陥落まで
「襲撃です!」
プファリアが焦った様子でギルドに入ってくる。どうせ魔獣や魔物が群れで迷い込んだだけだろう。私、カルテラッシェは面倒に感じながら、報告を促す。
「何の魔物です?ぱぱって片付けちゃいましょう。」
しかし、プファリアが報告したのは予想外の相手だった。
「黄色をベースにした紋章の鎧を着た人達......。おそらく王国兵です。」
「意味が分からないわ。何故襲撃なのよ。」
その時、辺りで爆発音が聞こえ、人々の叫びがあがった。
「王国兵の対応をしていた門番が殺されて、魔法で攻撃を始めたのです。」
「......数は?」
「分かりません。しかし、かなり多いかと思います。」
緊急事態だろう。内心焦りつつ、でもそんな姿を団員に見られたくないために、堂々と団長命令を下す。
「四手に別れて対処しましょう。攻撃を受けたら下がって回復すること。対応出来ないと感じたなら、他の部隊やギルドとの合流を優先すること。では......、逆光の鏡団、出撃しなさい!」
「「「「はっ!」」」」
敗北なんて有り得ない。そう思っていた。
家の屋根に飛び乗り、上から王国兵の数と居場所を確認する。
「この数......。アンデルビート国王は何を考えていいますの!?」
ざっと二百はいるだろう。南の門から次々と攻め込み、それぞれ大通りを中心に左右に展開されている。私達のギルドは、東側、西側にそれぞれ一部隊ずつ向かい、私がいる部隊は大通りの大群を対応することとなった。残りの一部隊は、後ろに下がって遠距離攻撃や回復を担当する。
「どうしますか?」
「左右は押さえてあるはずよ。遠距離攻撃に合わせて突撃しなさい。」
クソ生意気なストレイジが突っ掛かってきたが、怒りを押さえて返答することが出来た。ビートの魔法が使えなくなった時に、どうでもいい情報を持ち帰った挙げ句、その日から私に反発し始めた。
「団長、行きましょう!」
遠距離攻撃を確認したらしいプファリアが、突撃を促す。私も頷いて、屋根を蹴った。
中央で交戦している逆光の鏡団は、私含めて十二人。他のギルドも駆けつけ、割と押している状態だ。私は飛んでくる魔法弾を槍で弾き、バチバチと音を立てながら槍に魔力を込めて。
「やぁっ!」
空を突いて、痺れる衝撃波を前方に飛ばす。それを受けた王国兵は、北側から飛んでくる炸裂弾に直撃し、哀れな最期を遂げた。
「死にたくなければ退きなさい!」
そう言いながら、煙の中に斬り込んだ。二、三回ほど確かな手応えがあり、血飛沫もかかる。途中で王国兵が空に向かって光の柱を放ったように見えたが、気にせずに攻撃を続ける。煙が晴れた頃には、四人の王国兵が倒れ、その他は退いている様子が見える。牽制の為、魔法弾を放とうとしたところ、左右の魔力を察知した。
「押さえているはずでは......?」
飛んできたのは路地裏からではなかった。家を軽々飛び越え、降ってくるのは炸裂弾。
ドォン!ドォン!
と、降り注ぎ、身動きがとれなくなる。すぐに防衛陣を展開し、皆を守る。しかし、数人ほど防衛陣の中で息絶えていた。
「中央の部隊は囲ったわ。......けれど。」
「いいえ、団長が居なければ皆死んでいました。ありがとうございます。」
ストレイジが素直に感謝し、プファリアが辺りを確認する。報告によると、逆光の鏡団は、この攻撃で七人が死亡した。他のギルドも死者が出ている。
「爆撃は止みました。退きますか?」
「今防衛陣を解除したら、さっきの奴らに攻撃される。」
退いたように見えた中央の王国兵は、爆撃の巻き添えを受けないように、避難していたらしい。もう防衛陣を包囲しており、武器を構えている。
「こういう時の為の遠距離攻撃でしょう......?早く来なさいよ......!」
「カルテラッシェ団長......。」
私の怒りが彼らに届いたのか、炸裂弾が北側から飛んでくる。私達の遠距離攻撃部隊だ。攻撃は短く、一時的な目くらましだろう。すぐに防衛陣を解除し、私達は待避する。
「街の外からの攻撃なんて......。そもそも見えないでしょう?」
「団長が攻撃している途中に、煙の中から光の柱があがりました。おそらくそれを目印にしたのでしょう。」
なるほど。ストレイジの説明に納得しているところで、互いの前線がぶつかっている所に光の柱があがり出した。見える限りでは六本。街の南側が全壊する勢いだ。
「これは......。ギルドに待避しなさい!」
「私が伝えて来ます。団長は早く身を隠して。」
そう言ってプファリアが前線に向かう。止めようとするが、ストレイジが押さえて、私を引っ張って反対側へ走り出した。
「ストレイジ!はなしっ、なさい......!」
「......今度こそ、守らせて下さい。」
今度こそ。それは、私の叔父さんの事?
