第二章 エピローグ・旅まで
「サーテレラお姉様......。」
呼んでも来ない事は分かっている。それでも、僕、サイファリアは少しの希望も捨てちゃ駄目だと言い聞かせてしまう。
「誰か居るのか?」
お姉様を呼んだら、思った声と違う声が反応した。ここは地下牢で、誰も居ないと思っていたのに。目を凝らすと、僕が居る牢とは通路を挟んで反対側の牢に、誰かが居るのが見える。僕と同じく、魔法を封じる手錠も付けられており、罪人であるとも確信した。
「反逆を起こした罪でここに入れられた、サイファリアという者です。」
「こんな子供が......。アンデルビートも横暴さが極まってきたか?」
「いや、無実で入れられた訳ではないんです。実際に起こしてしまったというか、止められなかったというのか......。」
僕の親友、アグラメシィアが、アグライトを得ようとした。いや、大司教様がアグラメシィアを上手く操って、アグライトの力を得ようとしたのだろうか。そのために、アンデルビート国王が持っている実験の資料を欲し、王都は地獄と化した。それらの事を話したら、彼は唸ってしまった。
「うーん、確かアグライト教はアンデルビートに近い組織だったはずだが......。」
「そうなんですか?大司教様は、アグライト様が全ての世界を創る。そのためにはアンデルビート国王は邪魔だ。と、言っていました。」
確かに、アンデルビート国王関連の情報は早いとは思った事もある。そして、どうにもアンデルビート国王を呼び捨てするのが気になってしまう。
「そういえば......、何故アンデルビート国王を呼び捨てにしているのでしょう?」
「あ......、名乗るのを忘れていたな。アンデルビートの兄にあたる、レシアボールという者だ。」
「え......?」
つまり王家?アンデルビート国王が、レシアボールを捕らえた事で王になったということは知っているが、レシアボールが生きているなんて知らなかった。
「力で乗っ取ったんだ。しばらくは暗殺の危険性があり、それにより血筋が途絶えるのを懸念したんだろう。そのお陰で、今は生きている。」
「ええっと......、レシアボール様?」
「さん付けでいいよ。今は権力なんて持ってないし、......もう長くは生きられないし、な。」
何があるのだろう。病気とか、衰弱とか?
聞いてみると、僕には見えない首を振って。
「そんなものじゃないよ。処刑なんだ。」
「え、だってさっき血筋が途絶えるなんて言っていたのでは......。」
「少し前に......、アンデルビートが来て。」
そうして、数日前の事を話し始めた。
「兄さん。」
「アンデルビート、上の様子はどうだ?」
「一部の機関で反乱が起きたが、すぐにおさまる。」
淡々と述べているように見えるが、少しそわそわしているのがわかる。
「どうした?落ち着きが無いんじゃないのか?」
「......言いたい事があり、ここに来たんだ。」
少し口ごもるが、すっと表情を引き締めて言い放った。
「愛すべき女性ができた。」
「......良かったじゃないか。アンデルビート、今何歳だ?」
「丁度、昨日で四十だ。」
感慨深く思っていると、アンデルビートはその女性について語り出した。惚気かと思っていたが、聞いていく内になんだか不安になってくる。
「緑の髪をし、言葉にならないほど美しい女性だ。出会いは、俺が城壁の外を散歩をしていると、その女性が魔物に襲われていたのだ。魔物を討伐した後に怪我を診てみるが、もはや瀕死だった。目は潰され、腹を喰い裂かれ、酷い有様だった。部屋に連れ込み、癒しをかけて治したが、目だけは治らなかった。」
「それは......、その女性にとっては悲劇だな。」
「ああ、更にだな。耳もやられていたらしく、どのように声をかけても反応しない。いや、何かを発してはいたが、耳が聞こえない為に上手く話せないのだろう。そこで手を握ってみたのだ。そうしたら、私を探すようにもう片方の手を動かした。頼られている、心の支えになってやれる。そう思った。」
随分と壮絶な出会いだ。それに対して絶句していると、アンデルビートは予想もしていない事を言った。
「闇を人間の光とする。」
「どういう事だ?」
「俺は実験をしたんだ。神を宿す実験を。」
「何!?」
神は人間が操っていいものではない。
もしそうならば、とてつもない代償が伴うはずだ。
「私にビートの神を宿す事に成功した。力が溢れるのだ。」
「制御しきれているのか?」
「ああ。制御し、自我を保たせるのが今回の実験なんだ。」
ただ、それまでに何人を犠牲にしたのか。考えただけでも吐き気がする。それに対してアンデルビートは、幸せな未来を創る為にするべき事を話し始めた。
「彼女にアグライトを宿す。アグライトは闇を好み、闇で見ることが出来るのだ。目を奪われた彼女に、光を与える。」
「......。」
「そして、子供を作って皆を幸せにする。」
「......言いたいことは分かった。」
もう受け入れよう。この生活から逃げることが出来るんだ。
「ああ、兄さん。時期が来たら、処刑を始める。」
「そうだな、お幸せに。」
そう言って、アンデルビートは地下牢から出て行った。
「そんな事があったのですか......。」
「そうだな。」
そう言った時、地面が少し揺れた。
ほんの微量だが、滅多に地震など起きない為、焦ってしまう。
揺れはおさまったが、なにか違和感を感じる。
「少し明るい......?」
「日の光は入らないはずだが......。」
たった一本の蝋燭の明かりだけが、この地下牢を照らしている。その炎が大きくなった訳でもなく、ただ暗さが消えたといっていいだろうか。そのお陰で、レシアボールさんの顔を見ることができた。やせ細っているが、生気は消えていないようだ。整った顔立ちが銀髪と良く似合う。レシアボールさんの顔に見とれていると、手元がピキピキと音をたてている。
「......手錠が。」
「崩れていきます。」
その一瞬で、レシアボールさんは全てを悟ったらしい。
上を見上げて、一言言った。
「アグライトを宿したか。」




