14
「おい」
「なんじゃ」
「お前、最近は無駄に突っ込みをしてこないよな」
「なんじゃ、寂しいのか?」
「いや、お前から突っ込みを取ったら何も残らんだろ」
「そんな訳あるかっ!」
我々はケロムとか言う街に向かっている。
ケロムはこの国で最大の幻獣大会を開催している街だ。
幻獣大会に出場しラティシアとレイラの幻獣が何処まで勝ち進めるかを見るのが目的なのだ。
正直な所、2人でワンツーフィニッシュを決めると思っている。転送者が居なければ、だが。
唐突ではあるが、この世界で召喚する幻獣について少しおさらいをしよう。
この世界では二種類の召喚方法がある。
1つは、エナジー召喚。エナジーとは幻獣の生命力。
これは魔力で幻獣の精神エナジーを抽出しそれを元に幻獣を具現化する召喚方法。
これはこの世界では一般的な召喚方法で幻獣を戻すと精神エナジーも戻される。
呼び出した幻獣が死亡しても精神エナジーが消滅するだけなので幻獣界にいる本体は無事だが、
精神エナジーが返還されないので、その幻獣の精神エナジーが復活するまで召喚できない。
レアリティが低い幻獣は同種が沢山いる。召喚はランダムなのでエナジーが少ない幻獣が召喚対象になった場合は召喚に失敗する。
もう1つは、契約召喚。
これは幻獣と契約し直接幻獣本体を召喚をする方法。ラティシアとレイラが行っている。
レイラの幻獣は親から受け継いだらしい。
こちらは本体を召喚しているので戦闘を行えば、それが経験値になるが本体なので死亡した場合は消滅してしまう。
幻獣と契約を行う場合は基本召喚師に幻獣本体を召喚してもらい契約を行う。
しかし、この方法はリスキーな上に契約出来るは限らないので現在は殆ど使われてはいない。
と、メルがほざいていた。
因みに俺は召喚された幻獣は全て本体だと思っていたのでラティシアとレイラの幻獣の訓練を行っていたが、
2人がエナジー召喚を行っていたならば特訓は無駄になっていた。その辺りの知識はメルが…
「だ、旦那様、如何なさいましたか?」
「はうぁっ!」
ちょっと召喚のおさらいに夢中になりすぎてラティシアに心配をさせてしまった。
レイラも心配そうな表情をしている。
今後の予定を考えていたと言ったら2人は納得してくれた様子だ。
道中は野獣も出たりしたが特に問題は無く数日が経過した。
そして、目的の街ではないがミリブデンと言う街に到着した。
移動で疲れたので2、3日滞在してから出発する予定だ。
例によってラティシアとレイラの幻獣に戦闘訓練を行ってから晩御飯を食べるため食堂的な店に入った。
食事をしながらレイラの幻獣のレベルが上がった事を褒めていたらラティシアが少し落ち込んでいるように見えた。
幻獣はレベルが上がるほど次のレベルに必要な経験値が増えるのでレベルが上がりにくくなると説明したらラティシアは納得してくれた。
食事を終え、明日はゆっくりとこの街を観光する事にしてルームに入って休んだ。
次の日。
3人で観光をするべく買い食いをしながら街を練り歩いていた。
暫く歩いていると例によって術者ギルドを発見してしまった。
この街はただの通過点、お金はあるので仕事をする理由が無い。
そんな訳でギルドは見なかった事にして先に進もうとしたのだったが…
「旦那様、術者ギルドがありました! 困っている方が居ないか伺っても宜しいでしょうか?」
ラティシアは術者ギルドを発見してしまった。
しかも、困ってる人が居たら助けたい的な事を言ってる。
だが俺達はボランティアをする為に旅をしている訳では無い。
しかし、それをラティシアに言う事は俺には出来ない。
ラティシアの純粋な気持ちを踏みにじる事は出来ないのでギルドに立ち寄る事にした。
