第五話 [王の道]と衣食住 前編
「茨の城、ですね。」
「ああ、しかし今は放置しておけ。しばらくそこにいるだろう。」
部下が[王の道]を逃さなければ悠々とこの仕事ができたものを。
部下に命令した、念のためのテロ偽装の後始末をする。
念のためのテロ偽装なのだが。うまくいかないものだな。
口封じに殺す。
そんなことにならないことを祈る。
「フィリア嬢さん。談話室に来てくれ。」
俺、エデルジートはフィリア嬢さんだけを呼び、そのほかはお茶会を続行するように許可を出す。まあ、このような状況で続行出来るわけないが。
「エデルジートさん、どういう事ですか......?」
「嬢さんには話しておこうと思う。」
談話室の鍵を閉め、顔を引き締める。
「まず、[王の道]についてだ。」
「私のスキル......。」
フィリア嬢さんは恐れたように顔を強張らせて、しかし覚悟を決めたように俺の目を見つめる。自分のスキルがこのような大事になるとは思わかったであろう。
「このスキルは言葉の通り、王になることが出来る。」
「......え?」
「使えれば、な。嬢さん、魔力量が少ないだろう。」
「何故分かるのですか......?」
「[魔力測定]俺のスキルだ。」
自分や他人の魔力量を計る事が出来るこのスキル。俺はこのスキルを使って不遇な待遇を受けてきたシリアスとエミラッシェを救い、このギルドに入れた過去がある。
「それで、王になることがいけないことなのでしょうか。」
「今は時期が悪い。説明する。」
二十三年前、俺が十三歳の時に戦争が始まった。
元凶は今の王、アンテルビート国王だ。
アンテルビートは元々王家の三男であり、成績面や実務面で他の兄弟に劣っていた。そのため、次期国王になるのは絶望的だったそうだ。
しかし、彼は権力を欲して強行手段に出た。家族を暗殺し、城を乗っ取ったのだ。
だが、暗殺を逃れた長男のレシアボールは逃亡し、戦力を整えてアンテルビートに乗っ取られた城を奪還するために戦争を仕掛けた。しかしレシアボールは逆に追い詰められ、十三年前にレシアボールが捕らえられた事で、戦争は終結した。
俺もこの戦いに参加した。レシアボール側として。
この戦争の惨状を語ろうとしたら、フィリア嬢さんの顔が青ざめているのが分かった。
「......レシアボール?」
「なんだ。」
フィリア嬢さんは少し口ごもるが、泣きそうな顔でぽつりぽつりと言葉を繋ぐ。
「えっと......、お父さんは、レシアボール様を、助けるって。必ず帰ってくるから、家を守ってろって、私とお母さんに......。」
フィリア嬢さんの父親はレシアボールの側近だったのか。そしてこの子達の親がいない理由も分かった気がした。
「そして十年前、お母さんが逃げなさいって、もう戻って来ちゃだめって......。そのあと沢山の足音が聞こえて。」
やっぱり、処刑されたか。
ふと見ると、彼女は泣いている。
もう二度と会えない両親。それに泣いている姿は、昔の俺を彷彿とさせた。
「ごめんなさい、話を戻してもらってもいいでしょうか。」
目を腫らしているが一旦落ち着いたようだ。彼女は続きを求める。
「ああ、まあそうだな。今[王の道]があることによって次期国王として担ぎ上げられても叩き潰されるだけだ。嬢さんに至っては魔力量が少なすぎて、王になることすら叶わないと思うが。」
「一言余計です。」
コンプレックスなんですよ、と言って頬を膨らませる。
すまない、と謝ると話題を変えるように質問してきた。
「そういえば、王家は全員[王の道]を持ってるのでしょうか。神様から貰うのに全員持ってるのは考えられなくて。」
「全員持ってるな。詳しい資料が欲しかったら後で渡すが、ざっくり言うと王家は特別なんだ。」
「そうですか。」
後で資料を渡しておこうとも考えた。もし[王の道]の情報が漏れた場合、敵対する人間達の情報だ。
そもそも漏らさない為にも、この子達を保護しなければならないが。
「さて、ではここから嬢さん達の生活についてだ。」
「......何をすればいいのでしょうか。」
交換条件と勘違いしているのか。彼女は身構え、緩んだ頬を再び引き締める。
「こっちが面倒事にしない為に勝手に抱え込んだんだが、おこがましくて申し訳ない。大きく二つだ。」
「抱え込んだのだから面倒事になったのではないでしょうか。」
それ以上に面倒なことになるんだ、と言い、俺は続ける。
「まず一つは君達はここのギルド、茨の城団で働いてもらおうと思う。」
「......労働内容は?」
「色々だ、普通のギルドなら好きな仕事を選べる。と、いってもこのギルドは下位の下位だからな。管理支部で余りの仕事をやるしかないが。」
「......分かりました。詳しくは後で聞きます。」
ヴィンデート君に聞かなくていいのか?俺はそう呟くと、諦めたような目で。
「王家が関わってくるのに[王の道]を知ってる人を逃すことはないでしょう?拒否されたらそれこそ口封じにヴィンデートを殺すことになるのではないのでしょうか。」
......少しすれ違っているのか。いや、言葉が足りなかったのかもしれない。
俺は罪のない人を殺すほど腐ってはない。しかし、もし自分に危険が及ぶのなら。俺は迷わず人の道を踏み外すのだろう。
口封じに殺すのは彼女、フィリア嬢さんだ。
そのことを言おうとするが、口が動かなかった。代わりに、俺は頷いてしまう。
かわいそうではないか。ただ情に流されただけだ。そのようなことにならなければ良い。
彼女は笑う。もう落ち込みたくないのか。心が壊れるのではないのだろうか。
誰もが作り笑いだと分かる、下手くそな笑い方だった。




