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第12話:戦闘準備

 「それで、メロンでもどうだい? リュウスケくん」

 

 町のギルドに入るなり、なぜかタイラーさんが俺に対してこんな感じだ。

 どうにもおかしいのに俺は気付いているし、シャルナも違和感は感じたはずだ。

 まぁ、すでにいきなり手渡された金平糖のようなお菓子に夢中で、違和感など頭の片隅にも残っちゃいないだろうが。

 メリッサは、さっきの温かい空気はどうなってしまったんだ? というくらいに、俺を完全無視。俺との関係は絶対零度にまで冷え込んでいる。いやまぁ、怪しい関係でもなかったけど。


 「いりませんよ」


 「まぁまぁ、とりあえず紅茶でも」


 「いりませんって、帰りますよ?」


 俺がその場で回れ右を――しようとしたら、右腕をタイラーさんのゴツイ腕に掴まれた。まぁ構わず回ったから、その巨体は、ギルドの中を激しく転がることになった。


 「ぐああぁあぁあああ!」


 「いやまぁ、自業自得か?」


 「ぐぬぬぬ、単刀直入に言う!」


 「さっさと言ってくれよ……」


 俺はため息をつきながらも、タイラーさんを起こしてやる。


 「じゃあ言うがな……うちの専属の召喚士になってくれ」


 「俺は召喚士じゃない……」


 俺が呟くと、「あっ」とタイラーは声を上げ、金平糖で買収され、顔に満面の笑みを貼り付けた、俺の主の元に向かった。

 なんか、今のは失言だったっぽい。


 「シャルナちゃん」


 「なーに?」


 めちゃくちゃ幸せそうな顔で、金平糖を食べ続けている。なんとも微笑ましく、子供らしくて可愛らしいシーンなのだが、そこに巨漢がじりじりと詰め寄っているシーンが加わると、なんだか危ない感じに仕上がるな……

 というかタイラーさん何がしたいんだ?

 専属の召喚士ってなんだろう。


 「うちのギルドの専属の召喚士になってくれないかな?」


 「いいよーっ」


 軽いな……

 

 あまりにも簡単に取引が成立してしまったものだから、ちょっと俺は面食らったりしてるのだが、タイラーさんはとりあえず結果に満足なのか、笑顔で今度は俺の方にやってきた。


 「じゃあ、がんばってくれ使い魔君」


 「……はぁ? ちょっと待てよ、じゃあメロンよこせ」


 なぜ急に扱いがそんなに適当になったのか、説明を要求する。


 「そんなものは無い、働かざるもの食うべからず」


 「なんか知らんけど、これから働くんだろうが!」


 「働けばメロンくらいやる。とりあえず落ちつけ、本題はここからだ」


 タイラーさんは椅子に座ると、どこからか資料のようなものを引っ張り出してきた。

 やはりクエストだろうか、それもAランクとかいう。

 なんだか別に俺自身に危険は無いんだけど、あんなことをまたやるのかと思うと、ちょっと気が滅入るな。最初はまぁ、異世界やっほーぅ、とまではいかないにも新鮮でよかった部分もあったけど、やっぱモンスターがいるっていうのは百害あって一利あったらいいくらいだな。