俺は依頼を受けるつもりは全く無かったので入り口付近で大人しくしていた。
以前にバッジでSランクとバレたので、面倒事に巻き込まれない為にバッジは外している。
一方ラティシアはレイラと共にギルド内を歩き回っている。
数分後、ラティシアとレイラが戻って来た。
それにしても、俺がSSランクでラティシアがSランク、そしてレイラはAランクと、こんな豪華なメンバーが…
ここに来て結構重要な事に気づいてしまった。
「ぐぎゃあああああっ」
「ど、どうかなさいましたか?旦那様」
「だ、大丈夫で御座いますか?カズヤ様」
「やかましいわっ!」
相変わらずラティシアとレイラは俺を気遣ってくれる。
そして相変わらずこの糞妖精もどきは突っ込みに余念が無い。
今更だがレイラは術者ランクを示すバッジを付けてはいない。
一応レイラに確認をしてみたが、やはり術者ランクは持っていなかった。
せっかく術者ギルドに居るのでレイラには術者ランクを取ってもらう事にした。
早速、受付に行ってレイラの術者ランク取得の申請を行った。
すると案の定Cランクから試験を受けて貰うと言われた。
面倒だからAランクの試験だけ受けたいと言っても規則なのでと突っぱねられた。
本来ならSSランクの俺が言えば済む話なのだが、SSランクは認知されてはいない。
仕方ないのでここはラティシアの力を借りる事にした。
「ここにおわすお方をどなたと心得る! Sランク術者様にあらせられるぞ! そのSランク術者様がAランクの試験を望まれている! 控えおろう!」
ちょっと時代劇風に言ってみた。
「こ、これはSランク術者様、も、申し訳ありません。そ、そちらの方にはAランク試験を受けて頂きます」
受付嬢は恐縮している。思ってた以上に効果は絶大だった。
「だ、旦那様…」
ラティシアはちょっと困惑してる様子だ。
今後の事を考えてラティシアには、こういう場合は頷いて(うなずいて)もらう事にしよう。
そんな訳でサックリとレイラはAランクをゲットしたのだった。
受付でレイラのバッジを受け取った時に受付嬢に依頼を頼まれた。
依頼内容は地下迷宮内にある貴重な薬草の採取。
何故そんなしょーもない依頼を敢えて我々に依頼するのか尋ねてみた所、
元は冒険者ギルドの依頼だったが冒険者では無理だったので術者ギルドの依頼になった。
最初はBランク術者の依頼だったが地下迷宮内の野獣が強く数が多いので失敗続きで今ではAランク5人以上の依頼になったみたいだ。
Sランク1人とAランク1人ならって事で受付嬢に強く依頼を受ける様に頼まれたのだが、どうやら俺は戦力にはカウントされてないようだ。
俺はバッジを付けてないのでラティシアの従者とでも思われているのだろう。
俺は受ける気が全く無かったのだが、ラティシアとレイラが例によって俺を見つめている。
この2人に見つめられては俺は断る事が出来ないので判断をラティシアに任せる事にした。
当然の様にラティシアはこの依頼を受けたのだった。
目的の地下迷宮はここから数日の距離だ。
採取する薬草の詳しい情報を聞いて食料等を買い込み、地下迷宮に向けて出発した。
道中は何事も無く数日が経過し目的の地下迷宮がある場所に到着した。
地下迷宮の中にはAランク術者の幻獣もサックリと倒す位の結構強い野獣が居るらしい。しかも沢山。
この世界の召喚術者は俺から見たら糞雑魚だ。しかし俺は決して油断はしない。
そんな訳でSR幻獣を5体召喚。3体を我々の護衛にして残りの2体を先行させた。
「SR幻獣5体とは、貴様は本当に憶病じゃのぅ」
「お前はその辺で一生虫けらの観察でもしてろっ!」
この地下迷宮のマップはギルドから入手済みなので道順は覚えている。メルが。
