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第14話:やっちまったな日

 ランク戦が終わった直後、俺とシャルナ、メリッサはどこかに消えてしまったから知らないが、とにかく俺とシャルナは即行宮殿内のベッドに倒れこんだ。

 俺は肉体的には全く持って疲弊してないのだが、精神的にどっぷりと疲れてしまった。


 精神と肉体は直結しているというのは、あながち嘘ではない。というか本当だ。

 体が鉛のように重い。

 ふかふかの布団の上に体重を投げ出すと、俺の意識は一気に闇に落ちていった。



 


 ★





 ――やっちまった、という言葉は、まさに今使う言葉なんだろうな。


 「んんっ……」


 今まさに、目を覚まそうとしているのは、俺を召喚した召喚士、そんでまぁ立場上は俺の主になるシャルナ。

 多分夜中、1度も起きることなく、眠り続けていたのだろう。

 俺の腕の中で。


 とりあえず心の中で1つ。


 ――やっちまったよ!

 疲れていたとはいえ、油断していたぜ。というかシャルナも、なぜベッドは4つもあるのにわざわざ俺と同じベッドに倒れこんだよ!


 「……あ、リュウスケ……おはよ……」


 「あぁ、おはよう」


 「……きゃあぁああああ!」


 シャルナの拳が俺の顔面にクリーンヒットした。

 全くもって顔は痛くないのだが、なぜだか知らないけど胸の辺りが痛い……


 「へへへ変態! 痴漢! ロリコン! 強姦魔ぁああああ!」


 「ぬ、ぬあぁあ……シャルナ、その4連コンボは無いだろ……」


 シャルナは俺の腕の中から器用にするっと脱出すると、慌てて部屋から出て行ってしまった。

 ちなみに不可抗力、というか不慮の事故であり、俺にはロリコンだなんていう奇特な趣味も無ければ、決して襲おうだなんて考えてはいない。


 部屋は静かだ。

 この部屋は、宮殿の中にあるお客様ようの宿泊室らしく、ランク戦で決勝まで進んだ人には用意されているいわば景品らしい。

 だが、決勝の最初の方でセスにぶっ飛ばされた男2人組は、結構重症で、現在病室。

 セスは行方不明だそうだ。だから隣の部屋はレティという女の子が1人で使っている。


 アーサーとかいう男も行方不明だ。


 しかし、静かだ、虚しい。


 と、部屋の扉が空けられた。

 入ってきたのは、昨日からどこかに消えていたメリッサだ。

 いつもどおり、無表情なのだが、ちょっと表情が楽しげだ。


 「……なにか、嬉しいことでもあったか?」


 「……別に」


 これは嘘だと分かった。

 頬がゆるんでいる。普通の人だったら、それほどの変化でもないようだが、普段全く笑わないメリッサにとってこの変化は大きい。


 めちゃくちゃ気になるのだが、メリッサは部屋をぐるっと見渡すとまた出て行ってしまった。


 静寂が戻る。 

 

 と、空間がビシリ、と引き裂かれた。

 

 そこから顔を出したおっさんの顔面を、俺は掴み、こめかみに指をねじ込みながら引っ張り出し、壁に向かって投げつけた。

 ゴォン、と轟音が響き、おっさんは壁に激突した。

 だが壁には穴は開かなかった。さすがは帝都の宮殿のお客様用宿泊室。中々の強度だ。


 「少年は、目の前に光臨した神にアイアンクローを掛けた挙句、壁に投げるのか?」


 「うっせ、俺の中の神様は、ドアを開けるのりで空間を引き裂いて現れたりしない」


 完全無欠の最高神(笑)のゼウス様は、頭を抑えながらもこちらに歩いてきた。


 「だいたい、私でなければ死んでいるのだが?」


 「死なないと分かっているあんたにしかやらない」


 ゼウスはこちらを一度睨んだが、すぐに諦めて、ベッドに腰掛けた。


 「勝手に座るなよ……」


 「少年、本気で嫌そうであるが、私が一応神様だと認識しているか?」


 「一応(笑)」


 「わざわざ(笑)をつけるでない」


 ゼウスはやれやれと、肩をすくめている。

 こいつ、何をしに来たんだろうか。神様って案外暇なんだな。


 「ふぅー……少年」


 「なに?」


 「最近、目立っておるな」


 「うむ、少年はまだそれほど大きな力を使ってはいないが、それでも神の力というものは世界に響く、多少なりとも影響を与える。それに、今くらいのレベルであれば、上のものは何も言わんが、手を出してはいけない領域もある」


 「真面目、だなぁ」


 「たまには、な」


 ゼウスは立ち上がり、伸びをした。

 こうやって見てると、ただのおっさんなのになぁ。まぁそれを言い出したら、俺なんかものすごく普通の高校生にしか見えないか。というか普通の高校生で合ってる。


 空間にあいた裂け目に体を半分くらい入れ、顔だけを出す形となった。


 「では少年、気をつけるのだぞ」


 そして頭を引っ込め、空間の切れ目は消滅した。

 気をつけろって言われてもなあ。


 そういえば、この空間を切り裂く、技? だろうか、これは神様の成せる技なのだろうか。だったら、俺にもできるかな。

 どこでもドアみたいで、使えたら便利だと思うんだけどな。


 ……まぁ、必要ないか。

 速く走れるし、速く走っても疲れないからな。


 ――静寂が耳に痛い。

 ゼウスみたいなのでも居た方が良かったかな……いや、それはないか。


 大丈夫だとは思うけど、シャルナは1人かもしれないし、探しに行こうかな。


 俺はベッドから立ち上がり、体を見て気付いた。

 服着替えてない上に、体も洗ってない。といっても神様の力なのか、どうも体に傷どころか汚れも残らないようなのだ。

 それでも、やっぱり風呂は入りたい。

 宮殿の中にも、風呂くらいあるだろう、探してみよう。


 俺はそのままの状態で、部屋を後にすることにした。


 

