プロト・アポストルという若者らしい
目を覚ますとそこは一面真っ暗でジメジメとした空間だった。
「白一色の次は黒一色か」
マツダ神に放り投げられて転生した私が目を覚ましたのは真っ暗な空間だった。
当然何も見えないしゴツゴツとした質感でジメジメとした湿度の高い空間だ。
「洞窟か何かか?」
ひとまず寝っ転がった状態から起き上がろうとすると、無事起き上がることができた。
手も足もちゃんと動く。
よかった肉体はしっかりているようだ。
この辺はあの自称美少女がキチンと仕事をしたんだろう。
「とはいえまずここはどこで私は一体誰なんだ?」
あたり一面が真っ暗で何も見えない。
まずはどこでもいいから明るい場所にでて状況を確認すべきだ。
何か持ち物はあるようだがこうも真っ暗では何も分からない。
身体をペタペタと触れて確認するとカバンや刃物を入れたようなケースの存在は確認できる。
しかし見えないから形からそう判断してるだけで、自分自身が何を身に着けてるかはわからん。
服は着ているようだから一安心だ。
ペタペタと触れると男性の肉体であることは分かった。
身長はわからないが手足はそれなりに長そうなので子どもということはないだろう。
触感から得られる情報はこのくらいだ。
後は明るいところで確認するしかない。
そう思った私は立ち上がり、片方の壁づたいに歩くことにした。
「この壁、岩にしてはやけに冷たいな」
少し歩いて気付いたんだがこの辺りの壁は恐らく普通の岩じゃない。
触った感じからしてそこら辺にある岩や鉱物の感じじゃない。
鍋やフライパンを触った時の感触に近い鉄や銀などの金属の質感だ。
もしかするとここは鉱山か何かなのかもしれない。
それにしても一向に明るさが見えてこない。
多少目が慣れてきたとは言え、こうも暗闇が続くと参りそうなものだ。
しかし不思議と精神的に参ることもなく疲労を感じることもない。
この辺りも自称美少女の初期設定の賜物なのかもしれない。
今度会った時に礼を言うのもやぶさかじゃない。
「何もいないし、音も聞こえない」
それからしばらく歩いたんだが相変わらずの暗闇で音も聞こえない。
聞こえてくるのは自分の足音だけ。
剣と魔法の世界というんだから、それらを使って戦う必要があるのかと思っていた。
しかし今のところ戦わなければいけないような相手には出会っていない。
運がいいのか?それどもこの洞窟だか鉱山は本当に何もいないのか。
まぁいきなり出くわすよりよっぽどいい。
それにしても私は目覚めてからそれなりに時間をかけて結構な距離を歩いてきた。
しかし疲労感も空腹も感じない。
お陰で食料に困らなくて済むが、これでは食事の楽しみもないんじゃなかろうか。
そんなことを考えていると違和感を覚えた。
「ん?」
結構な時間歩いたと思うが、歩き続けていると弱くはあるが空気の流れというのかそよ風を感じた。
今までになかった変化だ。
空気の流れがあるということは流れの元には外に繋がっている可能性が高い。
よかった、正直歩いても歩いても出口が見えなくてウンザリしていたんだ。
出口の可能性を感じられて喜んだ私はそよ風が流れてきた方へ歩を進めた。
そよ風が流れてきた方へ進んでいくとそよ風は徐々に強くなってきて心地よいくらいの空気の流れに変わった。
「出口が近いのか?」
そう喜んだ私は駆け足気味に風の吹いてくる方へ向かっていく。
すると薄っすらとではあるが明かりが見えてきた。
出口の兆しが見えてきた私は安堵すると同時に自分の状態を確認した。
まず周囲はやはりゴツゴツとした金属質の鉱物で囲まれていた。
次に本題の自分の身体だ。
鏡が無いので顔はわからないが、手を見ればところどころ怪我の痕はあるものの皴もなく若々しい手をしていた。
そしてやはりショルダーバッグのようなカバンとナイフの入った鞘を装備していた。
胸の辺りには革か何かで出来た胸当てを着けていた。
足にはブーツを履いているのもわかっていたが、よく見るとかなり使い込まれたことが見てとれる。
カバンも胸当てもボロボロだしよっぽど金がなかったのか?
カバンの中を漁ると硬貨と思われる丸く小さな金属板が入った小袋といくつかの物が入っていた。
「なんだこの薄い金属の板?あとは食べかけのパンと水筒?それにロープと変な石?」
「お、でも金属の板に何か書いてある」
「プロト・アポストル?この身体の本来の持ち主の名前か?」
「年齢は20か若いな」
どうやら金属板は身分証の様な物らしい。
とりあえずわかったことは俺が転生したこの身体はプロト・アポストルという若者らしい。
なぜこの身体に転生したのかは分からない。
この辺は次に自称美少女に会えればわかるだろう。
ひとまずしばらくはプロト青年として振る舞うとしよう。
さて、自分が何者なのかがわかったところで出口を目指す。
出口へ向けて少し歩くと外の明かりが見えてきた。
「やっと外に出られる」
そう思うと自然と足取りは軽くなっていた。
3話にしてようやく自分の名前を知った主人公です。
まぁ転生したらそんなものですよね。
赤ん坊スタートじゃなかっただけよかったと思ってほしい作者です。