 基本的に危険でしかない。誰かを庇おうだなんて考えると、本当にそう思う。


 「帝国で、召喚士同士でのランク戦があるんだ。それに出てくれ」


 「……それってクエスト?」


 「……ん、ああ。違うけど、じゃあギルドからシャルナへクエストを依頼する形にしよう」


 まぁ、当のシャルナはいまだに金平糖食ってるけど。


 「はぁ……まぁ、それだったらいいんじゃないかな」


 「そうか?」


 「だって、モンスターよりは安全だろ? ちゃんと帝国が仕切ってるなら、死者なんかでないだろう」


 俺が全力出したりしなければだけど。

 まぁ当然俺が心配しているのは、シャルナの身の安全であって、俺は多分だけど核兵器でも死なないんじゃないだろうか。


 「ん、んん……ああ、そうだな……」


 「え? 出るの?」


 「う、うん、いや。まぁ……そこそこ」


 「そこそこ!? どれぐらい?」


 「まぁ、世界には想像を絶する化け物がいるってことだ」


 「答えになってねぇ! つか、そんな場所にシャルナを送り出す気か!?」


 「え? それはお前が命がけで守れよ」


 「無責任だ!」


 「いや、責任は持つ!」


 タイラーさんは立ち上がると、俺の真横まで歩いてきて、肩に手を回してきた。


 「シャルナちゃんが怪我したら……俺がお前を殺すっ!」


 そして親指を突きたてて、俺に向ける。いやだから、それ間違ってます。このときのタイラーさんマジで恐いんですけど。

 というかシャルナ。とてつもなく危険な場所に送り込まれようとしているのに、のん気に金平糖食べ続けてる場合なのか。


 「おいし~……メリッサ食べる?」


 「……(こくり)」


 無言だが、頷くと金平糖をシャルナから一粒受け取り、メリッサは口に放り込んだ。

 気持ち、表情が柔らかくなったようだ。

 幸せそうだな。俺は脅されているというのに。


 「分かった分かった、じゃあメリッサはどうするんだよ」


 「俺が預かろうか?」


 「いや、遠慮しとく」


 それはダメな気がする。ハイラムさんに預けるのと同じくらいそれはダメな気がするぞ。


 「連れて行く、のもなぁ……というか、そのランク戦って出る意味あるのか?」


 「大いにある! 各ギルドにはランクというものがあってな、ランクが高いところほど、帝国から入ってくる運営費もろもろも増えるし、いいクエストも多く入ってくる」


 「ふーん」


 正直どうでもいい。

 どうでもいいんだけど、なんだかこれだと、シャルナは絶対にランク戦とやらに出ると言いそうなんだよな。まぁ出る事はほぼ確定的だな。


 「そんで、いつなんだ?」


 「あぁ、受付は今日の12時ごろ。お前の足なら間に合うだろ?」


 「間に合うけどよ……」


 俺だから間に合うだけだぜ?

 普通の人だったら、帝国にたどり着くのに歩いていったら絶対間に合わないし、走っていったらギリギリかもしれないけど、相当しんどいし、車とか便利なものも無いし……

 おかしいだろ、何でこのタイミングなんだ。


 「……実はな、うちには元々ランク戦を戦えるような召喚士はいないんだ……だからランク戦はいつも出ていない。だからランクは最低のF。けどな、お前とシャルナなら、やれる。そう思ったんだ」


 なるほど、基本的に諦めていたわけだ。

 でも、俺が召喚されることになって、なんの偶然か神様の世界に落っこちて、そんで実質世界最強みたいなヘンテコパワーを手に入れて召喚されたわけだから、チャンスができたということか。


 「まー、そんな理由知らないけど、シャルナは出るって言うだろうし、俺は別にいいけど」


 「おぉ、そうか。ありがたい。とにかく死なないようにな」


 勢いあまって殺しちゃったりしないようにしなくては……


 ま、いいや。とにかくそんなに時間も無いから、今から帝都に向かうことにしよう。 

 というわけで、金平糖の袋をひっくり返して最後の最後まで味わおうとしていたシャルナを引っつかんで、そのままギルドの出口へと向かう。


 「あれ? どっか行くの?」


 「あぁ、帝都だ」


 「ほんとっ!? やったー!」


 全く話を聞いていなかったらしい。

 というかどんだけ金平糖が好きなんだ。まだ味わおうとするか。


 そしてメリッサは我関せずを貫き通しているが、連れて行っても大丈夫なのだろうか。

 まぁ、ランク戦とやらには出ないとしても、帝都だったら暇も潰せるような場所もあるだろう。メリッサが何をして暇を潰すのか分からないけど。


 メリッサも逆の手で掴んで、そのままギルドを後にする。


 「帝都で今日はなにするの?」


 「戦いだ」


 「へー……え?」


 シャルナが何か言いたそうだったが、その時にすでに俺の体は2人の女の子を抱えたまま、空へと飛び立っていた。

 毎度毎度、地面がめくれてしまうのだが、誰かが修理してくれているのだろうか……

 