 

 ★




 「いやぁー、異世界だろうと、風呂はいいねえ。というか、こんなお湯初めてだな~」


 宮殿内をうろついていたら、1階で大浴場を見つけた。

 入ってもいいか不明だったけど、見事な湯加減の湯がはってあるし、誰も入っていないみたいだから入ってやった。

 風呂があったらまず入れ。だな。


 しかしでかい浴場だな。もはや銭湯レベルだ。

 別に後で入浴代払えって言われたら払ってもいい。これは金を取れる湯加減だ。


 タオルを首に引っ掛けて、しばらくぼぉーっとお湯を楽しむ。

 湯気でぼやける視界の向こう側で、浴場の扉が開き、そして一糸纏わぬ生まれたままの姿の主、シャルナ・フィラデルフィアが現れた。


 ――なんというか、やっちまってるよなぁ、今日。


 当然シャルナは俺の姿に気付き、一瞬にして茹で上がったたこみたいに真っ赤になると、洗面桶を掴み、こちらに投げつけた。

 木製の桶は俺の顔面にクリーンヒットすると、砕けて木片となりはて湯船に浮かんだ。


 「なんで入ってるのよ!!」


 「あー……いや、確認しろよ! というか隠せ!」


 「っ!」


 漸く気付いたのか、シャルナは手に持っていたタオルを体に巻きつけた。


 「……うぅっ、なんなのよ、狙ってるの?」


 「断じて狙ってない。これはいわば事故だ、不慮の事故。あぁー不幸不幸」


 「それはそれで失礼だと思わないっ!?」


 シャルナに頭を後ろからしばかれた。

 とりあえず、一番お互いが落ち着きそうなので、俺は今壁を見つめている。


 「痛いなぁ、叩くなよ」


 痛くないけど。


 シャルナは完全にへそを曲げたらしく、それいこう口をきこうともしない。

 しばらくの静寂、だがそれを打ち破るように、陽気な歌声が聞こえてきた。

 そして浴場の戸がガラガラと開けられる。


 「ふーんふんふーん♪ シャルナちゃあああああああ! だ、だだだ誰!?」


 セスの主の、レティという女の子だ。

 俺は今、壁を見つめているから確証は無いが、まぁそうだろう。そしてシャルナだけが入っているものと思って入ってきたは良いが、俺の存在にビックリ仰天といったところか。


 「恥ずかしながら、私の使い魔よ」


 好き勝手言いやがるなぁ……


 「朝起きたら、私に、だ、抱きついていたし……」


 違わないけど違うんだけど。


 「ほんとろくでもないわよ」


 「そうなんですかー」


 信じちゃったじゃないか! 朝のも今のも、完全な事故だろ!


 「何で召喚したんだろう」


 「こっちが聞きたいわ!」


 「こっち向くな!」


 湯船に浮いていた木片を投げつけられた。

 めちゃくちゃだぜ、どこの世界でもちびっ子はわがままで女は理不尽なのか。


 「セスも大変だったのですよー」


 「やっぱり召喚士って大変よね」


 「はい! 召喚した日に私殺されかけたんですよ……」


 「く、苦労してるわね……」


 「はい! でも今はセスは私を守ってくれます」


 召喚士2人は、なんだか2人で盛り上がり始めてしまった。

 よし、今のうちに脱出しよう。だが風呂から出る気は無い。できるだけ、湯船の中でこいつ等から離れればいいんだ。

 そうと決まれば、すーっと湯船の中を移動していく。


 そして湯船の端のほう、この大浴場に、たった3人で貸し切り状態なのに、俺だけ端っこというのも納得行かないものがあるけど、贅沢は言ってられない。


 ここでならのんびり……


 「……ちっ」


 「いや、ちっ、じゃねぇよ。なにやってんだ?」


 そこにはセスが、浴槽の壁にもたれかかる様にして浸かっていた。


 「てめぇだけだったら、無視してれば良かったんだよ」


 「あぁ……」


 「だが、あのガキどもがぽこぽこ入ってきやがるから」


 「出るに出られねぇと?」


 なんだか、こんなところに仲間がいるとは予想外だ。

 

 「……そういや、セスは、せっかく完全か仕切りだったのに、端っこの方にいたのか?」


 「俺は端の方が好きなんだよ」


 そういうと、セスは俺から視線を外して黙り込んだ。

 えっと、1つの浴場に、男女が2組ずつ。まぁ素敵な展開にも見えるかもしれないが、なんだこの状況。世界一意味不明な混浴だぜ。


 「まぁ、相手があのちびっ子たちじゃなぁ」


 なんだかなぁ……


 と、セスが突然立ち上がった。

 できるだけ水の音を立てないようにしているところ、やはりバレルのは嫌らしい。


 「俺はもう出る」


 「待て」


 俺はセスの腕を掴んだ。

 すると、その瞬間、携帯がバイブしているようなぶるぶると震える感覚が腕に伝わってきた。なんだこれ。


 俺がしばらくそのまま掴んでいると、セスは実に微妙な表情を浮かべながら口を開いた。


 「……一般人なら、体がバラバラになるくらいの力は込めてんだけどなぁ。どうなってんだてめぇ?」


 「そんな物騒なこと浴場ですんじゃねぇよ!」


 「ボケ! 声が……でか……」


 「えぇえええええ!? セス!? いるのー!?」


 セスがやっちまったというような表情を浮かべた。

 

 波乱の予感だ……

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