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スキル・ステータスオープンはステータスを見るだけ  作者: ぐざいになったねこ
第五章 魔王アルニエス
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短編 無知

「フィリア様、食事の時間です。」

「もうそんな時間なのね。カルロート、アンデルビート様は?」


自分の部屋で本を読んでいたところ、昼食の時間になった。アンデルビート様の女性の側近であり、私の世話係であるカルロートが呼びに来た。最近アンデルビート様は忙しいらしく、一緒に食事を採れる事は滅多にない。今日こそは、と思ったが、望んだ回答は得られなかった。


「アンデルビート国王は、まだ仕事を続けております。」

「そう、ね。」


また、何もない一日になりそうだ。落ち込みながらも、食堂に向かった。



「フィリア様、少し疑問が。」


昼食中、一緒に食事を採っているカルロートが質問をしてきた。こくりと頷くと、彼女は真顔で私に問う。


「貴女はアグライトを宿して、視覚等を取り戻したのですよね?」

「そう聞いているわ。」

「アンデルビート国王も、ビートを取り込んでいます。そして、それの弊害というのでしょうか......。激しい頭痛や、魔力の暴走が起こるのです。」


アンデルビート様がビートを取り込んでいる事は知っていたが、その弊害の事は知らなかった。それなら、自分もそうなる可能性があるのか。そう言ったら、カルロートは目を伏せた。


「フィリア様がアグライトを宿してから、それなりに時間は経っています。それでも反応が出ないのは、少々不思議でして。」

「そう、ですか?」


それに関しては分からない。そう首を振ると、カルロートは息を吐いてこう言った。


「まるで、神様のようですね。」

「神様?」

「ええ、大昔のお話です。地上に降りた神様が、怪我をしているところをとある国の王子に助けられ、恋に落ちるという話があります。フィリア様のようではありませんか?神を宿した弊害が出ないのも、もしかしたら......。」

「うーん......。でも、私は人間ですよ。」


私は耐えられなくなって出て行ったんだ。空から降ってきた訳ではない。ただの人なはず。そんな事を思っていると、ふと、ヴィンデートの事を思ってしまう。


......生きているかしら。


いや、ヴィンデートが大丈夫って言ったから、私は抜け出した。あの子は強い。デラストレイレスの時も活躍したらしくて、私なんかいらないのかもと思った事もある。何をしているのか分からないが、きっと前を向いて生きているだろう。前を向いて......。


「前?」

「フィリア様?」


茨の城団にとっての前。それは、アンデルビート様を失脚させる事。それに向けて、私達は準備をしてきたはずだ。最悪、いや、このまま進めばアンデルビート様は処刑される。もしかしたら私でさえも。


「大丈夫ですか?」

「あ、いいえ、大丈夫です。」

「そうですか?顔色が悪いです。」


優雅に急いで昼食を終わらせ、部屋に戻ろうとする。カルロートも私に続き、ついて来る。


「少し考え事をしたいの。」

「そうですか。......何かあったらこの魔術具に魔力を。」


そう言いながら手の平サイズの透明の球体を手渡し、カルロートは私の部屋から退出した。ベッドに体を投げ、仰向けになって思考を巡らせる。


「仲良くなんて......。」


できない。ファントレアル騎士団長は、復讐の為に動いていたはずだ。ファントレアル騎士団長は、アンデルビート様を失脚させた後釜に私を欲した。ならば、[王の道]を所持している者が見つからなければ、大きく動く事はないか。ただ、アルニエスのスキルの事もあるし、珍しいとはいえ、見つかるのは時間の問題だろう。


「逃げる......?二人で。」


できなくはないかもしれないが、難しい。実行するために、自分の素性を明かさないといけないのだ。今までは捨て子、という設定にしていた。それが実は嘘でした、となったら、彼は怒るだろうか。



ずっと思考の波に呑まれている。気がついたら、真っ暗闇に放り出されていた。どこかも分からずに、右往左往していると、声が聞こえた。


「迎えに来たの。さあ、一緒に帰りましょう。セインジート......、父さんも居るわ。」


懐かしい声。お母さんの声だ。何年ぶりか、あの声を聞いて、胸の奥が熱くなる。声の聞こえる方向へ、私は手を伸ばした。



その手を取ったのは、アンデルビート様だった。仰向けに転がる私。私が伸ばした手は、天井に吸い寄せられるように上がったところで、アンデルビート様に握られたらしい。アンデルビート様は、握った私の右手を下ろし、口を開いた。


「うなされていたが、大丈夫か?」

「......。」


何も言わないで、頷く。そうか、と言って彼は立ち上がり、私をエスコートしようとする。私もベッドから起き上がり、アンデルビート様の隣に立つ。


「今日は、一緒に夕食が採れそうだ。」

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