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今だけは好きでいさせて  作者: 冬尽ジン
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第1章-①

島の評判クソダサいので、そのうち変えます(良いのが思いついたら…)

俺、兼松颯志(カネマツソウシ)が初めて二兎島を訪れたのは5年前。俺が小学4年生のとき。

二兎島に到着した日付は8月10日。2日後の8月12日に花火大会が行われるため、そのついでにと観光をしにきた者が多く、その日はたくさんの観光客で賑わっていた。


二兎島は「透き通るほど綺麗な海」「絶品!二兎島産の新鮮な海の幸」「夏の夜空を彩る無数の打ち上げ花火」など、若者の間で話題になりSNSで拡散されたことで一躍有名になった。

最近では”夏に訪れたい人気スポット”として多くの人に知られるように。

両親は二兎島の名物である花火大会に深い思い出があり、花火大会が行われる時期に二兎島を訪れた。


実は俺の両親は写真家である。両親は俺が物心ついた頃から世界を飛び回り、色んな素晴らしい景色を撮影してきた。その中でも二兎島の景色は両親のお気に入りなんだとか。あと、両親はお互い一人で二兎島に訪れたときに出会ったらしく、二兎島は二人の思い出の場所らしい。


俺は両親が仕事で日本を離れているときはもちろん、両親が家にいるときもずっと祖父母の家で暮らしていた。

これは俺がかなりのおじいちゃん・おばあちゃんっ子だったから。逆に両親は俺を色んな場所に連れていきたかったらしいが、旅行へと誘う度に俺が嫌がって泣くから、仕方なく祖父母の家に預けられていた。まあ、両親と一緒にいる時間よりも祖父母と過ごす時間の方が長かったし、仕方ないことだとは思うんだけど。今考えると両親には悪いことをしたなと反省している。


そういう俺の両親に対する長年の申し訳なさとか、一緒に旅行に行くのを嫌がっていたけど、本当は心のどこかで両親との思い出を作りたい、と思っていたこととか色んな感情があふれてきたため、今回俺から両親に旅行に行きたいと頼んで一緒に二兎島に行くことになった。


両親は二兎島の花火大会で出会ったと聞いた。

そして二人が結婚を決めたのは、二人が出会ってから二年後の花火大会の日だったらしい。

実は二兎島の花火には何個か噂話がある。『恋をしている人はその恋が叶い、恋人同士は永遠の愛でより強く結ばれる』とか『仲良い友達同士で花火を見るとずっと仲良しでいられる』とか。

所詮噂だろう?って思うけど、その噂通り俺の両親は恋人同士になり結婚した。


この思い出があるからこそ、両親は二兎島に対して強い思い入れがある。そして両親は結婚して以来、毎年必ず二兎島に行っている。俺は両親の思い出の場所に行ってみたいという気持ちと、これからは俺たち家族の思い出を増やしたいという気持ちがあった。それに花火の噂に対する興味もあった。

マセてんなあとも思ったが、恋が叶うという噂を気にならない子供なんていないだろ?



旅館へのチェックインは昼過ぎのことだった。両親がフロントで宿泊の手続きをしている間、俺は待ちきれずに一人で旅館周辺の探索を始めた。

かさね旅館は二兎島内の宿泊施設の中でも一番敷地が広い。後で雪斗に聞いたことだが、旅館内で働いているスタッフもあまりにも敷地が広いため迷う者が多かったらしい。スタッフでさえも迷うぐらいであるから、当然俺も敷地内で迷子になっていた。おまけに初めて訪れた場所であるため周りに知り合いもいない。半泣き状態で歩いているとき、どこからか“美味しそうな良い匂い”がした。

その匂いにつられて歩いていくと、俺はかさね旅館の調理場にたどり着いた。

かさね旅館の調理場は敷地内でも一番端に位置している。これは業者さんが運んできた食材などをすぐに冷蔵庫にしまったり、旅館に訪れたお客様の邪魔にならないようにだと雪斗から聞いたことがある。



俺が調理場にたどり着いたとき、ちょうど八百屋さんが新鮮な野菜を届けにきていたところであった。八百屋の彼は半泣き状態である俺の存在にすぐに気がつき、俺を調理場内の椅子へと座らせ、缶のオレンジジュースを手渡してくれた。

「落ち着いたか?」

彼が俺に優しく問いかけた。さっきまで一人で不安な気持ちであった俺も落ち着きを取り戻し、先ほどまでの泣き顔は笑顔へと変わっていた。

「うん、お兄ちゃんありがとう。」

「それならよかった。そうだ、俺は要。千田要(センダカナメ)。高校3年生。父親の手伝いでこのかなめ旅館に新鮮な野菜を届けに来てるんだ。」

「ぼくは兼松颯志。小学4年生だよ。」

「小学4年生か。じゃあ雪斗と一緒だな」

「雪斗って?」

「雪斗はな、このかなめ旅館の跡取り息子なんだ。」

俺たちがこんなやり取りをしているとき、廊下からパタパタと走ってくる音がした。

「要くんいるー?」

ガラガラと勢いよく扉を開け、一人の子供が調理場へと入ってきた。

その子供は俺より少し背が低く顔立ちも可愛らしい。髪の毛は短めだがとてもサラサラとしている。肌は雪のように白く、頬は少しピンク色をしていた。声も高くて可愛い。そして、その子の宝石のようにキラキラとした瞳は一瞬で俺をくぎ付けにした。はっきり言って、一目惚れだったと思う。

