第七十六話 作戦会議とお呼びだし
騎士団長がこちらをじろじろと見ている。顔に何かが付いているのだろうか。そう訴えたら、なんでもない、とはぐらかされた。
「コホン、えー......、何を話していたのだ?」
「ハウッセンの地形や、兵器が置いてあるであろう位置ですね。今からそれらを加味して進軍ルートを決めようかと。」
オスターがそう説明する。その目はいつになく鋭くて、少し怖い。それをひしひしと感じながら、俺は今までの作戦の内容を伝えるように命令された。
「えっと......、知っての通り、ハウッセンは大きな渓谷の中にあります。地図を見る限り、兵器が置けそうな場所はこの三箇所かと。」
「なるほどな。」
ハウッセンでは渓谷の崖の壁をくり抜いたような場所がいくつもあり、壁に沿って、穴から穴まで木の板が張ってある。もし落ちたら、激流に飲み込まれて助からないだろう。ハウッセンは縦に長く、また、高低差もある。下手に下に降りれば、上から蜂の巣にされるし、上を通れば、下から足場を攻撃されて落とされる。
「やはり聞いていた通り、難攻不落だな。」
「圧倒的に迎え撃つ方が有利です。」
「欠点は無いのか?」
「迎え撃つ準備に時間がかかる......、はそんなに欠点ではないですね。足場を落とせばある程度動きを制限できたり......。」
この騎士団長......。何かと俺に話題を振るが、どうしたのだろうか。
「......なるほど、大体は把握した。そして、進軍ルートはどうするか。」
「今から決めます。」
そう言った途端、扉が開く音がした。そちらを見ると、二人の女性が入ってくるのが見える。一人はこちらに向かって来て、もう一人は別の班に向かったみたいだ。
「トートルート、ディリオーネはどうした?」
「あら、今回は別の班に行ってしまったみたいね。」
白髪短髪で、小柄なトートルートは、ちらりともう一人の女性を見て言う。さっき入ってきたディリオーネという女性は、ピンクの髪を後ろで結んでいる、これまた小柄な女性だ。よく見ると、髪や服が少し濡れている。それに騎士団長も気がついたようだ。
「ディリオーネは身だしなみを整えていたのではないのか?何故さっきと同じような......。」
騎士団長がディリオーネの所へ向かうのを、トートルートは立ち塞がる。
「ディリオーネはあのままが良いのですって。滑稽ですわね、おーっほっほ。」
「そうか。......皆、すまない。作戦会議を続けよう。」
しばらくトートルートも含めて話し合った結果、崖の上から射撃する班と、実際に突撃する班を細かく分ける事にした。渓谷の幅はそんなに広くなく、逆に深さはかなりあるため、地面が遮蔽物となってくれるようだ。穴の上を攻撃し、穴を埋めていく事も視野に、突撃する班をアシストするという事になった。
「突撃するメンバーは少ない方が良い。六人、いや五人か。」
「ディリオーネに行かせたらよろしいのでは?彼女のスキルはそこにピッタリですわよ。」
「駄目だ、危険すぎる。せめて身のこなしが良い者ではないと駄目だ。」
「それは、北の班と合流してから考えませんか?」
「......まあ、それでもいいが。なるべく向こうでは手短に作戦会議を終わらせたい。敵地に近付いている関係上だな。」
ただ、俺が思い浮かべている突撃に向いてそうな人は、ハルセンジアさんだ。向こうにもある程度の人員が残っていると信じたいし、ここでメンバーを決める必要はない。そんな事を言うと、騎士団長は息を吐いて、窓を見る。
「そうか。」
そう言って、全体に聞こえるよう大きな声を出して、命令する。
「各自、今回の会議の内容をまとめた資料を作成してくれ。ああ、終わったらでいい。」
解散しても良いという命令だ。こちらの班は、オスターがすでにまとめてあるので、もう解散ムードとなっている。俺はどうしようかと考えている時、騎士団長から声をかけられた。
「少しいいか?話がある。」
「ここで良いか。」
「聞かれたらまずい話ですか?」
皆がいる建物の裏手に連れて行かれた。いまだ雨が降っているので、雨が防げる所を陣取った。騎士団長は周りに人が居ないかを確認すると、単刀直入に言う、と言って口を開いた。
「ヴィンデート。もしかしたら、君は神の子孫か?」
「え?」
唐突に言われたので、よく分からない。神の子孫とは、神のスキルを受け継いでいたり、神具を使えたりする人達の事だろうか。
「何故そのような考えに?」
「俺のスキルに、[対人外探知]というのがある。人ではない者を探知できるスキルだ。主に魔物等で使われるが......。」
「それは、俺が人間ではないという事ですか?」
その話を出すという事はそういう事か。ただ、自分はちゃんと人間だ......、と思う。母親も、父親も見たことは無いが、ねーちゃんは少なくとも、母親には会っていると思う。
「いや、違う。神の子孫は人間だ。だが、[対人外探知]は、人間と神が混ざった場合......、つまり、神の子孫にも反応するんだ。それで、どこの家の者だ?」
「家?」
「神の子孫は、基本は貴族だろう?」
「いいえ、自分は貴族ではないです。」
いや、もしかしたら、そんな事もないのか?自分の父親は、レシアボールを助ける為に、戦争へ向かったとねーちゃんは言っていた。実は父親は神の子孫で、その血を継いでいたりとかは......。継ぐ?スキルは、神様が十歳の時に与える物だ。これは妄想だが、神の子孫は、生まれた頃からスキルを持っているという事ではないか。
「何か気付いた事が?」
「......神の子孫は、生まれた頃からスキルを持っているのですか?」
「そうだ。神のスキルはそのまま遺伝し、その他のスキルは親から半々ぐらいで受け継がれる。」
つまり、生まれた頃からスキルは完成されているという事。
「そうですか。では、自分は神の子孫ではありません。十歳の頃、しっかりスキルを貰いました。」
「そうか。」
それに、言わないが、ねーちゃんとはスキルが一つしか一致していない。それも、[基礎魔力操作]だ。みんな持っているスキルなので、これが神のスキルであるというのは考えづらい。
「では、何故自分のスキルが......。」
それはよく分からない。俺が首を振ったところで、騎士団長も思考を放棄したようだ。夜も深くなったところで、俺達は建物へ戻った。