第八十一話 ハウッセン突撃班
いつ足場が落とされるか分からない。なるべく早く穴に入っていきたい。皆に俺について来るように言うと、ハウッセンに乗り込んだ。板に着地し、運が良い事に真横に穴があったので、侵入する。中にいた王国兵は、武器を構え始め、たじろぎながらも攻撃を開始した。数は五人。穴の横幅は三メートルぐらいか。
「狭いな。」
素早く手前の二人を斬り伏せ、[転戦]テッツァーレと入れ代わる。すぐさままた[転戦]で王国兵を引きずり込み、オスターが入れ代わった王国兵の首を跳ね飛ばす。テッツァーレはすぐさま二人の王国兵と応戦し、一人を槍で串刺しにした。しかし、もう一人の王国兵から攻撃を貰ったようで、うめき声をあげる。オスターが素早く追撃し、王国兵に止めを刺す。それをみたエミラッシェは、すぐさまテッツァーレの治療を始めた。
「四人でも大丈夫そうですか?」
「今は、な。」
今朝、ディリオーネが突撃班から抜けた。何があったのかは分からないが、時折ディリオーネはトートルートを恐れるような目で見ていた気がする。もしかしたら関係があるのだろうか。
「ありがとう、エミラッシェ。」
「ええ。......それで、これからどうしましょうか。」
「注意しながら穴の中を進もう。外じゃあ蜂の巣だ。」
その時、上方向で爆音が聞こえ、ハウッセン全体が震える。砲台の爆撃だろうか。
「行くぞ。外の班に合わせよう。」
俺達は急いで穴の中を進んだ。道中、数回王国兵達と遭遇したが、テッツァーレの[転戦]で対処する。さらに進んだ所で、エミラッシェが口を開いた。
「今はどこらへんでしょうか。」
「どこまで進んだかは分からないが、割と地上には近いだろう。上に進んでいる気がする。」
まだスターディア等の幹部に出会っていない。ここを落とすには、彼らの討伐が必要不可欠である。未だに出会っていない事に不安を抱きながら進むと、またもや爆音が聞こえた。今回は五、六発で、かなり近い所で爆撃があったのだと予想できる。
「なんでしょうか、不自然ですね。」
「少し不気味だ。......何故王国兵がいない?」
そこそこ出会ってきた王国兵が、いなくなった。ただ、様子を見るために外に出る訳にもいかない。どうしようか迷いながらも、結局は進む事になった。だが、この穴もどこまで続いているのかが分からない。どこもかしこも同じ風景だ。事前の情報では、穴同士がこんなに繋がっているとは知られていなかった。少なくとも重要な施設には多少の繋がりがあると思っていたが。
「......戻ろう。」
オスターが足を止め、そう言った。
「何故だ?」
「不気味過ぎる、という理由もあるが、気になった点がある。何故こんなに穴が続いているのに、外に続く穴も、施設に続く道もないのだ?」
「あ......。」
「警戒を強めろ。ハルセンジア、戻るという事でいいか?」
そう聞いてきたオスターに、俺はこくりと頷く。意見としてごもっともだ。すぐに引き返すように纏めようとした時、気配を感じた。
一線。
直前まで音も気配も出さなかった彼は、潮時だと感じたのだろう。隊の後ろから襲撃してきたスターディアの攻撃を、すぐさま受け止める。
「見覚えのある顔が二つ。一人は老兵。もう一人は......。」
「お前の不意打ちを、二度受け止めた者だ。冥土の土産に剣の味を覚えて逝け。」
つばぜり合いの末、弾き返し、跳び蹴りをかます。よろけたスターディアだが、後ろに飛んで、俺の追撃を逃れた。見た限り、スターディア一人だ。
「部下はどうした?」
「邪魔だ。気配を悟られる。」
その後は一進一退の攻防を繰り広げる。俺の攻撃はことごとくかわされ、ついには俺に一撃が入った。体をよじって致命傷には至らなかったが、横っ腹がかっ斬られている。それを見たテッツァーレがすぐさま[転戦]で俺と位置を入れ替え、戦闘を継続させた。狭い空洞では、数が多くても詰まってしまう。
「今癒します。」
エミラッシェも無理をしているだろう。俺の回復のスピードが速いが、エミラッシェは辛そうだ。三十秒も経っていないが、俺の傷はある程度塞がった。一方テッツァーレは、スターディアの攻撃を全ていなし続け、しかしながらそちらも辛そうにしている。俺はなけなしの魔力を剣に込めて、叫ぶ。
「テッツァーレ!」
二択。俺かスターディアに[転戦]だ。素早い動きで敵を翻弄する[転戦]は、見てからでは対処が間に合わない。スターディアは、剣を振り下ろし、テッツァーレは。
鈍い金属音。槍を洞窟の端と端に、足りない部分は魔力の刃で付け足してがっちりと固定し、すぐさま伏せた。槍は地面と平行な状態を保ち、スターディアの剣を受け止める。
「[転戦]。」
スターディアをこちらに引っ張り、俺はすぐさま剣を振った。だがスターディアはしぶとく剣でいなす。幸いにも全力の攻撃が功を制したのか、スターディアの剣は砕け散り、柄と欠けた剣元のみが残った。
「ロトシウム純金を......。」
囲まれ、武器も壊れたスターディアだが、やはりしぶとい。テッツァーレに向かって素早く足払いをかまし、穴の外に向かって走り出す。
「追うぞ。立てるか、テッツァーレ。」
「問題ありません。」
来た道を戻ってみたが、見失ってしまった。外に続く穴はあるが、出て良いのかが分からない。だが、魔弾が飛び交っている音は聞こえるので、戦闘は起こっているのだろう。正面を見てみるが、王国兵は付近の穴にはいないようで、少し顔を出し良いかとも思い、俺は外の様子を見てみた。
「......カルテラッシェ?」
そこには、大量にいる王国兵の魔弾をかわしつつ、ハウッセンのあちこちを飛び回りながら、スターディアと片手で交戦しているカルテラッシェの姿があった。