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第15話:帝都騒動

 元の世界で、聞いたことのある例のBGMが脳内再生された。

 てっててれれれーん、俺とセスは変態の称号を手に……


 ――そこにはすでに、赤い髪の少年はいなかった。


 「……あ」


 「「……」」


 2人の少女が、全裸……いや隠すべきところはちゃんと隠しているが、素っ裸の俺をじっと見ている。くそっ……俺だって今の体なら、その気になったらこいつらがこっちに来る前に逃げれたじゃないか!

 セスの方が正しい判断だったか……いや、違う! 何逃げてんだあいつ!?


 などと、俺が脳内葛藤を繰り広げていると、何かが顔面に直撃した。どうやら洗面器のようだったが、シャルナよ、それは鉄製なんだ。といっても俺の体が相手では、鋼鉄だろうとダイヤモンドだろうと豆腐と何ら差は無いが。


 俺は床に落下した洗面器を拾い上げた。見事に凹んでいる。俺の顔の強度も気持ち悪く硬すぎるんだけど、シャルナもシャルナでどんだけ力入れて俺の顔めがけてこれを投げつけたんだよ。

 とりあえず、凹んだ部分を力づくで修正しておく。


 「よし、一言だけ言っておく。これは、事故だ」


 それだけ言って俺は脱衣所に瞬間移動し、体に付着した水分を全身の筋肉を振動させて弾き飛ばし、衣服を身に付けた。

 そして脱衣所から出ようとした……が、後ろからシャルナが追いついてきた。

 髪も乾かさないで、最低限の衣服だけ着て飛び出してきたシャルナは、俺を怒鳴りつけるのかと思いもしたが、心配は杞憂に終わった。


 「今の、瞬間移動!? リュウスケ……そんなこともできたの!?」


 目をキラキラと輝かした俺の主は、どうやら自分の使い魔の新しい能力に夢中で、直後に発生した嬉し恥かし事件はとうに記憶から抹消なさったようだ。

 嬉し恥かしとは言ったが、俺はちっとも嬉しくなかったがな。


 ……そういや、初めて使ったんだが……人間、いや神か、神様ってやれば何でもできるんだな……


 とにかく、髪を乾かしてちゃんと服を着てから出てくるように促すと、我が主は元気良く返事をして脱衣所へと戻っていった。可愛らしいな。近所のお嬢ちゃんとしては100点だろうな。


 「……はぁ」


 なんだか疲れた。俺はため息1つついた後、部屋に戻ることとした。




 ★




 そのままベッドにダイブ、ばたんきゅ~……と寝てしまいたい。そして目が覚めたらこの世界にやってきてしまっただとか、なんかすげぇ神様の力を授かってしまっただとかは全部夢で、そしてまた……変わらない日常が始まる。

 ……俺は今、帰りたいと、真に願っているのだろうか。

 家族には……妹には会いたい。両親? なにそれ美味しいの? でもやっぱり、あんな父親母親でも大切な両親だ。会えないと思うと寂しい。

 この世界には、俺が求めた変化がある。新しい、刺激的すぎる出会いもある。なにせ会う人会う人が変人奇人としか思えないほどにぶっ飛んでいる。


 ――俺は、その気になれば何でもできる。


 多分、帰れるだろう。あの世界に。事実、ゼウスとかいうクソ神様も、神様の世界という別の世界からこの世界へと顔を出している。

 だが、帰ったところで、どうなるだろうか。俺はもう普通の人間ではない。


 変な能力を持つ人ばかりのこの世界だから俺はどうにか普通に使い魔として生きているが、元の世界に帰ったとすれば、俺の存在は完全にオカルトの分類。普通の生きて行くには、この能力を隠して生きて行くしかない。


 ……と、言っても多分、俺にはこの能力を捨てて今すぐあの世界に変える選択もおそらく取れる。俺はどうしたいんだろうか。


 俺がベッドに寝転がって考えていると、部屋の扉が開いた。

 ちゃんと髪も拭いて、服も着て、シャルナが戻ってきた。

 


