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『あざと可愛い』姫勇者さま! ~元悪役令嬢の彼女が俺(モブ)の事を好きすぎる!?~

もしも俺が自己紹介をするなら、3つの言葉で説明ができる。


「冒険者」「魔法使い」「十六歳」……いや、ホントそれだけ。


そんな特徴のない俺に、最近一つだけ新しい自慢が出来た。

可愛くて明るいこの国のアイドル『姫勇者エリカ』とよく冒険に行くようになったことだ。

二流冒険者の俺なんかに勿体ないくらい、魅力的な彼女だけど――。


あるとき、ひょんなことで彼女の秘密を知ってしまった。


ここは実はゲームの世界!?

姫勇者は実は悪役令嬢だった!?

おまけに伝説の聖女や魔王まで復活してやがる!?


なんだか色々飲み込めないんだが……でも、これだけは分かる!

今日も、姫勇者はあざと可愛い。

 『姫勇者エリカ』は、今日も最高にカワイイ。


 彼女がいるだけで、このさえない冒険者ギルドの玄関が王宮の入口みたいに思えるんだ。


 彼女の動きに合わせて軽やかに踊る、長い金の柔らかい髪。

 透き通るような白肌に、赤みの差した柔らかそうな頬。

 そして、何より教会に飾られてる天使のような愛らしい顔立ち。

 本当にすべてが最高だ!


 なんてぼんやりしていたら、青い瞳が俺に向けられる。


「わ。テオ君おはようございますっ」


 にっこりと微笑むエリカ。本当に可愛いなあ。


「おはようございます……あ、えっと。エリカさん……」

「もうっ! 『さん』を付けで呼ばれるの、なんかくすぐったいのですわ。『エリカ』で平気ですわよ?」


 思わず言葉に詰まってしまった俺を見て、彼女は不思議そうに首を傾げる。

 くそう。なんだよ、心臓の鼓動がやけにうるさいぞ。

 彼女の仕草の一つ一つが可愛すぎて……思わず心の中で身悶えしてしまう。


「テオ君どうしましたの? 私の顔に何かついてます?」

「ああ、いや……何でもないんだ」

「そうですの? でもテオ君は、ほっぺにパンくずついてますわよ?」

「え、どこに!?」

「取ってあげますわね。……んー」


 エリカは手を伸ばし、俺の頬へそっと指を触れさせる。

 小さくて可愛らしい彼女の指の感触が、頬に触れている。

 こ、この距離はまずい……!

 エリカの顔に見とれて顔が熱を持ってしまう。

 そんな俺を見て、彼女はさらに嬉しそうに微笑んだ。


「はい。これで取れましたわ」

「お、おふ……。ありがとう……な」

「ふふ。テオ君ったら、変な声出してどうしましたの?」


 指を唇へと当ててくすくすと笑うエリカ。

 うぐ……やはり俺の反応は傍から見たら変だったのか?

 いや仕方ない。

 こんな美少女に触られて平気な奴なんていないだろ!


「それでは私は行きますわっ。テオ君。またお会いいたしましょうねっ!」


 走り去ろうとしたエリカはふと立ち止まる。

 振り返って、上目遣いにこちらを見ながら照れたように微笑んだ


「今日もテオ君にお会いできて、本当に嬉しかったですわっ」


 そう言ってエリカは、今度こそ小さく手を振って駆けて行く。

 俺はその後ろ姿を見送りながら、胸を押さえた。

 ああ……彼女の笑顔が今日も眩しい……。


 もし彼女と付き合えたら……なんて思ってしまうけど。

 ――まぁ、そんな未来あるわけないよなぁ。

 しがない二流魔法使いの俺と、姫勇者のエリカじゃ……はぁ……。

 彼女の将来の相手がどんな奴かわからないが、ちくしょうぅぅ、本気でうらやましいぜ。


 ――――ん?


「………なんだこれ?」


 さっきまでエリカが立っていた場所に、小さな黒い板が落ちていることに気付く。


「これ、エリカの……落とし物かな?」


 矢印や〇や×の記号が付いたボタン。

 みたことがない文字。

 両手で持ってみると、板の形が少し曲がっていて意外と握りやすい。

 なんだろう、これ……。俺は何となくそのボタンを押す。


【自動セーブモードをオンにしました】

「うわぁ!?」


 突然手の中で聞こえた声に思わず叫び声をあげてしまった。

 すぐに辺りを見回すが、どうやら周りには誰もいないようだ。

 ……幻聴か? いや、しかし確かに今聞こえたよな。


【手動でセーブモードをオフにしない限り、物語は自動的に保存されます】

「なんだ、これ……?」


 恐る恐るもう一度ボタンを押してみる。

 今度は何も聞こえてこない。

 ……念話とかそういった類の魔道具……なのか?


