第四十六話 起こっている事
平原の上が、人々で敷き詰められている。この様子を遠くから見ていた俺、ラクタウトが、皆に知らせる。
「増援、来ちゃったな。どこからどう見ても王国兵だ。」
「増援が欲しいとは思いましたが、そちらではありません!」
ラッテルタが悲鳴を上げた。遠くから見える限りでは百人ほどが近づいて来る。
「エミラッシェ。お前はこの事を知らせに向かえ。俺達は遠くから一人でも多く潰す。」
「......無茶はしないで下さい。」
「当たり前だ。」
そう言ったところで、エミラッシェはセントレイクへ走ってゆく。
「ラッテルタ。頼んだぞ。」
「......任せて下さい。」
アンネリアから人を紹介したいと言われて、顔を洗ってからロビーに戻る。そこには、アンネリアと見覚えのある人が、話し合っているところだった。
「厳重に保管されているはずです。管理支部長と騎士団長しか知らないかと。」
「ならば安心です。問題はサイサンシュレイトですが......。」
「サイサンシュレイトが、どうかしたのですか?」
団長の故郷の名前が出て、ついつい口を挟んだ。彼は驚いたように体を震わせ、こちらを向いた。
「早いですね。すっきりしましたか?」
「はい。それで、アンネリア。彼は誰だい?」
アンネリアに聞いたはずだが、返事が返ってきたのは別の方向からだった。
「私から説明致します。私はエンディスト。デート・ガルディアの手前で、恥ずかしながら力尽きてしまいました。そのところを、あなた達に助けて貰ったということです。」
護衛任務中に、かなりやつれていた様子で倒れていた彼だ。
「左足は大丈夫ですか?」
「心配には及びません。」
「そうですか。......あの、敬語を使わなくてもいいのですが。ほとんどハルセンジアさんが助けてくれていましたし......。」
エンディストはとんでもないと言い、俺に敬語を使い続けると言い張った。アンネリアも呆れた様子でエンディストを睨み、俺に事情を説明する。
「全員命の恩人なんですって。私も押し切られたし、今はそのことについて話し合っている場合ではないわ。」
「......諦めろって言うこと?」
「ええ、じゃあエンディスト。状況を報告して。」
「はい。」
「ヴィンデート、何が起こっているのか。よく聞いて。街が襲われた分、私たちも無知ではいられないの。」
そうしてエンディストは、俺にこの世界で何が起こっているのかを、主観で説明し始めた。遠くの日々を思い出すような、懐かしそうな顔で切り出した。
「私は王都のギルドに所属していました。おそらくは、ここと変わらぬ日々を過ごしていたでしょう。」
しかし、苦虫をかみつぶしたような顔になり、異変が起こった日の事を詳細に説明し始める。と思ったら、宗教の説明を始めた。
「アグライト教という機関がありまして......。その名の通り、アグライトを崇め奉る人々が集まって出来た機関です。王国とも密接に繋がっているので、かなりの人々がいます。」
「その宗教が、何か関係があるのでしょうか?」
「ええ。さらにもう一つ、大きな出来事を説明しましょう。いつの日からか今日まで、ビート系の魔法が使えなくなったでしょう?」
そのおかげで夜は暗く、毎日火事の恐れがある。かなり日常生活に支障をきたした出来事だ。それは王都も例外ではなく、大都市なだけに一層混乱に陥ったらしい。
「その原因としては、炎の属性を司る神を、アンデルビート国王が支配下に置いたと。」
「......意味が分かりません。」
正直自分も分からないと零し、真面目な顔でエンディストは話を続ける。表情がくるくると変わる人だとは思う。感情が分かりやすい。
「それを聞いたアグライト教のトップが、その方法を欲してアンデルビート国王を襲った事で、王都は混乱に陥りました。」
いきなり襲ったのか。話し合いはしなかったのかと疑問に思ったが、その疑問にアンネリアが答えてくれた。
