼロの、体育会系の返事だ。元の世界で、野球部の連中はこんな感じだった。


 「……つっても、剣の事は知らないからなぁ……授業で剣道をやったくらいだからな」


 その辺の枝を折って持ってくる。竹刀に比べると、軽い。まぁ、樹齢1000年の大木でも、今の俺にとっては発泡スチロールと大差ないと思うけど……

 授業を思い出しながら、枝を構える。そして右足を踏み出し、左足は後からついて動く。それと合わせて、体を前方に移動、そして上段に構えた竹刀に見立てた枝を腕の力で振り下ろす。


 ブォン、と風邪を切る音。同時に枝が根元から粉砕し、大気に散っていく。直後、遅れて巨大な衝撃が発生。地面をえぐりながら衝撃は突き進んでいき、土砂で形成された小高い丘を抉っていった。


 「――何事だ!?」


 これには驚いた。

 学生時代を思い出しながら、全力で枝を振るったのが悪かったのだろうけど、枝だぞ!? 細くて、子供でも折れるような、枝だぞ!? 


 「達人は……武器を選ばないと聞きましたが……これが本物……ですか……やはりすごいです師匠は!」


 ルークが目をキラキラ輝かせている。


 「だ、だが、これは修行したところで俺にしかできない技だ! 伝授することはできない」


 「そ、そうなんですか……残念です」


 露骨にがっかりしているのが分かる。でも、これは技でも何でもないんだ。ただただ、腕力任せに枝を振っただけだからな。


 「剣を教えることはできない、むしろ教わりたいくらいだ……俺のは全部力任せだからな」


 「そうなんですか……? では、師匠はどうやってそれほどまでに強くなったんですか!?」


 『それは何かの手違いで、神様の世界に落下。神様の力の源らしい神の源を、規定量の100倍体内に取り入れたからなんだ』とは言えない。神様から口外しないように、言われたし、俺自身としてもあんまり人に知られたいと思う話でもない。ただ、願って手に入れたわけでも、苦労して手に入れたわけでもないのは事実。


 「……偶然だな、突然強くなってしまったんだ。俺自身にもよく分からない」


 だから、と付け加える。


 「普通に喋ってくれ、俺は師匠になるような人間でもないし、それだけの技量も無い。それに、堅苦しいのは好きじゃないからな」


 「わ、分かった! これからは普通にすることにするよ師匠!」


 「呼び方から直そうか」


 「お、おう!!」


 敬語は抜けたようだけど、やっぱり暑苦しいのはデフォルトみたいだ。




 しばらくふんふんと剣を振るうルークを、ぼーっと眺める俺。とりあえず、暇だ。まだ朝だ。この馬鹿がものすごい早朝に来たものだから、まだ朝食にも少し早い。多分、シャルナも戻ってきてはいないしな。簡単な朝食くらい作れるが、1人で食べてるのもちょっとさみしい……かといってルークと2人で朝食なんかは嫌すぎる。


 「――ふぅ! やっぱり素振りだけだと物足りないなぁ……」


 一段落ついたらしいルークが呟いた。


 「ししょ……リュウスケ! さん……軽く相手になってくれ!」


 「あの丘と同じ目に会いたいのか?」


 「うっ……」


 さすがのルークもビビったらしい。当然、冗談だ。やるとしても、全力でやるわけじゃない。それに武器も無い。まぁ素手でも負ける理由が見当たらないが。


 「……そうだ、ルーク。魔法については、知識はあるんだよな?」


 「? そりゃまぁ、一時は修行したから……俺には魔力が無いから無理だったが……」


 「どういうものか教えてくれないか?」


 シャルナが少なくとも召喚術は使えるし、ハイラムさんの使い魔の、セレスは魔法を使っていた。ならば俺にだってできるんじゃないか、と思うわけだ。


 「魔法というのは――」


 ルークは説明を始めてくれた。


 要約すると、魔法とは――


 魔法の素養、『魔力』を持つ者のみが使用可能な技である。

 『魔力』とは、素養のある者の体内でのみ生成され、原則体外から取り入れることはできない。故に、素養の無いものに魔法は使えない。

 体内で生成された魔力を、『属性変換』し、さらに『形状変化』させ、それを放出することを『魔法』という。


 「なるほど」


 「今ので分かったか?」


 「だいたいは……とりあえず、その魔力というのが俺の中に存在しないと話にならないわけだ」


 と言ってもこれに関しては問題無い、気がする。俺は、自分の中でいくつもの『力』が渦巻いているのを何度も感じている。それがなんなのかは分からない。何をしても減少する気配が無い、とてつもなく大きな力だ。

 そこから、魔力と思われるものを引っ張ってくる。簡単な作業だ。


 俺の全身を、薄紫の何かが包み込んだ。


 「こんな感じかなぁ……」


 「すごい……こんな全身から魔力を放出できるなんて……」

 

 とりあえず、第一段階はクリアのようだ。そしてこれを、属性変換と、形状変化させる。


 とりあえず、ポピュラーな魔法のイメージとして、『火』。ただ全身を包んだ状態で、これを火に変換してしまうのは、少し危険な気が……自ら火ダルマになるような気がしてならない。

 まずは魔力を右手に移動させる。

 

 そして、『火』に変換する。俺の右手がぼうぼうと燃え始めた。


 「――熱くは無いな」


 さて、形状だ。とりあえず、『剣』でいいか。


 「炎の刃と化せ」


 ちょっとカッコよく言ってみたりした。恥かしい、しかし口から出すのは有効なことだと思う。言霊、なんて言葉もあるし、何より言葉にしてしまった方が、イメージも纏まりやすいだろう。

 俺の右手から、長さ5メートルは優にあるだろうという、炎の超巨大直剣が発生した。


 「す、すげぇええ! やっぱり師匠だ!」


 「師匠はやめろ!」


 「す、すまん! でも、リュウスケやっぱりすごいぞ!」


 ま、褒められて悪い気もしないが……


 「で、これどうしようか。せっかくだから……」


 あたりに良い的は無いか探す。丁度俺の視線の一直線上。形は先の一撃で崩れてはいるが、小高い丘がある。


 「あの丘で良いか」


 炎の剣を天高く掲げる。超高温の剣は、存在しているだけで大気をじりじりと焦がしていく。おそらく、この周辺の気温は今、ガンガン上昇しているだろう。生態系に影響を及ぼすのは悪いから――まぁ、木々をぶっ飛ばして修行場を作った奴のセリフでも無いが――さっさと終わらせよう。

 俺は炎の剣を降ろし、そして少し離れた位置にそびえている、小高い丘に突き刺した。


 炎は、接触面から一気に丘に広がり、土を焦がした。さらに俺は深く剣を突きさす。


 そして剣にさらに魔力を込める。熱量が上昇したのか、剣はさらに巨大に、熱くなった。


 土砂でできた小高い丘は、急上昇した炎の熱の力と、それが巻き上げる空気に押され、消し飛んだ。


 俺は、魔法を習得した。

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