俺は自分でも気が付かないほど無意識にその子のことをガン見していた。

「雪斗。ちょうどいいところに。こちら兼松颯志くん。雪斗と同じ小学4年生だそうだ。仲良くしてあげてくれ。」

「わあー!初めまして。僕は須藤雪斗(スドウユキト)。学校に通いながらこの旅館でお父さんやお母さんのお手伝いをしてるんだ。よろしくね。」

 キラキラとした瞳でこちらを見つめてくる。ついでに手も握ってくれた。やばい、死ねる。顔がにやけそう。必死に顔には出さないようにし、自分も自己紹介をしようとしたときこの子の言葉が蘇る。


"初めまして。僕は須藤雪斗"


…ん?雪斗?この子今、自分のこと雪斗って言った…?

信じられない。いや、信じたくない。脳が理解したくないと訴えてくる。

「…雪斗?」

俺は恐る恐る聞き返した。すると、この子は満面の笑みで、

「うん!雪斗って呼んでいいよ。」

と言った。終わった。認めたくないけど、この子は雪斗であり、紛れもなく男の子。

そう、先ほど一目惚れした俺は一瞬にして失恋したのであった。

そのあとのことはあまりにもショックすぎて全く覚えていないが、とりあえず雪斗との挨拶を済ませたあと雪斗に案内してもらい自分の泊まる部屋へと帰った。

雪斗はそのあと、お手伝いすることがあるからもう行くね、と言いどこかへ行ってしまった。

俺は両親にしこたま怒られたそうだが、当然のように覚えていない。とにかく忘れてしまおうとその日は早く寝た。



そして翌日。さすが俺、切り替えが早い。

俺は昨日のショックな気持ちことなんてすっかり忘れ清々しい朝を迎えていた。

「失礼いたします。兼松様、朝食の準備が整いましたのでお持ちいたしました。」

仲居さんが朝食を持ってきてくれた。かさね旅館の料理は絶品であると聞いていたため、俺はすごく楽しみにしていた。

この日の朝食は焼き鮭がメインであった。ほかにも色鮮やかなおばんざいが数種類。つやつやのご飯や、磯の香りがするお味噌汁。ご飯のお供に温泉卵やお新香など、ザ・和食な朝食だった。

見た目や味のバランスがよく、朝から大満足であった。やっぱり評判がいいだけあって期待していた通り。いや、それ以上かもしれない。

一見どこの旅館でも出てくる定番の朝食メニューではあるが、素材一つ一つのレベルが高く感じたし、食材それぞれに合った調理をしているためか、素材の良さを引き出していると思った。とにかく子供の俺でも分かるぐらい美味しかった。

 

朝食を食べ終えた俺たちはせっかくだし朝風呂をしよう、ということになった。

今回俺たち家族が泊まった部屋には露天風呂がついており、いつでも熱々の温泉を堪能することができた。

朝の気持ちいい風を肌に感じながらの入浴。しかも、良い景色付き。これが至高というやつか、と子供ながらに思う。正直このままずっとここにいたい、と思うほど最高に気持ちよかったが、母さんに無理やり連れ出されてしまった。

今日は両親と一緒に二兎島観光をする。観光といっても両親の思い出の場所巡りといった感じだ。

俺は朝ごはんが焼き魚だったから、お昼はお刺身が食べたいなあなど考えながら旅館をあとにした。


今日は絶好の観光日和。気温は高くて日差しが熱いが、心地の良い風が吹いている。

熱中症に気を付けながら観光をしよう。

初めての二兎島観光。最初は名物の海を見に行くことになった。わくわくしてきた。

「父さん!海がすっごく綺麗に見えるよ!」

水面がキラキラと輝いていて眩しい。水は濁ることなく透き通っていて綺麗だ。

海に足を入れてみた。今日は日差しが強く気温も高いから、水のひんやりとした冷たさが快感だ。

俺はパシャパシャと水を踊らせ、はじけ飛ぶ水しぶきが空中で輝いた。

「はは、そうだな。二兎島は綺麗な海で有名だからな。これだけ綺麗だと写真家じゃなくても撮りたくなるよな。」

「そうね。初めて家族全員で来れたことだし、思い出に残る写真を沢山撮りましょうね。」

両親ははしゃいでいる俺を見るなりにこにこと笑った。両親が笑顔になると俺もつられて笑顔になる。

やっぱり今日一緒に来てよかった。そう強く思った。



今の颯志の一人称は「俺」ですが、幼い頃は「ぼく」だったんですよね。こういう変化が好きだったりします。

あと、颯志と雪斗の名前を間違える時があります(私が)

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