第七十八話 死ぬ気などない
ハウッセンに乗り込む。それは、通常の街や要塞へ攻め込むのとは違って、命を落とす危険性が高い。足元を狙われたら足場を壊され、谷底に真っ逆さまだからだ。
「逆にこちらが足場を壊して、王国兵を閉じ込めるのは?」
「それもありだが、穴どうしで繋がっている所もある。ある程度は移動されるだろう。そして全ての足場を壊す余裕はない。流石に反撃が怖くて顔が出せないからな。」
質問をしたエミラッシェさんは納得し、さらに考え込む。
「いっそ兵糧攻めでもするか?」
「普通の戦なら選択肢にあっただろうが、今回は相手が強大過ぎる。最悪、サイサンシュレイトだけ連携に参加出来ないとなれば......。」
ハルセンジアさんも納得し、説明した騎士団長は真面目な顔で頷いた。
「だから、乗り込むということか。」
「今の選択肢はそれしかない。」
ハルセンジアさんは肩の力を抜き、静かに挙手をした。室内がざわりとする。
「ハルセンジアさん!?」
「いいんだ、ヴィンデート。突撃なら、俺が適任だしな。」
「なら俺も......!」
彼について行く。守りたいと思ったが、ハルセンジアさん自身に却下されてしまった。彼は俺に近付いて、頭を優しく撫でる。
「ヴィンデートはまだ生きていてほしい。......フィリアに会って、今までの生活を取り戻してほしいんだ。」
「その未来には、ハルセンジアさんはいないじゃあないですか!」
「おい、何を言っているんだ?俺は生きて帰ってくるぞ?」
「あ......。」
「俺の腕を疑っているのか?」と言われれば、黙るしかない。しかし危険だ。腕が立っても、死ぬ時は死ぬ。ハルセンジアさんは剣の捌きが素早く、身体能力も高い。弓も使える。でも、そういう事ではない。
「......死ぬ気で行きますか。死ぬ気はないですけれどね。」
「エミラッシェ?」
「言葉のあやです。」
エミラッシェさんも挙手をし、真っ直ぐハルセンジアさんを見つめている。
「怪我を負ったら癒します。貴方達がいる限り、どこまでも。」
「その言葉......。」
「期待されましたからね。」
「縛り付けるような意味で言った訳ではない。」
茨の城団は、過去に何か約束でもしたのだろうか。ふと、騎士団長が立ち上がる。
「そうか。死ぬ気はない、か。」
「そうですね。......自分は突撃は向いていないので、後方で支援をします。」
シリアスさんはそう言ってテッツァーレを見る。彼女はこくりと頷いて、突撃班への参加の意思を表明する。
「俺も行けます。死ぬ気はないです。」
「ヴィンデートは駄目だ。まだそんな実力じゃない。」
「うぁ......。」
もう一度言ってみるが、やはり却下された。確かに力を付けてきてはいるが、まだこの域に達していないと言われて凹む。その間に、勇気のある者は次々と参加していく。
「ディリオーネ、参加します。」
「......この老兵でも、出来ることがあるならば。」
ディリオーネとオスターが挙手をし、ここで騎士団長に打ち切られる。多過ぎても駄目らしい。よって、突撃するメンバーは、ハルセンジアさん、エミラッシェさん、テッツァーレ、オスター、ディリオーネだ。
「挙手をしてくれた人達へ、ありがとう。突撃に参加しない者達は、崖の上で支援するよう。」
その後、ゆっくり休んでくれと言われ、解散となった。