マップは地下11階までしか無いが何階まであるかは不明、薬草は地下8階にあるらしいので特に問題は無い。
先行している我が幻獣は何事も無かったかの様に次々と野獣を瞬殺しているようだ。
しかし、どういう事か野獣の死骸が1つも見当たらない。野獣ではなく幻獣なのだろうか。
各フロアはかなり広いのでマップが無ければ下の階に行くまで野獣討伐をしながらだと数時間はかかるだろう。
逆にショボい戦力で地下11階まで行けた事が凄いと思う。かなりの大人数で挑んだのだろうか。
我々なら糞強い幻獣も居る上にルームもあるので最深部まで行く事は可能だろう。
なんなら地下11階以降のマップを作製し、それをギルドに売れば金儲けも出来る。
しかし今は特にお金に困ってはいないし面倒なので依頼の薬草採取のみを行う事にした。
そうこうしている内にやっと目的の地下8階に到達した。
途中何度かルームで休んだとは言え最短ルートをただ歩いているだけで数時間かかってしまった。
マップに印が付いている薬草があるであろう所に来たが薬草らしき草が見当たらない。
薬草の場所も分かっていたのでゲット出来るものと思い込んでいた。これは大誤算だ。
迷宮に到着したのが昼で8階に来るまで数時間経過している。このまま戻っても迷宮から出た頃には完全に夜だ。
そこから更に街に戻るまで数日かかる。食料は多めに買ってあるが引き続き検索する場合は9階までが限界だろう。
「おい」
「なんじゃ」
「どうするよ」
「文明レベルが低い貴様等は食わねば死ぬから戻るしかあるまいて」
「文明レベルが高くても食わんと死ぬだろっ! アホかっ!」
しかし、俺もこの糞妖精と同意見だ。
そんな訳でラティシアとレイラに引き返す事を告げた。
「ま、まだ薬草を採取しておりませんが…下の階にあるかもしれません…」
珍しくラティシアが俺の決定に異を唱えた。
そしてレイラもラティシアの意見に頷いている。
この2人はちゃんと街に帰るまでの食料を考えているのだろうかと多少不安に思ってしまう。
俺もどうするか多少迷っていたしラティシアの希望と言う事もあって、この階の周って無い所と9階の検索をする事にしたら2人は喜んでいた。
8階を全て周ったがやはり薬草は無かったので9階に移動した。
マップは11階まである。薬草がある場所には印が書いてあるが、その印が書かれているのは8階のみ。
メルのナビの元、最短ルートで9階を周ったが、やはり薬草らしき草は見つからなかった。
そもそもこの迷宮は洞窟と違ってやたらと小奇麗な上に人工物っぽい感じで草が生える余地が全く無いように見える。
メルに確認してみた所、やはり結構な科学力で作られた人工物らしいが、これを作った目的は不明。
これ以上の探索は食料的にアレなので引き返す事にした。
引き返す途中に何故かまた野獣が出現している。
「おい」
「なんじゃ」
「何で来る時に倒した野獣がお前と同様な虫けらの如く沸いてるのよ?」
「こやつらは魔獣じゃ。そして虫けらは貴様じゃ」
「お前っ! こいつらが野獣じゃないって知ってたなら先に言えっ! アホかっ!」
どうやらこの迷宮に出現する獣っぽいのは野獣ではなく魔獣らしい。
魔獣とは魔力によって生み出された獣っぽい存在。
この迷宮内の魔獣は倒しても死骸にならず消滅する。
そして一定時間が経過すると勝手に復活する。
この迷宮を作った奴がそう言う仕様にしてるらしい…と、メルがほざいていた。
薬草が無かった事と魔獣の件はギルドに報告しておこう。
数時間後。
やっと迷宮から出れた。外はすっかり夜になっていた。
今日はこのままルームで休んで明日の朝に街へ戻る事にした。
次の日。
街に向けて出発した。
何事も無く数日が経過しミリブデンの街に到着した。
