第八十三話 ハウッセンでの会議
ハウッセンの崖を床のように使い、カルテラッシェとスターディアは飛び回りながら殺し合う。もう王国兵はスターディアだけだろうか。援護射撃をしていた王国兵は、上の部隊が全て撃破したようだ。
「あっ!」
エミラッシェがそう声を出して、二人を凝視した。カルテラッシェがスターディアを串刺しにし、崖に落としたのだ。スターディアは血を宙にばらまきながら落下して行く。カルテラッシェは追おうとする素振りを見せたが、真下に広がる漆黒の闇を見つめ、槍を収めた。スターディアはもう見えない。
「......あとは残党狩りだな。気を抜くなよ。」
ちらりとエミラッシェを見る。なにか物言いたそうにしているが、俺を見た瞬間、俯いてしまった。死ねなくて、気が病んでいるのだろうか。意味のある死に方をしたいと言っていたが、死ねる時など無かったはずだ。後衛であるエミラッシェがスターディアに突っ込むという事を警戒していたが、そんな事もしなかった。
「行きましょう、ハルセンジアさん?」
「ああ......。」
エミラッシェが呼んでいる。上の部隊の一部も使い、ハウッセン隅々を調べ尽くすようだ。俺達が担当する穴の前にエミラッシェが立って、手招きをしている。寂しそうな目をしていた。ふと、後ろから声が聞こえる。俺を呼ぶ声。振り返ると、力いっぱい抱きしめられる。俺のへそ辺りで顔を埋め、彼は言った。
「戻って来てくれて......、嬉しいです。お帰りなさい、ハルセンジアさん。」
「死ぬ気などないと言ったろ?......ただいま、ヴィンデート。」
調査終了。開けた空間がハウッセンの内部にあったので、罠の有無を確認してから全員が入った。グランデア騎士団長が正面と思われる台に立ち、今回の会議を始める。
「突撃班、お疲れ様。誰一人欠ける事なく戻ってきたのは、それぞれの力、確固たる意思、そして皆の団結力のおかげだろう。よくやった。カルテラッシェも、よくスターディアを仕留めた。」
「正面で防いでくれたおかげです。それと、罠を見破ったオスターにも感謝を。」
「ふん......。」
あの先には十数人の王国兵が待ち構えていたらしく、そのまま進んだらかなりの損害を負っただろう。しかしオスターは照れる訳でもなく、次を促す。
「砲台は?ディリオーネが向かった。」
「......そこの被害は甚大なものだった。生存者はディリオーネとトートルートを含めた三名。だが、トートルートは未だ生死を彷徨っている状態だ。」
皆がごくりと唾を飲み、俺もぞっとした。四十人を向かわせ、生存者は三名。何故これほどの死者を出したのか。
「砲台を操る拠点を敷き詰めている茨と死体の中に、絶命しているスティアビートの姿があった。」
「茨が残っていた?術者が絶命しているのに?」
ふと声を出してしまった。騎士団長は頷き、「これほど強大な魔力を持つ将兵を、よく仕留めたものだ。」と、言った。
「こちらの被害は今確認しているが、砲台以外の犠牲は想定以上に少なかった。このままライアンズまで戦闘を続行出来るだろう。」
「まだ続くのですか......。」
ヴィンデートがそう呟き、肩を落とす。だが、サイサンシュレイト奪還戦はライアンズの村で最後のはずだ。ハウッセンを攻略すると聞いた時は、心の隅で絶望していたが、終わりが見えてきた。未来が見えてきた。
「戦いはまだ終わらないが、一旦の区切りだな。」
「ハルセンジア......。そうか、まだ戦いは......。」
「そうね。敵を討ったけれど、この戦いには最後まで付き合うわ。」
カルテラッシェは壁に寄り掛かりながら協力を約束し、「プファリアも、ストレイジも、皆も、結局はあいつらに殺された。」と憎しみをあらわにした。自分、自分だったカルテラッシェが、ここまで変われたのは、憎しみのせいだろうか。
「......今日はもう解散だ。明日には出発するので、良く休んでおくように。」
そう告げられ、皆はそれぞれ解散し始めた。俺はすぐにエミラッシェの所へ向かう。
「心配せずとも、勝手に命を捨てたりなんてしませんよ。死んでもいいかな、という心意気でしたから......。」