第七十二話 背火の陣
「スターディア様。命令の通り、街一体に可燃性の物をありったけ巻いておきました。」
「ご苦労。今回はこちらも出る。転移陣も退き先がハウッセンしかないからな。」
ここで食い止めなければ、ハウッセンで籠城することになる。あそこは確かに鉄壁だが、数でなだれ込まれれば、どうしようもない。たった今、グアンの街の殆どの兵が失ったのだから。
「ちぃっ、どこまでも使い潰す気か......!アンデルビート!」
「街の中でも争っていたのか。」
俺達が今攻め入ったのだが、街はすでに戦闘が終わろうとしていた。アンデルビート国王派の王国兵が、暴動を起こした王国兵を殺し尽くしたのだろうか。外ほどではないが、道には血のカーペットの上に、王国兵達の死体が捨てられたように転がっている。一体の王国兵を片付けた騎士団長は、次にすべき事について考える。
「敵が体制を立て直す前に、兵器が設置されている所を押さえる。......場所は分かるか?」
「広場から右に曲がった所にある砦......。対物用の攻撃魔方陣があります。それから、街の至る所に地下道が張り巡らされていて......。敵の背後を取れるように作られた物だと聞きました。」
連れてきた王国兵に要所を聞き出し、忠告も告げられた。その時、上から魔力を感じた。
「上......!」
手の平サイズの火の弾が五、六発降り注ぎ、目の前の建物に吸い寄せられていくように直撃した。すると、急激にその建物は燃え始める。
「......下がれ!撤退だ!」
危険だと判断した騎士団長は、すぐに撤退の命令を下す。妥当だ。油とか、何かが仕掛けられていないとあの延焼スピードは出せない。何かが仕掛けられているのだとしたら、わざわざ罠にかかりに行くような事はしないだろう。しかし、相手はそんな思考も読んでいたようだ。
「さっきまで居なかったのに......。」
「地下道ですよ、やっぱり待ち構えられていた!」
来た道から大量の王国兵がやってきて、俺達は火と王国兵に板挟みにあってしまった。流石のシリアスさんも焦っているが、疑問の顔も浮かべている。
「今はビートが使えないはず......。使えるとしたら、それは神を宿した本人ですよ?」
「......今はそんな事を考えている暇はないです。目の前の危機を打開しましょう。」
「そうですね、ヴィンデート君。ただ、まだ下がっていて下さい。」
シリアスさんは、まだましになったとはいえ、魔力酔いを起こした俺に無理をさせる気はないらしい。テッツァーレも槍を構えて迎撃体制をとる。
「シリアス、援護は頼みました。」
「了解です、テッツァーレ。」
騎士団は左右正面に部隊を分けて、それぞれ迎撃を始めた。シリアスさんが正面に魔弾を数発放ち、牽制する。しかし全て敵の魔弾で相殺されてしまった。屋根の上から接近してくる王国兵に気付いた左右の騎士団は、角度をつけて魔弾で撃ち落とす。しかし、数人撃ち漏らしたようで、正面の部隊に突撃してきた。
「はあっ!」
テッツァーレが受け、槍で一人を受け流す。地面に激突した王国兵は、後ろにいた騎士達に討ち取られた。シリアスさんも魔弾で一人を撃退し、テッツァーレは下がる。
「「「「デート・ビア・タイトレア!」」」」
デート・ガルディアの騎士団らが、敵が詰めて来ないように、弾幕で敵を受けに回らせる。敵は防衛陣を展開した。今が好況だ。騎士団長の命令で建物の上に数人が飛び乗り、魔弾の射線を増やす。テッツァーレは何かを呟いて、槍に光を纏わせた。
「今だ、押し返すぞ!」
後ろの炎に巻き込まれる前に、グアンの街から撤退しなければ。騎士団長がそう言った瞬間、皆の体に力が入った気がした。俺も含めて。




