第四十九話 ぐちゃぐちゃ
「いらない。」
「いらない。」
「いらない。」
プォージートから貰ったプレゼントも、似顔絵も、壊して、引き裂いていった。プォージートなんていなかった。だから、苦しくなんてないよ。
「アンネリア、何してるの?って、ディンビエラさんから......。」
「ヴィンデート......。」
ふと辺りを見渡す。机も、椅子も、ベッドも、ペンも、クローゼットも。全部壊れて、ボロボロになっている。小さい頃から一緒にいたから、全部プォージートが......。
「ううん、いない。これは全部無かった。」
「アンネリア......、おかしいよ。」
全部忘れたいのに、憎い。矛盾する思考は天秤にかけられ、傾いた。
「プォージートを返して!」
崩れていくレンガ造りの家。私は潰されそうで、死ぬんだって思って目を閉じた。その時、プォージートの叫びが聞こえて、私は前方に突き飛ばされていた。
「......た、助けなきゃ。」
目の前にあるのはレンガの山。そこからプォージートさんの指が、少しはみ出ていた。すぐに退けようと力を入れてレンガを抜こうとしたら、レンガの山が崩れていった。
「あ、ああぁ。」
その隙間から、血が流れ始めた。呆然と座り込んでいると、ストルラッシュが迎えに来た。
「あ、アンネリアさん。団長が呼んでいます......。避難しましょう?」
「待って......、プォージートが......。」
何があったのかを察したらしいストルラッシュは、後でまた向かいますと言って、私を抱えて走り出した。
王国兵を追い返した。けれど、それは酷い光景だった。団員が帰ってこなかった。友達の頭が吹き飛ばされた。王国兵も、住民も、道端に転がっている。見ないようにしていたけど、目に入ると胸が締め付けられる。辛くて、このまま逆毛の霊獣団に篭っていたかったけれど、プォージートが待っていると信じているから、お父さんとストルラッシュと一緒にプォージートの下へ向かった。
瓦礫の下にいたプォージートは、人の形をしていなかった。ぐちゃぐちゃに潰されて、顔すら拝めない。すぐにお父さんが、私の目に手を当てて、見るなと言った。
「このまま、帰れ。頼んだ、ストルラッシュ。」
「......なんで。」
「アンネリアさん、帰りましょう?」
ストルラッシュが私を抱える。私がプォージートを見れないような角度で。そのまま、歩き出した。
王国兵が拠点にしている森。残った一人の王国兵を、私はプォージートみたいにぐちゃぐちゃにしている。魔弾で叩き潰して、槍で肉を引き裂いて、内臓が見えたら徹底的に潰していく。
「アンネリア、止めろ。」
私の行為を止めようとするお父さんの声が、後ろから聞こえる。手を止めて、振り返る。
「......お父さんはなんにも思わないのですか?憎いなんて思わないのですか?」
「......俺は復讐の為に王国兵を殺しているんじゃない。」
やっぱ、お父さんは団長だなって思う。立派で、尊敬すべき者だ。こんな切り替え、私にはできない。
「なんでそんなことをする?」
「全部捨てたいです。嫌な思い出は叩き潰して、ぐちゃぐちゃにしたいです。」
「それで、捨てられるのか?」
「......気持ち良いだけ、です。さっきは憎しみも全部ぶつけて、スカッとしました。」
お父さんは顔をしかめて、口を開く。
「憎むなとは言わない。そんな事を言う権利は誰にもない。でも、俺は......、父さんはな、今のお前が大嫌いだ。」
「......うん。」
お互いに背中を向ける。私が槍を突き刺すのと、お父さんが指示を下すのは同時だった。
「これから二時間ほど休憩を取る!少し早いが、昼食も終わらせていくように!」
もう感触がない。突き刺しても、ねちょねちょした音だけが鳴る。
......なんでこんな事をしてんだろう。
全部忘れたいのに、傷をこじ開けるような事をしてる。そんな矛盾した行動に悩んでいたら、ヴィンデートの声がした。
「あ、アンネリア。せめて顔、拭いたら?」
「顔?」
「血、付いてるから......。」
そうか。帰り血を浴びて......。
「醜い?」
「だから拭いてほしい。せめて顔だけでも......。」
「そうなら、このままでいいや。醜いままで、いいや。」
「アンネリア、朝からおかしいよ。昨日の夜に全部吐いたんでしょ?」
ヴィンデートがたじろぎながらも、私の心配をしてくれる。それを見て、笑ってもらって良かったと思った。だって、私に向けて笑顔を向ける人はもういないから。
「......ごめんね。嘘ついた。」
皆、壊れ物を扱うようにして。私にもう一歩が踏み出せないんだ。ううん、もう壊れてるのかな。