早速ギルドに行きたい所だが今日は晩御飯を食べて休む事にした。
翌日、ギルドに行って迷宮内での出来事を報告した。
印の場所に薬草が無かった事に関しては、そこには薬草が生えていたいた訳では無く、宝箱の中に薬草があったとの事だった。
ゲームかっ! RPGゲームかっ! と激しく突っ込みを入れたい所だったがグっとこらえた。
しかし、そうなると迷宮内にまだ薬草があるのかどうかも怪しくなってくる。
そんな訳でこの依頼は達成出来るか分からないので止める事にした。
ラティシアを見るとしょんぼりしている。
取り合えず薬草採取の依頼主に会う事にしたらラティシアが笑顔になった。
受付嬢に依頼主の情報を聞いて早速依頼主の家へ向かった。
依頼主は貴族だ。
当然の様に大きな屋敷に住んでいる。
屋敷の玄関まで行くと中からメイドっぽい人が出てきて要件を聞かれた。
依頼主に会って話をしたいと言うと部屋に案内された。
部屋で待っていたら依頼主のおじさんが入ってきた。
薬草が必要な理由を尋ねたら病気で足が動かなくなった娘に使うと言う。
貴重な薬草なら治るかもという期待で薬草採取依頼を出したらしい。
一応、娘さんの様子を見させてもらう事にした。
何故ならば、俺にはURのラファエルがいるからだ。
ラファエルの能力なら娘さんの病気を治すこと等造作も無い事なのだ。
娘さんの部屋に入ったら娘さんはベッドで横になっていた。
会話とかは普通に出来るようで、本当に足だけが動かせないみたいだ。
詳しく話を聞いてみると、数カ月前に盗賊に襲われて大怪我をしてからこうなったと言う。
明らかに病気ではない。医学が発達していないこの世界では、こういう症状は病気扱いになるみたいだ。
念の為、足を触ってみたら、足には全く神経が通っていないようだった。
「おい。これって…」
「うむ。脊髄損傷による下半身不随じゃな」
「日本語で言えっ!」
「むしろ日本語じゃっ!」
これは明らかに薬草如きで治るレベルの症状ではないが、
あの訳の分からない迷宮の薬草ならば可能性はあるかもしれない。宝箱に入ってたみたいだし。
「だ、旦那様…」
例によってラティシアはウルウルとした瞳で俺を見つめている。
ここまで来た以上、治さない訳にはいかない。ラティシアもそれを望んでいるし。
しかし報酬はきっちりと貰う為、依頼主のおじさんと部屋を出て報酬の交渉を行った。
迷宮地下9階まで行って薬草が無かった事。
仮に薬草があったとしても治る保証がない事。
完璧に治す事。等を含めて薬草採取依頼の10倍の報酬を要求してみた。
「貴様は強欲じゃのぅ」
「お前はこの屋敷の便器が舐められるようになるまでトイレ掃除でもしてろっ!」
依頼主のおじさんは、その程度で完璧に治るならと快諾してくれた。
交渉が成立したので早速部屋から人払いをしてもらって娘さんと2人っきりになった。
そしてラファエルを召喚し治癒能力によって娘さんは完璧に治ったのだった。
「これで貴方の足は完全に治ったよ」
そう言ってラファエルを戻し部屋を出た。
おじさんに治療を終えた旨を伝えると、おじさんは慌てて部屋に入っていった。
我々も部屋に入るとおじさんと娘さんが泣きながら抱き合っていた。
おじさんは泣きながら滅茶苦茶感謝してくれた。
「娘さんの背中も確認して下さいな」
直接見てはいないが娘さんは背中にかなりの傷があったらしい。
それも当然ラファエルの治癒能力で綺麗に治っているはずだ。
おじさんが娘さんの背中を確認して傷が無くなっているのを見て更に号泣した。
これでこの依頼はコンプリートだろう。ラティシアとレイラも満足している。
おじさんは相当嬉しかったようで指定した以上の報酬をくれた。
そして、昼食を御馳走になり屋敷を後にした。




