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第17話:ありがたい贈り物

 「……そういえば、メリッサがいないな……」


 俺がぼそっと呟くと、それにシャルナが反応する。


 「あの子なら、帝都に残るって言ってたよ」


 「ここにか? まぁ、もともと俺たちと一緒にいる義理があるわけでもないから、あんなちんけで田舎くさい町に帰るよりはそりゃいいだろうな」


 ただまぁ、メリッサは小さな女の子なわけで、1人帝都において帰ることに一抹の不安は残る。まぁこう心配する義理も本来無いわけで……

 探すあては――ある、帝都全体を千里眼で見渡せば見つかるだろうし、帝都にいなかったとして大陸……最終世界を見渡せばどこかにいるだろう。ただまぁ、この能力って……プライバシーとか完全無視なんだよな。だから極力使いたくは無い。


 「まぁ心配だがしょうがない、帰るか」


 「え、帝都から帰るんですか!?」

 

 俺の言葉にややオーバーなリアクションで答える少年。

 ルーク・スタンフォードは、俺に断られたにもかかわらず、弟子入りとやらを諦めずに今も俺の横に立っている。


 「あぁ帰る。だからお前も帰れ」


 「つ、強くなるまで、村には帰らないと誓ったんです!」


 「あぁ、じゃあ失せろ」

 

 バッサリと切り捨て、俺はルークに背を向けた。そして一歩踏み出した。すると、後ろからルークは俺の肩を掴んだ。何としてでも、俺を師匠としたいらしい。肩を掴んだ手から、絶対に離さないという決意が伝わってくる。

 だが、お断りだ。俺は強引に肩を振りながら一歩歩みを進める。ただそれだけで、凄まじい慣性の力を受けて、ルークは前方に吹き飛んだ。


 近くで女の子が攫われようとも見向きもしない連中は、飛んできた少年を慌てて回避した。ルークが地面を転がる。


 「さっきも言ったがな……俺は誰かに戦いを教えられるような人間じゃない」


 「ぐっ……な、なら、何も教えてくれなくてもいいです……俺を、連れて行って下さい!」


 「……はぁ」


 どうしようか。俺はシャルナに目で問うてみる。そこで後悔した。我が主である少女シャルナは、きわめて善良で、優しい人格を持った少女であったのだ。


 「連れて行ってあげるくらい……いいよ」


 くっ……多少きついところがあったり、時たま使い魔に対する扱いがあれな場合もあるが、根は良い子なんだ。ここは俺の独断でも、この少年を置き去りにすべきだったか……なんか、それも俺が悪人みたいに見えて嫌だな。

 まぁいいか。シャルナの言うとおりだ。俺はこういう人間は、多少めんどくさいとは思うが嫌いではない。何も教えなくていいと言うのなら、連れて行ってやらないことも無い。


 「……分かった、ただし衣食住の管理は自分でしろ。タイラー……町の長には話を通してやるが、あとは全部自分でやれ。いいな?」


 「はい! 師匠!」


 「あと師匠もやめてくれ……リュウスケでいい」


 変な弟子……いや連れができてしまった。


 俺はシャルナを抱き上げ、ルークの頭を掴んだ。


 「え、なんですかこれ!?」


 ルークの言葉を無視、帰るべき町を千里眼で確認する。3人が直接瞬間移動で現れても大丈夫な場所を把握し、その場所に瞬間移動する。

 一瞬にして周りの世界が変わる。

 華やかな街並みも、ものすごい数の通行人もいない。周りには植物が自生し、僅かな、顔を見たことのある人がいる町に俺は帰ってきた。


 「とりあえず、ギルドに顔出すか!」


 俺はこの町で一番大きな建物である、町のギルドの入り口まで歩いた。

 帝都に比べるととてもしょぼい扉。俺はそれを、蹴り開けた。ゴウン、と轟音が響き、扉は壊れそうな勢いで開いた。手加減はしたが、壊れなかったのは偶然だな。

 

