第五十六話 セントレイク救援戦・情報共有 後編
「まるで地獄だ......。」
罪人が放たれ、それらを抑えるべく動いた王国兵。しかし、数の暴力には敵わずに敗走してしまった。レシアボールさんはそれらを横目に、僕を地下から連れ出す。
「今は遠くに逃げよう。どこか良いあてはあるか?」
頼りたいあの人。僕は姉の居る街の事を言った。
「サイサンシュレイトの民が?」
「今回の幹部と思われる王国兵が、サイサンシュレイトを襲った人と同一人物でした。」
「......。」
信じたくないが、非常に有り得る。ファントレアル騎士団長は、顔をあげて時系列の整理を始めた。
「テッツァーレの報告にあった弱い王国兵。それがサイサンシュレイトの民だと思われる。だがしかし、襲撃された当初はそのような王国兵は居なかった。どこかのタイミングで入れ代わったか......。」
「全員の動きが精練されていた、と。我々が来た時は、確かに厳しかったが思ったよりはという感じではあった。」
ハルセンジアさんがそう言って思考を巡らせる。エミラッシェさんも、あの時の増援ではないですね、と思考を放棄した。
「私達には分かりません。セントレイクの内部に居た人々は、何か気付いた事はあったのでしょうか?」
「我々が捕らえられていた時だろうな。それしかタイミングがないだろう。」
セントレイクを制圧した後、襲撃した王国兵達は証拠品を奪い、一部を残してサイサンシュレイトの民と入れ代わった。その後ハルセンジアさん達がやって来て、セントレイクを解放した。
「......では、何故その時に私を連れ去らなかったのでしょうか。」
全員の視線がサーテレラに向かう。殺さずに連れ去るぐらいなら、何故証拠品と一緒に街から持ち出さなかったのか。
「サーテレラ、あの王国兵はなんと言っていた?茨の城団にはその情報が足りないのだ。」
「分かりました。」
ハルセンジアさんが質問したことにより、サーテレラは何があったのかを説明し始めた。管理支部から解放された後、戦闘が出来ない住人を守る為に管理支部に残ったという。そこに一人で突撃しに来た王国兵がいたので応戦しようと身構えたら、死角から魔弾が飛んできたようだ。
「死を覚悟しましたが、捕縛されてその王国兵にさらわれてしまいました。」
その王国兵は、サーテレラの間抜けさを煽りながらぺらぺらと事情を話したらしい。どうやらサーテレラの弟が捕らえられ、連座対象としてサーテレラも狙われたとか。
「意味が分からない。」
「私もです。この戦闘状態の中、そんなことを言っていられますか?それに、連れ去られるタイミングも不自然です。おそらくその王国兵は、大した事は知っていないでしょう。」
「捕らえるように命じられたが、何かを隠す為にあえて嘘を言ったと?」
「弟がいるのは事実です。エンディストさんから聞いた限り、その罪も本当の事でしょう。となれば、弟を捕らえたという大義名分を手に入れたと考えていいでしょう。」
「では、サーテレラは何故狙われたと思う?」
少しためらったように目を彷徨わせて、言っていいのか分かりませんけれど、と言って話しを始める。
「我が家は神具を所有しているのです。その神具が女性しか使うことが出来ないという物で......。勿論私は使うことが出来ますが......。」
「神具を狙っている、か。私も先程エンディストから聞いたが、サーテレラを使って神具を操ろうという魂胆か?」
そう言ってファントレアル騎士団長はエンディストを見る。しかしエンディストは首を振ってその説を否定した。
「そんな物、対応する神を信頼できる女性に宿せば済む話です。けれど、何故連れ去るタイミングがおかしかったのかは説明できる気がします。」
「なんだ?」
「我々が落とした王国兵の拠点ですね。そこから出てきた王国兵が何かしらを吹き込んだ可能性があります。捕虜になった王国兵が口を割ってくれましたよ。」
「は?」
ファントレアル騎士団長の反応から見るに、勝手に捕虜と接触したのだろうか。そんな事はお構いなしに、それらを裏付けていく。
「時系列としては......。セントレイクが襲撃される前に、デート・ガルディアに王国兵の拠点を起点にした包囲網が敷かれます。そこから一部の兵がセントレイクを襲ったのでしょうか。それはともかく、デート・ガルディアを攻めている時に王都から伝令しに来た王国兵ですね。彼が持ってきた情報は、サーテレラを捕らえよ、らしいです。」
「裏付けになってないぞ。証拠がない。王国兵に信用がない。」
「この場に限っては、私を信用してほしいです。私は嘘を見抜けます。」
自信満々にそれを言い放ち、周囲を困惑させた。すぐさまエンディストを庇わなければ変な人認定されてしまう。
「ええっと......、エンディストさんのスキルです。名前は知りませんが、行使したのは見たことがあります。」
「そ、そうか。では次......。」
後は大した話は無かった。王都、セントレイク、デート・ガルディアの情報を共有し、サイサンシュレイトとの対応を練っていく方針だ。日が沈む頃、大体の事は終えて解散していた。
「サイサンシュレイト、か。」
ふと見上げると、エミラッシェさんの姿しか映らなかった。
紅茶の代わりに水を飲む姿は、何か寂しそうな、そんな雰囲気。
コップを口から離し、喉を鳴らした後に口を開く。
「違和感は感じていたの。けれど、生きるのに必死だった。」