 「は、はは速いぃいいい!」


 「いい加減慣れろよ。メリッサを見ろ。限りなく冷静だ」


 空中で空気を全力で蹴り、急降下する。


 そして着地の瞬間に、さらに地面を蹴り、垂直に飛び出す。

 地面すれすれを猛スピードで飛んでいくのも、結構スリルがあって良いな。

 といっても、元の体なら絶対にやらない。今俺の体は万が一障害物に当たっても傷1つ負わずに向こう側まで突き抜ける自信がある。


 「ひやぁああああ!」


 シャルナが叫んでいるが、地面をもう一度蹴り、今度は高度を一気に上げる。


 そして緩やかなスピードで、まぁ多分300キロくらいで帝都に向けて進んでいく。


 「ちょっと遅くなったけど……速いっ!」


 「どっちなんだよ」


 「速いよ!」


 「全く、メリッサを見ろ。限りなく冷静だ」


 微動だにしない。


 そのまま俺の体は帝都の上空を飛び、中央にある巨大な塔の壁に垂直に着地した。


 「な、何やってるの!? 怒られるよ!?」


 「まぁまぁいいだろ。すぐ下にギルドがあることだし」


 そこから足の力を抜いて、ギルドの屋根の上に自然落下する。

 いやまあしょうがないんだって。前来た時と同じで、道路には人が隙間無く歩いているから着地できないんだって。

 できるだけ音を立てないように着地して、そのまま屋根の上を歩いてギルドの入り口まで行く。しかし、ここから人が多すぎて進めない。


 仕方ない、割り込むしかない。

 マナー違反だから真似しないように、といってもこの屈強な連中の間に割ってはいることなんて普通はできないか。


 「よいしょっと」


 「リュウスケ……すごく迷惑そうだよ」


 すみませんね。


 「全く、野蛮な連中ですわね」


 「あーすみません……ってなんだ。セレスか」


 「なんだ、とはなんですの?」


 なぜか短期間でこれで3度目の遭遇となるセレス。

 いつもと同じ黒い装束に、腰には剣。俺よりも年下であろう、まだ幼い顔にはうっすらと汗をかいているのが分かる。

 この人ごみ、相当暑いのだろう。あーやだやだ。


 「ランク戦出るの?」


 「えぇ、そうですわよ。まさかあなた方も?」


 「そうだよ」


 「……あなた方とだけは当たりたくありませんわ……」


 ごもっともです。

 俺と当たる人には、もう申し訳なくて。対外反則な奴もいるんだろうけど、俺レベルの反則やろうなんて他にはいないだろう。


 まぁ、1人ぐらい、いてもおかしくない、のかな。


 お、列が動いた。


 「しかし、暑いな……冷房つけろよ」


 「レイボウ?」


 「ああ、そうか。この世界機械がないのか」


 不便だなぁ、そう考えると。

 テレビも冷蔵庫も、ケータイもパソコンも無いのか。まぁ別段困っていることも無いのだが、あったものが全部無くなるというのも辛いところではあるな。


 「なんとかならないのかなぁ……」


 「ま、諦めることですわね。この世界で、元の世界の常識は通じませんわ」


 「あぁ、そうか。セレスも使い魔だったな」


 「そうですわ。最初は苦労したものですわよ、魔法が使えないのですから」


 「え? 前使ってなかった?」


 「あれはこっちに召喚されてから身につけましたの」


 「へぇー、すげぇな」


 「そ、そんなことも無いですわ……形は元の世界のものと同じですし、元とするエネルギーをこの世界のもにすり替えたに過ぎませんわ」


 それでも凄い話だ。

 全く別の常識の世界につれてこられて、適応してるんだからな。

 というか、帰ることとか考えないのだろうか。


 また列が動いた。


 受付の人まで漸くたどり着いた。


 「何名でエントリーしますか?」


 「何人までエントリーできるんだ?」


 「4人までとなります」


 4人までか。だったらメリッサもいけるな。

 でもエントリーするべきだろうか。もしかしたら、帝都という物騒かもしれない人の密集地に1人で放っておくよりも、かえって安全かもしれない。

 戦闘については、俺がそれぞれ1秒くらいで終わらせれば安全だろうし。


 「セレスはどうする?」


 「あなたバカ? 所属するギルドが違いますわよ」


 「そうだったな……じゃあ、3人で」


 俺が言うと、受付の人は一枚の紙を取り出した。


 『誓約書』


 「ん? なんか違う紙じゃないか?」


 「いえ、これで合っています。ランク戦は非常に危険ですので、まず命を落とすこととなっても帝国は一切の責任を負わないということに、同意をいただきます」


 「……」


 どうもマジで結構な割合で死ぬみたいだな。


 「どうする、シャルナ?」


 「うん、出るよ。だって、守ってくれるんだよね?」


 笑顔で俺を見上げてシャルナは言う。

 なんだ、マジでビビって無いのか? 俺みたいなのに完全に命を預けるというのか。

 タイラーさんにも言われてるし、ここも答えるしかないのか。


 「ああ、絶対に守ってやるよ」


 この身を盾にしてでも。

 別に盾にしても痛くも痒くもないんだけど。

 今回はもう1人守りながら戦わないといけないからな。ちょっとがんばらないといけないかもしれないな。


 「メリッサもな」


 「別に、いらないけど……」


 「え?」


 「……」


 なんかちょっとショックなこと言われた気もするけど、気を取り直して全力で2人を守ることに専念しよう。


 戦いはあと3時間後……


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