短編 再開に向かう旅
「いささか疑問だ。」
「何がでしょうか。」
日が落ちる中、レシアボールさんとセントレイクへ向かう道中で、レシアボールさんは悩んでいる。
「アグライトを宿したのを命令したのはアンデルビートだろう。何故手錠について気付かなかったのだ?」
「言われてみれば、ですね。手錠にアグライトの魔法がかけられていることは、常識だったのでしょうか。僕は、その、知りませんでした。」
「まあ、細かい所は専門の領域だが、魔法を封じる特性があるなら、アグライトを使う事は想像できるだろう。」
そういうものだろうか。道を進むと、山のふもとに木造の小屋があるのが見えた。歩きながら、目を合わせる。
「泊まれますでしょうか。」
「行ってみる他ないが......。もし断られたら近くで野宿だろう。」
「......人の気配はない、か。」
明かりはともかく、小屋に入ってみても、人が住んでいるとは思えない内装だ。使いかけの蝋燭には蜘蛛の巣が張られており、木の板も、少し腐っている。ただ、人が一夜を過ごすには問題ないはずだ。レシアボールさんも、周囲の確認が終わったらしく、小屋の中に戻ってきた。
「大丈夫だろう。寝よう。」
「ええ、明日は山を登りますし。」
「その山を越えたら、サイサンシュレイトの領地だ。文字通りの山場だな。」
そう言って、布で自身を包む。僕も同じように包まると、だんだん眠たくなってきた。あれから二週間も経っていないだろうが、かなりの距離を進んできた。王都を脱走して南へ向かうこの旅。サーテレラお姉様は、無事だろうか。そうでなければ、この旅は意味を成さないかもしれない。少し不安をかかえながら、気がついたら真っ暗になっていた。アグライトが失われているはずなのに。
「サイファリア、良く寝たか?」
「ええ。......ごちそうさまでした。」
まだ日も昇ってないが、朝食を済ませて出立の準備をする。保存食もあり、回復薬もある。こんな少ない荷物だが、意外と持つものだ。そう思いながら、僕達は山を登り始めた。
山はそんなに急斜面な訳ではない。レシアボールさんに聞いてみたところ、登って二時間、下って二時間の小さい山らしい。ただ、下から見た時、自分を飲み込んでしまうぐらい大きな山だと感じた。ずっと王都にいた為、そんな経験をしたのは、王城を見た時ぶりだ。本当に二時間ぐらいで頂上、整備された広場に着いた。
「日の出だな。」
「......綺麗ですね。」
単純な言葉だが、それを表すのにぴったりな言葉だった。地平線から覗き出ているオレンジ色の太陽が、細かな光を纏っている。
「......下るか。」
「そうですね、ここで立ち止まる訳にもいきません。」
ここを下りきったら、サイサンシュレイト領だ。僕のお姉様が嫁いだ領地。そこから避難して、ベルグラート領のセントレイクで騎士をしていると聞いた。あと少しだ。整備された石段を、一つ踏み締めた。