 「瞬間移動だよね!?」


 「あ、あぁ、そうだ」


 「すごいなぁ……! そんなのが使える使い魔なんか、聞いたこと無いよ! でも、そんな便利な能力があるのに、なんでわざわざ空飛んで移動してたの?」


 「これはちょっと魔力の消費が激しくてな……」


 適当に流しておく。あまり追求されても自分でも詳しいことは知らないし、一応、神の源どうたらこうたらは、隠さないとやばいらしい。やばいのは、別の世界でのんびりしている神様たちだけだがな。


 「へぇー! リュウスケは、魔法使いなの?」


 「そうなるな」


 俺の答え一つ一つに表情を輝かせるシャルナ。

 召喚士としては、使い魔が強かったりすると、やっぱり嬉しいんだろうなぁ。元一般人の俺には完全に分からない領域だがな。

 まぁ強いといういのは憧れなんだが、強すぎるというのは考えものだ。こんな力を持てばこそ思いいたる境地に俺はいるのかもしれない。


 ――まぁ、こんな世界でこんな力を持たなければ体験できない状況に俺はいるわけだ。

 何という偶然なのか知らないが、決断を急ぐことも無い。それなりに楽しんでいる自分がここにいるからな。


 しかし、家族のみんなどう思ってんだろ……向こうでも時間が流れている、よなぁ……


 「そろそろ、帰るか」


 「えっ、帰るの? せっかく帝都なのに?」


 「……ちょっと見て回ったじゃないか」


 「えー、もっと見て行こうよ!」


 「また瞬間移動で連れて行ってやるじゃねぇか」


 「ほんと!?」


 目をキラキラと輝かせるシャルナ。どうも瞬間移動が気に入ったらしいな。


 「ああ、何度でも何処へでも」


 「え、えへへ……何処へでも……」


 どこを想像したのかは知らないが、どこかを想像してにやけるシャルナ。

 この世界に土地勘なんか全く無い俺には、この年頃の少女がこの世界で何処を想像してにやけているのか想像もつかない。


 しばらく妄想界を旅行してきたシャルナの精神は、またその小さな体へと戻ってきた。


 「で、でも……もうちょっと、遊んでいきたいし……」


 「はぁー……タイラーさんに報告しなきゃならねぇだろ? 終わったらいつでも連れて行ってやるから。一流の召喚士なら仕事を果たせ」


 「うぅ……」


 渋々、といった感じでシャルナは帝都から帰ることを決断したようだ。

 大会後、泊っていた宮殿から2人で出る。すでにセスとレティは帰ったのか、宮殿内にはいなかった。




 宮殿から出ると、華やかな街並みが広がっている。そりゃまぁ、こういう場所で買い物とかするのは、東京とかで遊ぶようなもんだろうから楽しいことは楽しいだろう。

 けどなぁ……センスが合わないんだよなぁ、この世界と俺は。

 なんというか華やかすぎる。


 瞬間移動は、触れている対象と一緒にどこかに飛ぶことができる、と思う。やったこと無いから分からないけど……


 「よし、シャルナ手を……」


 我が主、消失。

 いやぁ、都会怖いなぁ。人が多いから迷子になりやすい。ちょっと目を離したすきにこれだ。全く困ったな……


 「……あの野郎、1人でどっか遊びに行ったな……」


 めんどくさいな……でも、すぐ戻ってくるだろう。何せ、財布番は俺だ。シャルナは一銭も持っていないんだから、いくら都会とはいってもただ商品を眺めるくらいしかできない。どうせ飽きて戻ってくるのがオチ……


 「……ない」


 俺のポケットに入っていた、帝都のクエストの報酬が入った財布がない……

 

 「やれやれ……困った主だ」


 俺は近くに椅子を探し、そこに座った。

 目の前をどんどん人が流れていく。すごい人の数だ。しかもここは全世界……いや、他の世界からも人が集まってきているのだから、ありとあらゆる人種がいる。時々人種に当てはまらないよく分からないのまで居る。


 「はぁ……」


 俺は意識を集中させ、千里眼でシャルナを捜索することにした。

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