「――早く届けた方がいいよな」


 俺は黒い板をアイテムボックスに入れると、エリカの後を追って駆け出した。



◇ ◆ ◇ ◆


「うーむ……」


 エリカが向かった王都の大通りを歩き続けているが、一向に見つからない。

 あれだけ可愛いから、よく目立つとは思うんだが。

 これは困った。完全に見失ってしまった。


「どこ行ったんだよ……」

「どいたどいた!!」

「うぉ!」


 突然路地裏から現れた荷車にぶつかられ、俺はその場で尻餅をついた。

 いや、正確に表現するなら……後ろの壁にぶつかると思った瞬間。

 なぜか俺の体はすり抜けて反対側へ転がった。


「なんだこれ……壁が……。ここは……?」

【ホーム画面に移動しました】

「ホーム……え……?」


 不思議な現象に驚いていると、またあの声が聞こえた。

 気付けば、目の前には先程までいた大通りではなく美しい庭園が広がっている。


「は……? 王都にこんな場所あったか?」


 色とりどりの花々が咲き乱れ、奥に見える大きな噴水からは水の流れる音が聞こえる。

 小さな橋の向こう側には、白と桃色の小洒落た建物。

 よく知る王都の風景とは何もかもが違う……まるで絵本の世界のようだ。


 ……俺は夢でも見ているのか?


 辺りを見回していると、聞き覚えのある声がした。


「はぁ~さすがにずっと笑顔だと疲れるよね~。表情筋痛くなってきちゃった」

「え」

「でも、ここまでは全部順調かな。さすが私!」


 声の聞こえた方へ視線を向けると、美しい金髪の少女がそこに立っていた。

 でも、俺がいることには気づいていないらしい。


「それにしても、テオ君のあの表情、ぷぷぷ。パンのくず作戦は大成功! ハンカチに仕込んでおいたかいがあったわ」


 この声……俺の知ってる口調とはまるで違うけど……まさか。


「頬を触ったくらいであんなに顔真っ赤にしちゃって。うぷぷっ。次はどんな作戦でいこうかな」

「エリカ……さん?」

「んー、今の好感度どれくらいなんだろ。ゲームと違って数値が見えないのが不便なのよね~」

「エ、エリカ!!!」

「はいっ! あ……え!?」


 その美少女はこちらを振り向くと、目を大きく見開いてこちらを凝視した。

 慌てた様子で前髪をいじりながら口を開く。


「な、なんでテオ君がここに……じゃなくてっ! あ、あはは……」


 彼女はそう言って、誤魔化してるっぽい不自然な笑いを浮かべる。


「あの―。これはそのー。違うんだけど―? うう……どこから聞いてたの?」

「パンくず作戦とか……」

「え―、そこから? もう―。最悪なんだけどぉ……ホーム画面って私以外入れない設定のはずじゃん……」


 両手で顔を隠しながらつぶやくエリカ。

 ――なんだか、いつもの清楚な彼女と、口調が違い過ぎる。


「……まぁいいっか。セーブポイントまで戻ればいいだけだし、はぁ~」

「あ、あの。君はエリカ……さん? なのか?」

「んんー。これが素の私だよ……って言ったら信じる?」

「え」

「――なんてっ! それじゃあバイバイ」


 彼女は小さなバッグに手を入れて……固まる。


 ――。

 ――――。

 なんだこの沈黙。


「……ない……ない……なんで!?」

「え?」

「私のコントローラーがないっ! ウソでしょ、なんで!?」

「……コントローラー?」

「なんで!? このバッグの中にしまってたはずなのに!」

「ちょ、ちょっと待って。まず落ち着けって。……おわっ!!」


 バッグを逆さにして中身を全てぶちまけると、彼女は俺に向かって勢いよく飛びついてきた。

 避ける間もなく俺は受け止めきれず、そのまま後ろに倒れ込む。


「いてて……。ちょっとエリカ……?」

「う~。こ、こ、こうなったら外的ショックで忘れてもらうしか……」


 俺の腹の上に跨る彼女の瞳からぽろぽろと涙がこぼれてきた。

 ……あ、やばい。これは破壊力が強過ぎるな。泣き顔が可愛すぎる。


 いや、今はそうじゃないだろ!

 落ち着け俺。まず状況を整理しよう。彼女は何かを探してるたようだけど。


 ……ん? 何かを探してる?


