第六十五話 ホルス=デルタ区域
「アルニエス様、間もなくホルス=デルタ区域に突入します。」
「分かっている。伝令は送っただろうな。」
「ええ。」
ならば、良い。誰も悲しまず、幸せな国を作る。そんな民を守ってゆく人に、俺はなりたい。二度と民に刃を向けるか。もう散々だ。ミラシュレインから貰ったミサンガを見つめ、彼を思い出す。あいつがまだ幼かった頃、俺に向けて作ったお守り代わりだ。別々になってしまったが、元気でやっているだろうか。
「サイサンシュレイトから皆が帰ってきたら、俺達はデート・ガルディアに帰る。それまでにできることはやっていくように。」
明日の昼前になるだろうか。夕食を終えた後の定時報告で、それを警告しておく。
「エンディスト、決まったか?」
「はい。迷いましたが、逆毛の霊獣団に入団しようかと。」
住む場所が無くなったエンディストは、これからデート・ガルディアで生活する事に決めたようだ。今は戦力が欲しい状態なので、それはこちらとしても嬉しい。
「部隊長、デート・ガルディアから報告。王国兵の拠点はごく少ない被害で全て抑え、敵が使用していたと思われる地図等の証拠品を回収したようです。」
伝令兵の対応をしていたテッツァーレが会議室に入室し、報告を開始する。こちらの被害は最小限であり、包囲網を全て破ったとなれば、かなり嬉しい知らせだろう。
「私達の部隊が戻り次第、反撃に出るらしいですが。......あと、少し話が。」
「......とりあえず、これで終わりだ。明日に備えて各自準備を進めるように。」
一旦、解散の指示を出す。テッツァーレから話があるそうなので、俺は外に出て話を聞こうとした。
「カァリバルァも......。彼の国についての話です。」
「どうした?カァリバルァも呼んで。」
「テッツァーレ、何か用、ですか。」
「......伝令兵よりもう一つ。ホルス=デルタ区域で、王国兵が不審な動きをしていると、王都から逃れた商人から聞いたそうです。」
ホルス=デルタ......?元々王国が支配していた魔族の居住区域だが、そこに、ただの一商人に悟られるほどの動きをしているのか。
「それ、心配、です。」
「......カァリバルァの出身地だったよな。」
カァリバルァは魔族だが、限りなく人間の姿に似せる事ができる。訳あって茨の霊獣団に入団させ、街のほとんどの人が、彼の事を理解しているそうだ。
「どのような動きを?」
「兵を注ぎ込んでいるらしいですが......、ただ、戦闘が起こるような事態ではないと思っているらしいです。」
武力による制圧が目的ではないのか?ただ、それなら兵を注ぎ込んでいる意味が分からない。
「ホルス=デルタ、王都、近い。準備、かなり進まれます。」
「王都から東に五百キロメートル、か。移動速度上昇の魔術具を使えば、四、五日で到着する距離だな。」
「......こちらからできる事はあまりないです。何も起こらぬよう、祈るくらいしか。」
少し不気味な報告だが、こちらからできる事がない以上、気にしないのが良い。今できる事に集中していこう。
「カァリバルァ、あまり気に留めないでおけ。今は何もできない。」
「祈る、できます。皆さんも、祈る、できますか?」
「ああ。」
「ええ、貴方の故郷の無事を祈りましょう。」