 奥から慌ててごついおっさんが飛び出してくる。ギルドの管理人、タイラーさんだ。


 「おい! 壊す気か!」


 「しょうがないだろ、両手ふさがってるんだから」


 「降ろせばいいだろ! あと、誰だそのがきんちょ……? あとおかえりシャルナちゃん……結果は聞いているよ、おめでとう!」


 「ありがと!」


 相変わらずシャルナ……というか小さい女の子にはあまあまの禿げ親父だな。


 「それでタイラー、いや禿げ。こいつの名前はルークっていうんだがな」


 俺は頭を掴んだままルークをタイラーさんの眼前に突き出す。タイラーさんは若干退きつつ、目の前の少年を観察する。うわぁ、すげぇ興味なさそう。こいつ俺に対してもそんな感じだったよな……男に用は無いってか。


 「まぁ、とりあえず、降ろしてやれよ。あと、誰が禿げだおいィ!」


 巨体が突如立ち上がり、両手のふさがりっぱなしの俺のボディーを狙う。がら空きの鳩尾にタイラーさんの拳がクリーンヒットするが、ダイヤモンドよりも硬そうな、俺の腹筋がそれを止める。メシャ、と明らかに人体を殴った時とは違う音が響く。


 「うぐ……相変わらずの化け物っぷり……」


 「うるせぇ! 話が進まないだろ!」


 「しかし俺は禿げてねぇ……」


 「分かった分かった……それでだ。このルークだがな、このちんけな村に住みたいんだとよ」


 「ちんけは余計だ……」


 痛みが抜けないのだろう。俺の腹筋を殴った腕をさすりながら、タイラーさんはルークの方を見た。とりあえず、掴みっぱなしだったルークの頭を離す。


 「ルーク・スタンフォードです! 俺は、強くなりたくて、リュウスケさんの弟子にしてもらいたくて、ついてきました!」


 タイラーさんは一瞬困惑したが、すぐに納得したらしい。 


 「俺はタイラーだ。ギルドの管理人をしている。それで……事情は分かったが、今空き家は無いぞ? シャルナちゃんの家に泊まるとか考えてるんだったら……殺す。俺はもう、この変態使い魔1人で限界なんだ……」


 俺はタイラーさんの背中に蹴りをぶち込んだ。かなり威力を加減してはいるが、俺の世界の最強の格闘家でさえも及ばないレベルの力は込めた。

 タイラーさんの体は浮き上がり、家具を巻き込みながらギルド内を転がった。


 「余計なこと言うな、話が進まないだろ」


 「ぐふっ……帰ってきてから、ツッコミきついな……」


 あんたのせいで苦労してるからな。

 

 痛そうに腰をさすりながら、タイラーさんは話を続行する。


 「だからまぁ、泊るなら俺の家……と言ってもこのギルドだがな。一応客用の宿泊室はある。そこを貸してやろう」


 「あ、ありがとうございます!」


 「ただし、条件がある。掃除、洗濯、炊事……は期待していないが、薪割りなんかも入る、いわゆる雑用係をやってもらおう」


 このおっさんが、子供とは言え男相手に無料で済む場所を提供するわけは無い、と思っていた。案の定無料とはいっていないが、かなり良心的なんじゃないかな。

 世の中無料で住む場所なんかまず見つからない。それに、こいつは修行どうたら言ってるから、そういう雑用全般も修行の一環と思えばいいことだ。俺が稽古をつけてやろうなどとは、微塵も思わないが。


 「はい! 薪割りなら得意です!」


 良い返事をする。なんというか、体育会系というやつかな。俺とは正反対だ。嫌いではないんだが、暑苦しいタイプというか……疲れる。こいつとひとつ屋根の下はごめんだ。タイラーさんのシャルナ溺愛が、ここにきて初めて俺に利した。


 話もついたようだから、俺は、シャルナの家に戻ろうと、その場で回れ右をしてギルドを去ろうとした。が、俺の肩を掴む者がいた。ごつい手だ。ルークではなく、タイラーさんが俺の肩を掴んでいる。


 「……なんですか?」


 「メリッサちゃんはどうした?」


 そういえば、メリッサともこいつは面識があったな……シャルナの年の近い女の子だ、このおっさんが失念しているわけも無いわけで、居なくなっているとあれば当然の疑問だ。


 「帝都においてきた。と言っても、自分で残るって決めたらしいぞ」


 「そうか……」


 タイラーさんは、意味深な表情でつぶやいた。

 ――なんだ、いつになく深刻な……


 「残念だなぁ……! まだちっとも仲良くなっていないというのに……!」


 あ、違った。欲望に溢れていやがる。しかもこいつ、ガチ泣きしてやがる。相当メリッサのことも気に入っていたのか……俺に言わせてもらえば気持ち悪いことこの上ない。そんな奴に肩を掴まれたままだったのが不快なので、俺は無理やり肩を回した。タイラーさんの巨体は軽々宙に浮かぶ。


