第六十七話 心傷管理支部
「読むだけで疲れる。なんだこの......、良心は。」
「良心として送ってきているだろうし、普通なら感謝するべきですよ。......ただ、最悪な内容ですね。」
ミラシュレインと共に、ベルグラート領主からの返答を読んでいると、どんどん頭が痛くなってくる。こちらが渡した内容の返答とは別に、良心として、今起こっている事を事細かに記した書類を送ってこられたが、本当に吐きそうで、頭を押さえる。
「......夜に茨の城で会議だ。伝えてきてくれないか。」
「了解しました。」
ベルグラート領主から返答が返って来たのは、あれから三週間後だった。それまで何をやっていたのかというと、セントレイク内の瓦礫の撤去や、防衛施設の復旧だ。
「案外早かったな、エミラッシェ。」
「そうですね。......デート・ガルディアが、王国兵を押し返したのが大きいかも知れません。」
返答の内容はまだ知らない。今はファントレアル騎士団長が読み、それを明日の会議でまとめるらしい。昼休憩に、茨の城団のお茶会部屋で食事を摂り、これからの事を話し合っている。
「どこまで押し返したのでしょうか。」
「確か、フウアンテルラまで撤退させたと聞きましたが。」
「ああ、そうだ。」
それは戦果としてはかなり大きいのではないのだろうか。
「それと、シリアスさんはまだ帰ってきませんかね?」
「......無理、でしょうね。あちらの仕事を手伝っていましたが、かなりの量でしたよ。」
少しの間手伝っていたテレヴァンスによると、領内の要所の制圧、城下町の復旧、消えた後ろ盾の確認など、とてもじゃないが帰れる状態にはないみたいだ。地下室の件もある。昼食を終えたので、外に出ようとしたところ、茨の城団の玄関からベルの音が聞こえてきた。
「私が対応します。」
エミラッシェさんが席を立ち、玄関へ向かう。もしかしたら重要な話かもしれないので、俺は席に座り続けた。しばらくすると、エミラッシェさんが帰ってきた。
「今日の夜にここを使っても良いか、とファントレアル騎士団長から。」
「急だな。」
「ええ、近い内に戦いになるかもしれないので、協力した方が良いかと。」
戦いになる?忘れようとしていた記憶が、蘇ってくる。それを振り払うように、俺はエミラッシェさんを肯定した。
「へ、返答の事もあるでしょうし、用事も無いですし、大丈夫じゃあないですか。」
「急だと思って少し戸惑っていただけだ。構わない、と伝えていい。」
「これから外に行こうと思っていたので、俺が行きます。」
頼んだ、と言われ、俺は茨の城団から管理支部へ向かった。
管理支部のエントランスに入る。掛け布団が綺麗に床一面に敷き詰められ、その上には生活用品が乗っかっている。それらを踏まぬよう、奥へ進んで行って、階段にたどり着いた。階段を上がっている途中、ふと後ろを振り返る。家を壊され、家族も友達もいなくなった人々もいる。そんな人々が集まったこの場所が、戦いの果てであり、これからまたこんな事が起きるかもしれないと言われた。
「どこに向かうんだろう。」
終わりが見えない。でも、すぐにでも終わらせたい。無性に聞きたくてうずうずしてきた。戦いを終わらせる為に送った、反撃の書類の返答を。
「特に用事も無いので、使っても構いません。」
「ありがとう。騎士団長に伝えておきます。」
サーテレラにそのことを伝え、帰ろうとした時、呼び止められた。
「首に掛けているの......、オスターさんのお守りよね?」
「はい。オスターさんから聞きましたか?」
ええ、と言って目を細める。その顔は、どこか寂しそうな目をしていた。
「引退、か。剣を教えてくれた先生なので、私としては残念ね。」
「けれど、オスターさんの選択です。応援することしかできませんが、......今は笑顔で引退してもらえるように、早く戦争を終わらせましょうか。」
「そう、そうね。ありがとう、踏ん切りがつけられた。」
呼び止めてごめんね、と言って、サーテレラはファントレアル騎士団長の下へ向かった。これで伝わるだろう。俺は街の復興を手伝いに、管理支部から足を踏み出した。




