第七十七話 合流
朝は早い。四時に起きて、急いで朝食を終わらせ、ハウッセンへ向かう準備ができた。最終確認のミーティングを終え、騎士団長は進行方向を向く。
「ハウッセンの手前の洞窟で落ち合う事になっている。まずはそこまで向かうぞ。」
騎士団長がそう言って、ついて来いと言わんばかりに先頭を歩く。俺達も整列をして、騎士団長へついて行った。
しばらく平原を進むと、正面にV字谷が見える。やがてそこに突入し、皆はスピードを上げた。危険な場所は早く抜けたいと、朝のミーティングで言っていたか。
「元々は川底......?」
シリアスさんがそう呟く。丸っこい小石が足元に広がっており、確かに川であった事が分かった。そのせいで足元がやや不安定だ。確かにここで襲われたなら、少し対処が難しい。だが、それは杞憂だったようだ。山賊にも、王国兵にも襲われる事なく谷を抜ける事ができた。
「......あれは?」
抜けた先はまた平原。道の奥から誰かがやってくるのが見える。その三、四人の集団はこちらに気付くや否や、嬉しそうに駆け寄って来た。一人だけ、見覚えのある顔がある。
「無事か?ヴィンデート。」
「ええ、無事です。ハルセンジアさん。」
ハルセンジアさんは俺の頭をわしゃわしゃと撫でて、その後は皆に案内をする。
「グアンの班だな。よし、とりあえず本隊と合流するぞ。」
「よく分かりましたね。」
「まあこっちから通ってくるだろうと思ってな。」
そう言って、ハルセンジアさんは来た道を戻る。俺達にとっては先に進んでいるのか。ハルセンジアさんについて行った先は、森だった。離れるな、と言って、ハルセンジアさんは迷わずに木々の隙間を抜ける。
「嫌でも方向感覚は良くなるさ。」
「子供の頃とは正反対ですね。」
シリアスさんがそう言った時、ハルセンジアさんの足が止まり、彼は横の木の根本を見て、「着いたぞ。」と言った。ハルセンジアさんは木の根に吸い込まれるように段々と降りて行く。見ると、木の根本に穴があり、はしごが付いており、穴の底には階段があった。
「東部の班と合流したぞ。」
階段の下り切った先は、少し広い空間だった。昨日過ごした作戦会議室に雰囲気が似ている。大型の机が五、六個あり、そこには既に北の班の人達が座っている。壁や天井は土でできているが、崩れる気配はない。何の為に作られた施設なのだろうか。
「時間が惜しい。北からでいいので、報告を。」
騎士団長含めた全員が降りてきて、すぐにお互いの邪魔にならない場所を陣取る。地面に座る者もいれば、壁に寄り掛かる者もいる。しかし、彼らを咎める者は一人もいない。
「では、このハルセンジアから。北部ではディルークを無事奪還。将兵に死者はなし。騎士団は三十二人死亡。」
「街の者は?」
「作戦通り、ほとんどは寝返らせる事に成功しました。いや、取り戻したの方が正しいかも知れません。彼らは別の部隊が、サイサンシュレイト城下街に送っております。それによって、今は十人居ません。」
ハルセンジアさんは顔を上げた。報告は終わりだ、と言っているみたいだ。東部班の者達数人は、ちらりと騎士団長を見る。
「では、グランデアの東部班だ。無事とは言い難いが、グアンを制圧。しかし街の七割程は焼けた。将兵の死者はラッテルタ。」
「七割!?」
「なっ!ラッテルタが!?」
ラクタウトがガタンと立ち上がり、わなわなと震えている。と思ったら、オスターを睨んで叫んだ。
「私と......、デザリード様はどうなるのだ!オスターさん!貴方は何をやっていた!」
「落ち着けラクタウト!」
グランデア騎士団長がオスターに手を出そうとするラクタウトを押さえ、他の騎士に引き渡す。三人がかりで拘束されたラクタウトは、この施設のもっと奥へ連れられて行った。押さえられている間も、連れて行かれる間も、鬼の形相でオスターを責め続けていた。その様子に、悔しさや怒りがこちらにも痛いほど伝わってくる。ディリオーネがパン、と手を叩いて、「切り替えよう」と言う。
「コホン、では、続けよう。」
そうして、騎士団長は何事も無かったかのように報告を続ける。この状況で平静を保っていられる騎士団長が怖い。グアンで起こった混乱を語り、結果を報告する。
「街の人間もほとんど全滅だ。無事だった者は、こちらに連れて来た。たった一人だがな。」
街の中に連れて行って、案内をさせてもらった王国兵だ。たった一人の為に騎士団を使う事もないので、連れて来てしまった。人数的に戦闘には参加させない。連携をとれる相手がまともにいない為だ。
「後は、王国兵がビートの魔法を使っていた。恐らく魔術具だろうが、この調子じゃあアグライトも使われる可能性がある。」
「了解、気をつける。」
報告を終えて、騎士団長は息を吐く。ただ、まだ終わりではない。
「では、ハウッセンに乗り込む部隊を決めよう。」