 「な、なんでだぁあああ!」


 叫びながら、回転し宙を舞う。キラキラと光を反射させながら飛び散る大粒の涙を、俺はかからないように丁寧に回避する。

 ドタン、と大きな音を立てて床の上にタイラーさんが落ちる。


 「……相変わらず、変態だな。用はそれだけか、帰るぞ」


 「い、いや……まだ、何も、話してねえ……本題は、これだ……」


 タイラーさんは、ポケットから小さな箱を取り出した。それと合わせて、何か文章の書かれた紙も持っている。結構、しっかりした紙質のもののようだ。一体なんだろう。


 俺に受け取れということなので、受け取る。箱の中身は腕輪のようだ。サイズはフリーサイズ、というか調整できるらしい。2つ入っているのは、俺とシャルナ2人分ということだろう。1つをシャルナに手渡しておく。紙に書かれているのは、この腕輪の説明のようだ。


 「えっと……『この度は、Aランク召還士、使い魔への昇格おめでとうございます。ささやかですが、褒章の品と、腕輪をお送りさせていただきます』……褒章の品はどこだ?」


 タイラーさんに言うと、一瞬巨体はビクッと反応した。


 「……ちっ……後で、シャルナちゃんの家に届ける」


 「絶対だぞてめぇ」


 念を押しておく。「分かった分かった」と、タイラーさんは残念そうに言った。これだけ残念そうなのだから、しっかりと褒章の品は諦めて、シャルナの贈られるだろう。


 「『腕輪は、サイズの調整が可能です。滅多なことで壊れることはありませんが、紛失なされると新しいものをお贈りすることはできません。サイズはぴったりにして、外れないようにしてください』」


 説明通りに、腕輪のサイズを調整する。そして腕にはめる。腕輪のデザインは、実にシンプルで、銀製だろうか……それとも銀によく似たこの世界にしかない物質でできているのか、それは分からない。とくに宝石類がついているわけでもなく、腕輪全体には細かく文字のようなものが彫り込まれている。


 腕輪は、カチャンという音を立てて腕にはまった。


 「……ん? なんだこれ!?」


 腕輪が光っている。

 それもどんどん光が強くなっている。なんだ、なんなんだこれ。なんだか危ない感じがしてきた……


 「シャルナ! 危なそうだからこれつけるな!」


 「え、え!? うん!」


 シャルナは慌てて手放し、床に放り投げた。カン、カン、と小気味のいい音を立てながら腕輪は転がっていく。現状、シャルナの方の腕輪に変化は無い。どうやら、装着した時点で変化が起こるらしい。


 「俺から離れろ! いや、俺が出る!」



 瞬間移動でギルドの外へと飛び出した。それとほぼ同時、腕輪の光がいっそう強まった。昔、科学の実験で鉄を燃焼させた時のような強い光だ。俺の手頸のまわりは、とても強い光に潰され、しっかりと視認することは厳しい。


 「くっ……どうなる……?」


 俺がそう発した直後、最後の変化が起きた。


 ドゴォン、と爆発音。それが俺の目の前を中心にして発生、村に響き渡った。

 どうやら、腕輪が爆発したらしい。俺の体は、恐ろしく丈夫だから、これくらい何ということは無い。熱を発生させたわけではなく、ただ強い衝撃が俺を中心に拡散しただけのようだ。故に服が燃えてしまったようなことも無い。


 ――腕輪は、跡形もなく消し飛んでいた。


 な、なんだこれ!? 訳分からねぇよ!

 

 『この腕輪は、あなた様と使い魔様のランクAを証明するものとなります。常に身につけておくよう、お願いいたします』

 紙の最後には、帝都の印らしいものが押されている。タイラーさんが受け取ったものだし、偽物ということも……無いはず。


 「大丈夫リュウスケ!?」


 シャルナがギルドから飛び出してきた。


 「ああ、大丈夫だ。……ったく、どうなってんだ」


 遅れてタイラーさんも出てきた。


 「まさか……爆発したのか? その腕輪は、帝都がAランクになった召喚士と使い魔だけに送る特別製、とてもありがたいものなんだが……」


 全員が訳が分からないという顔をしていた。

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