「なぁ。ひょっとして、探してるのって、これのことか?」

「へ?」


 俺はアイテムボックスから、黒い板を取り出して彼女に見せた。


「そ、それっ!」

「あーえっと、さっきの冒険者ギルドのとこに落ちてたんだけど……」

「わぁあ、ありがとうテオ君! もう駄目かと思っちゃった。うーよかったぁ」


 彼女は俺の手からその黒い板を受け取り、大事そうに胸元に抱える。


「それじゃね、テオ君っ! 覚えてないと思うけど、キミを聖女ヒロインになんて絶対にとられたりしないんだからっ!」


 エリカは満面の笑顔でそう言うと、立ち上がって黒い板を操作し始めた。


【セーブデータを選択しました】

【現在、自動セーブモードが選択されている為、他のセーブデータは存在していません】

【自動セーブモードを解除してください】


「……え、なにこれ? もう一回……」


【セーブデータ1 上書き保存中です。ロードできません】


「……うそ?」


 ……まただ。今、確かに聞こえた。妙に平坦な女性の声が……。


「はぁ? うそうそうそ、なによそれ!! どうなってるの?」


 彼女はその場にしゃがみ込むと、黒い板をガチャガチャと動かしながらうめき声を上げる。

 そしてしばらく考え込むような仕草を見せると、何かを思いついたように顔を上げた。


「もう……仕方ない……奥の手よ……」


 エリカは頬を膨らませながら、不機嫌そうに俺の顔に手を伸ばしてきた。

 ………なんだこの状況。

 甘い香りが鼻をくすぐる。彼女の柔らかそうな唇がすぐ目の前に……。


「――テオ君は何も見てませんわよね?」

「へ? 何もって?」

「で、ですから。ここでは何も見てないし、何も起こらなかったのですわ。ですわよね?」


 うぉ、なんだなんだ。

 いきなり元の口調に切り替わったエリカが、俺に顔を近づけながらそう問いかけてくる。

 その表情はいつもの清楚な彼女の姿に戻っていた。


「……まさか、今のなかったことにする気なのか?」

「何のことかしら? 私は今来たばかりですもの。テオ君もですよね?」


 いやいやいや、さすがにそれは……。

 黒い魔道具とか、彼女の言葉の意味とか、色々わからないことが多いけど。

 俺にも確実に分かったことが一つだけある。


「つまりさ、さっきのが本当に……『素のエリカ』なんだな?」

「き、聞いてませんでしたの? 違うったら!」

「ふ~ん」

「な、何よその顔ぉ! ちょっとテオ君?」


 エリカは涙目になりながら、首を大きく横に振った。


「いっておきますけど、私、この国で唯一の勇者ですわよっ! もしテオ君がこの話をバラしたとしても、皆様は絶対信じないですわっ!」

「まぁそうだろうな。むしろ信じたら引くよ」

「だから、これは忘れなさいっ! それと誰にも言っちゃダメですわよっ!」

「分かった分かった。誰にも言わないって」


 俺が適当にそう答えると、エリカは安心したよう右手の小指を差し出してきた。


「じゃあ、んっ」

「え?」

「え。じゃなくて。んっ!」


 頬を赤くしながら、強引に俺の小指に自分の小指を絡めてくる。

 そしてそのまま無言で何度か上下に揺らした。

 ……いや、なんだこれ?


「ふふん。約束よ! 絶対絶対ぜ~ったい誰にも言わないこと!」

「お、おう」


 彼女の口調や表情が、また素の状態に戻ってる……きっと無意識なんだろうな。


「……そのままの口調でも可愛いのにな……」

「へ? な、何よ、いきなり。……ていうか、いつまで指をつないでるつもり?」

「あ……わ、悪い!」


 危ない危ない。つい心の声が漏れてしまった。


「……だって。ゲームの聖女ヒロインの真似をすれば、みんなに好かれるじゃん……」


 エリカはぷくっと頬をふくらませながら、小声で何かを呟いた。


「それにさ、テオ君だって……ゲームだと……」

「ゲーム? それにみんなって?」

「な、なんでもないっ! こっちの話。とにかく! このことは誰にも言わないでよねっ!」

「エリカさ……また口調戻ってるぞ?」

「ううぅ。もー! 誰のせいでこんなことになったと思ってる……思ってますの!!」

「え?」


 彼女は勢いよく立ちあがると、ビシッと俺に人差し指を向けてきた。

 そして頬を赤く染めながら、黒い魔道具を操作しはじめた。


 なんだったんだよ。

 俺が立ち上がると、またあの平坦な声が聞こえてきた。


【自動セーブモードを解除しました】

【セーブが完了しました】


「これでちゃんとセーブもできましたし。うーん。お礼に、き、キスでもしてあげちゃおうかなぁ~っ?」

「き、キス!?」


 彼女はいたずらな笑みを浮かべながら、俺の目の前まで歩いてくる。

 そして俺を見上げしながら、楽しそうに微笑んだ。


「なんて、冗談ですわ」


 エリカはいたずらっぽく笑いながら、舌を出した。

 なんだそれ。可愛く見せるの反則だろ……。


 あれ……でも……。

 彼女のセリフに、なぜか既視感を覚えた。

 同じ展開で、何かがあったような……気が……。


「どうかしましたの?」


 耳まで真っ赤なエリカが嬉しそうな表情でこちらを見上げてくる。

 なんだか柔らかい感触が残ってる気がして、俺は唇に指を当てた……。


「え、ええええ、うそうそうそ!?!?!?」

「な、なんだよ?」

「いや、なんでもない……ですわ。……す、すぐリセットしたんだし……大丈夫……大丈夫」

「リセットって?」

「な、なんでもないって言いましたよね!? ほら、ホーム画面から出ますわよっ!」


 ……一瞬、時が止まったように感じた。いや、ほんとに一瞬だけだ。

 彼女のスカートがふわりと舞い上がったかと思うと、目の前には見慣れた王都の大通りが広がっていた。


【ホーム画面から王都フィールドへ戻りました】

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