「話し合いは行ったそうよ。でも、そこのトップが元々上手くいったらアンデルビート国王を殺害するつもりだったんですって。」
「結局上手くいかなかったのか。」
「そうなりますね。そこの幹部の友達から聞いたのですが、ほとんどそこのトップの暴走らしいです。多くの人々は反対していたのですが......。」
殺されかけたアンデルビート国王は激昂し、アグライト教の人々の粛清を始めた。それに抵抗したアグライト教は、アンデルビート国王との対立を選んだそうだ。
「それで、聞いている限りでは、こちらが襲われる理由が分からないのですが......。」
「ええ、そちらではまた、神具という物を説明させていただきます。」
神具とは、神の子孫しか使えない道具や武器の事らしい。神の子孫の意味が分からなかったが、長くなるので今はカットされた。
「アンデルビート国王は、アグライト教の建物に安置されていた神具を目に入れました。その後、炎の神を支配下に置いたアンデルビート国王は、炎の神の神具を自在に操れる事に気付いたのです。神具を使う事で、独裁的な政治を安定して続ける事ができる。そう思ったアンデルビート国王が、神具がある所に王国兵を派遣している、と。」
「......デート・ガルディアにも、神具があるの?」
「ええ。でも、セントレイクには神具があるなんて聞いた事がないわ。」
セントレイクが狙われたのは、恐らくアルニエス経由でエデルジート団長の事が知られたからだろう。先程のサイサンシュレイトが云々という話も、おそらくは......。
「サイサンシュレイトにも神具があるのですか?」
「はい。双剣エデライブが眠っている、と。」
やはり、だ。しかしここで一つの疑問が生じた。
エデルジート団長は、神の子孫というものだろうか。
現在把握が終わり、次の襲撃に備えている頃、逆毛の霊獣団に伝令が入った。団長であるディンビエラさんが読み上げる。
「王国兵の拠点が見つかったそうだ。北の山に一個。東の森に二個。南の森に一個。少なくとも四つの拠点が見つかった。いつ終わるのか分からないと、恐れながら行う防衛を終わらせるべく、戦力を集めたい。......だそうだ。」
ざわりとした。伝令に書いてある通り、一旦だが戦いが終わるのだ。それと......と、ディンビエラさんは咳ばらいをしてざわめきを止めさせる。
「セントレイクについて、南の森の拠点を制圧した後、そのままセントレイクの救援に向かう事が決まった。」
難しいと言っておきながら、無理矢理話を通したのだろうか。かなりの負担になるが、こちらとしては涙が出るほど嬉しい。
「っ......!ありがとうございます!」
「と、言うことだ。俺達は南側を担当したい。同行したい団員は手を挙げろ。」
俺は真っ直ぐに手を挙げたところ、ちらほらと手が挙がる。見たところ、六人程だ。その中にはアンネリアとエンディストも居る。
「アンネリア......。」
「私は、約束しました。ヴィンデートに、貴方の街を助けるって。だから団長、行かせて下さい。」
「私はここの団員ではないのですが、恩を返す時です。ヴィンデートさんにも、ハルセンジアさんにも、それを望んでいるアンネリアさんにも。」
二人の覚悟は十分みたいだ。俺は視線を下にずらし、アッツァディアを見る。
「アッツァディア、君はまだ戦えないでしょ?」
「僕は......。」
震えながら手を伸ばすアッツァディア。俺は無理はしなくていいと諭す。そこに、アンネリアがアッツァディアに近づいて、目線を合わせるように座り込んだ。
「大丈夫。私たちに任せて。じゃあ......、ここの留守を頼まれてくれる?」
「本当?」
「ええ、お家に帰れるから。」
「じゃあ、僕も頑張る。」
アンネリアは立ち上がって、俺を見た。少し寂しそうな顔を、アッツァディアに見せないように。
「勝とう?この戦い。」
「......無理しないで。」