「団長、着きましたよ。」
逆光の鏡団は目の前。少し重い足取りで、そこに入った。
「戻りました。」
そう言って、私の団員はほとんど帰ってきた。
でも、数人姿が見えず、泣きそうにもなった。
「そう、プファリアは死んだのね。」
「はい......。私達を庇って......。」
一緒にこの世に生を受けてから十八年。
一緒に勉強して。
一緒に遊んで。
一緒に逃げ出したりもした思い出。
「ひどいよ。」
やだ。団長らしくない。でも、抑えられなくて。涙が頬をつたっていた。
死亡者は十五人。三分の一ほどが返らぬ人となった。私が抑えられなくて泣いている中、皆は交戦の準備をしている。
「それでは、行ってきます。」
「だめ......。」
遠距離攻撃部隊が扉に手をかける。それを開けたら、二度と会えない気がして、立ち上がったところに。
バキッ!
「え。」
扉が真っ二つに。そして、扉に手をかけていた団員も、縦方向に真っ二つになっていた。
「いやああぁぁ!」
「団長!落ち着いて!」
ストレイジが私の目を押さえ、私を後ろに下げる。ねちょねちょした音が聞こえ、二つの重い何かが床に衝突する。いや、元々一つだったモノだろう。
「ん?ああ、すまない。扉を開けようとしただけなんだけどな。」
「......っ!」
ストレイジの手を振り払い、入ってきたらしい敵を睨む。茶髪で五十歳ぐらいの男性で、新しく付いたような血の染みが、服にへばりついている。
「抵抗はするな。他のギルドは全ておさえた。君達以外、武器を捨てたよ。」
「そんな......。」
「本当の事だ。なんなら俺を倒してここを出るか?南側は更地で、北側には火の手があがっている。逃げ遅れた住民を庇って死んだ兵士がそこらへんに散らばり、庇われた住民も爆発に巻き込まれ、炎に包まれて。そんな光景を見て、お前達は武器を握れるのか?」
吐き気がした。そんな事をする王国兵に。そして、そんな事を淡々と述べる目の前の男に対して激しい怒りがふつふつと沸いてくる。気づいたら。
「団長!?」
金属音。鈍く重い音が鳴ったと同時に、心の言葉が漏れた。
「許さない!プファリアを......、皆を返して!」
「感情に操られ、若くして命を落とすとはなんて哀れな。」
気づいたら槍と剣がぶつかり合い、殺し合いが始まる、はずだった。
力を入れてもぴくりとも剣が動かない。そして槍が床に弾かれ、気づいたら床に衝突していた。
「ここの将がでしゃばってくれて助かったよ。あんたが死ねば、セントレイクは陥落だ。」
「くっ!」
振り下ろされる剣。それは私の首に向かって行く。
......私もそっちに行くよ、プファリア。
......。
「が......っ。」
「......ストレイジ?」
私を覆うように被さったストレイジは、背中を斬りつけられている。追撃をかけるように奴は剣を突き刺し、ストレイジの胴体を剣が貫通した。私の首の寸前で止まって。
「武器を......、捨てて......。」
「今......、癒します......。」
そう言って癒そうとしたとき、私の手に剣をたたき付けられる。
手首を切断され、私の左手が宙を舞った。
「つあああぁぁっ!」
「余計な事をするな。せっかく生かしてやろうと思ったが......、大人しくさよならも出来ないのか?」
ストレイジが血を吐きながら、必死で私を庇う。
「手首を......、押さえて......。」
「......ああぁっ、痛い!痛い!」
手首が熱い。頭が寒くてぐちゃぐちゃする。
そんな中、ストレイジは声じゃないような声で、私を諭す。
「抵抗を......、しないで......、いき、て」
そう言って、私にぶつかる。ぶつかる?
手足で自分の胴体を支えていたストレイジ。
「スト、レイジ......?」
私の意識も薄れていく。だから、ストレイジの声が聞こえないんだと信じたい。だけど、奴の声ははっきりと聞こえてしまった。
「お前はどちらを選ぶ?今死んでしまったこいつの言う通りに降参するか。それとも無駄死にさせるのか。」
「......。」
痛い。辛い。悔しい。憎い。
でも、声が出ない。
私もそっちに行きたい。生きたくなんかない。全部逃げてしまいたい。
「声も出せないか。......お前らは?抵抗するか?」
重いものが落ちるような、そんな音がする。
そっか。もう終わりなんだ。
「セントレイク、陥落だな。」
その後、私は真っ黒な世界にいた。
何も聞こえなくて、何も感じなくて、声すら出せない。
......プファリアに、ストレイジに、皆に会いたい。ひどい団長でごめんねって言いたいよ。
そう思っていた。でも今のカルテラッシェには考える事すら出来ない。
闇に呑まれて、自分を失っていく。
でも、なにか。
少し温かい。




