第六十話 ストルラッシュとディンビエラ
「明日には茨の城団が帰ってくるからな。入れ代わりで俺達はデート・ガルディアに帰る。」
「りょ、了解です。」
ディンビエラ団長がそう言って、残った仕事を処理する。今日中に北の瓦礫を撤去できれば、壊れた建物を建て直すことができるようだ。
「......アンネリアの様子を見てくれないか?」
ガラスの破片を袋に詰めながら、そう頼んできた。母親として心配だが、彼女には母親として接する事ができない。アンネリアが小さい頃に離婚して、親権がディンビエラ団長に渡った事で、私は彼女の側にいることができなかった。不可能ではなかったが、あんな事があって離婚し、警戒されていたので、とても難しい事だったと思う。けれどもこうやって頼まれているあたり、もう許されたのか。
「もうアンネリアは子供じゃないんだ。ストルラッシュがしようとしたことも、もう警戒しなくていい。」
けれど、と言ってこちらを向く。
「まだ大人でもない。だから、ストルラッシュが支えてやってくれないか?」
「そう、ですね。」
少し微笑んでみた。そうしたら、昔みたいにディンビエラ団長も笑ってくれた。もう戻れないかもしれないけれども、もし戻れたのなら、それは幸せだったのかもしれない。
「では、アンネリアを探してきます。」
私はデート・ガルディア内の商人の店に、三女として産まれた。けれど、両親は私が産まれてきた事を望んでいなかったみたいだ。いや、少し違う。私が男として産まれてくるのを望んだ。
「お前が男だったら......。」
店の跡取りには、男ではないといけないという風習があった。私の母親は、私を産んで死んでしまった。その恨みだろうか。私はラッシュの名前を付けられた。
「父さん、なんで私達が跡取りではいけないのですか?」
「......部屋に戻れ。」
ある日、私は父さんにそのことを質問しに行った。けれども、父さんは一瞥もせずに机の上の書類に目を通している。
「父さん!」
「黙れ!」
激昂しながら机を殴って立ち上がり、床を足で叩きながら私に近付いてきた。父さんは私の首根っこを掴んで片手で宙に上げ、私の部屋に向かう。あの時は怖かった。苦しくて、部屋に投げ込まれた時にはひどく痛かった。
「もういい。」
そう言って、外から鍵をかけられてしまう。じんじん痛む全身を丸めて、立ち上がれずに転がっていたところ、鍵が解かれた。
「す、ストルラッシュ、大丈夫?」
「......痛いです。」
長女のレイトラッシェだ。傷薬等を持ってきたようで、私に手当を開始する。その途中、次女のミレイオーネが、何かが入った袋を持ってきた。
「怪しまれないよう鍵をかけるけれど、これで暇を潰して。」
そう言って袋から出てきた物は、本と少しの保存食だ。私はその時の姉達の優しさがうれしくて、泣きじゃくった記憶がある。
そこから数年経っただろうか。私はディンビエラに出会った。その時私は十六歳で、もはや父さんには半分捨てられた状態だ。外食中、ふと食事から目を離して見上げると、そこには私をみている男性の姿があった。
「あ、なんだか、......綺麗な人ですね。」
一目惚れ、というやつだろうか。彼は私に一目惚れをしたようだ。私は少し酷い事を考えてしまった。私が結婚して子供を産む事で、私の家の跡取りにすることができるのではないだろうか、と。ただ父さんに感謝されたかった。お前が居てくれてよかった、と言われたかった。そんな打算があって、私とディンビエラは交際を開始した。
結婚まで漕ぎ着けるのに、大した手間はかからなかった。父さんには好きにしろと言われ、ディンビエラには両親がいなかった。変わりに老人がいたが、彼もディンビエラの好きにすればいいと言っていたらしい。やがて子供を授かり、後少し、というところで、私達の関係にひびが入った。
「ストルラッシュ、これはなんだ。」
ベッドで横になっている私に見せたのは、私が書いて放置していた書類の数々。商人の心得、計算等、少しずつ問題やスケジュール等を組み立てていった紙だ。
「別に怒りにきた訳ではない。ただ、俺にも相談してほしい。」
「......も、申し訳ございません。」
「......俺は我が子を好きなように育てようと思っている。間違っていたり、危険だったりしたらそれは注意するが、基本親がどうこう言う問題じゃないと思う。」
ディンビエラの言う通りだ。けれど、私には譲れない物もあるのだ。そう言って反論すると、少し口論になった。父さんに喜ばれる為に、貴方を利用していたなんて言えず、私は彼にとって頑固者として捉えられたようだ。それから、ディンビエラはギルドが忙しくなったらしく、しばらく見る機会もなかった。
ついに、我が子が産まれた。けれど、少しの間しか幸せな気持ちを味わえなかった。
「おんなの、こ?」
「そうですよ、ストルラッシュさん!」
手伝ってくれたギルドの人達の言葉が辛い。おめでとう、とか、いいお母さんになってあげてね、とか。赤子の泣き声も聞こえず、ただ絶望に浸っていた。
もうお昼かな。過去の事を思い出していたら、もうこんな時間になってしまった。どこを探してもアンネリアが見つからないが、食事になったら流石に戻るだろう。予想は当たっていた。管理支部へ向かう途中のアンネリアを発見し、私は声をかける。
「......なんでしょうか。」
ずいぶん無理をしていますね、なんて言えるはずない。実際に顔は前よりやつれていて、元気がない。けれども何か近寄り難い雰囲気を纏い、少し不気味だ。勇気をだして、第一声を放つ。団長に頼まれた、母親としての任務だ。
「わ、私は貴方を支えたいです。」
やや忙しくて、全然投稿できていません。
おそらく投稿ペースが落ちると思いますが、ご理解よろしくお願いします。




