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スキル・ステータスオープンはステータスを見るだけ  作者: ぐざいになったねこ
第五章 魔王アルニエス
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第八十話 ハウッセン

「ヴィンデートはここで待機だ。」


ハウッセン奪還の日。未だ薄明の頃、俺達はハウッセン手前の森で待機していた。まだハウッセンは見えないが、崖の中にあるのであり、少し進んだら見えるそうだ。


「じゃあ、行ってくる。」

「......。」

「そんな顔するなよ。」


自分がどんな顔をしているのか分からない。けれど、行ってほしくないのだろう。それだけは分かる。優しく頭を撫でられて、ハルセンジアさんは俺に背中を向ける。それを見た突撃班の皆も、じっとまだ見えないハウッセンを見つめ始めた。


「ヴィンデート君も、一緒に戦えばいいんですよ。そのための僕達ですからね。」

「はい......。」


後ろで突撃班のサポートをする後方の俺達。俺は力になれるだろうか。騎士団長もハウッセンを見つめ、腕を上から振り下ろし、手の平をそこに向ける。


「......では、作戦通りに。」

「「「「はい。」」」」



突撃班が侵入する場所より少し離れた場所に移動し、攻撃体制を取る。まだハウッセンが見えない森の中だが、森から出た瞬間に王国兵に見つかるだろう。だが、それが作戦のはずだ。シリアスさんが騎士団長に問う。


「ハウッセン攻略時は、例え王国兵がサイサンシュレイトの民でも殺して構わないと?」

「そういう事になっている。」


シリアスさんが俯いて、しかしすぐに気持ちを切り替えたようだ。騎士団長に向かって無言で頷く。


「......出ろ!」


シリアスさん率いる魔法部隊を先頭に森から出て、彼らが崖の側まで近付きながら魔弾を発射する。その時、やっとこの目でハウッセンの全体を見ることが出来た。幅五十メートル程あるだろう崖に、穴という穴がある。それらを繋ぐように木の板が崖に沿って張り巡らされ、それらの光景がかなり奥まで進んでいる。その穴から出てきた王国兵が、俺達と応戦を始める。


「崖から少し離れて!真下からの攻撃を喰らう!」

「板はまだ落とすな、突撃班が動きにくくなる。」


シリアスさんと騎士団長が次々と指示を出し、戦局を操る。だが、次第に敵が放つ魔弾の量が多くなり、頭を出すのが難しくなってきた。


「別の班もこのような状態だろう。ディリオーネの班が砲台を奪えば......。」

「もうそろそろ奪えても良い時間ですね。」


俺がそう言った途端、こちらに向けてはるか遠くの対岸から巨大な魔弾が飛んで来た。シリアスさんが咄嗟に反応し魔弾を放ち、ある程度威力を弱めたが、完全に相殺しきれなかったようで、地面に直撃して爆発が起こった。


「ぐああああぁぁぁぁ!」

「っ......!」


身の危険を感じ、無事な者は急いで森へ待避する。今回の攻撃では、幸いにも死者は出なかったようだ。騎士団長がシリアスを褒め、顔を青くする。


「砲台が動いている?間に合わなかったか?」


一部の砲台を俺達と同時に奇襲し、奪おうという作戦だったのだが、今、砲台は動いている。時間がずれているか、やられたかのどちらかだろう。その時、別の班が合流してきた。率いているのはラクタウトだ。


「あの方向......、ディリオーネらが向かった砲台では。」

「ああ、今から突撃班に中止を伝えるところだ。」

「中止......、仕方ないですね。」


あの砲台を潰すのが前提条件だったが、もう無理だ。そう思い、その考えに肯定する。その時、鋭い声が後ろから聞こえた。


「ふざけないで。奴らを殺せる機会は今しかない。チャンスを逃すつもり?」


声の主は、見たことがない若い女性だった。金髪で後ろ髪は雑に切ったように短い。そして、左手はなく、右手で槍を構えている。シリアスさんは信じられないというような顔で、ラクタウトは強張った顔で言った。


「カルテラッシェ!?何故お前が......!」

「あいつを殺しに来た。行くなら言ってくれればいいのに。」


そう言い置いて、カルテラッシェは森を飛び出す。ラクタウトが追いかけようとするが、騎士団長に止められた。周りに合わせられない奴が死んでも、仕方がない事らしい。気持ちを切り替えて突撃班に中止を伝えようとしたところで、砲台からハウッセンに向けて、数発の魔弾が撃ち込まれた。どうやら、突撃班に向けて撃った物ではないようだ。不意に、騎士団長が呟く。


「ディリオーネ?」



彼女は一人で砲台を操っていた。他の皆は息絶えて、地面に転がっている。彼女自身の傷は浅いが、脳裏に深く刻み込まれた光景がたまに蘇り、嗚咽を漏らす。そして、泣いていた。少し操作から離れ、回復の魔術具に魔力を追加する。横たわっている同僚に労いの言葉をかけ、抱きしめる。


「トートルート、ありがとう。そしてごめんね。もう、魔力がないみたい。」


彼女は知っていた。分かっていた。トートルートはもう死んでいるんだと。それでも彼女は信じられなくて、回復の魔術具を作動させてありったけの魔力を注いだ。その反動か、もう意識が朦朧とし、眠くもなってくる。彼女はトートルートに覆いかぶさった。

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