第三十二話 護衛任務
「そうか、この街を味方につけたか。」
ラクタウトの報告から、アンデルビート国王を退ける為の戦力は整いつつあると言ってもいい。後はフィリアが見つかる事だが......。なにか嫌な予感がした。
良く眠り、爽やかな目覚め。
今日はデート・ガルディアまで護衛する日だ。
「おはようございます、ハルセンジアさん。」
「ああ、時間通りだな。」
朝六時。すでに着替えた俺は、朝食を済まして最終確認をする。剣、食料、魔術具、その他諸々......。準備はばっちりだ。全て馬車に詰め込み、ハルセンジアさんを呼ぶ。
「依頼人の所へ行くぞ。門で待機すると言っていたからな。」
門に着くと、例の老人と少女がいた。
「わざわざありがとうございます。では、行きましょうか。」
「ええ、先に馬車にお乗り下さい。」
ハルセンジアさんが老人のプォージートと、少女のアンネリアを馬車に乗せ、俺も後に続いて、ハルセンジアさん自身は馬を操る。こうして、デート・ガルディアまでの護衛任務が始まった。
一つ目の平原。移動力強化の魔術具のおかげで、普段より速く流れていく景色を眺めているところ、アンネリアさんに声をかけられた。
「貴方......、ギルドってどんなところ?」
「ハルセンジアさん......。」
「話し相手になってやれ。敵襲の時は声をかける。」
勤務中だが、話しても大丈夫らしい。俺はアンネリアさんの話題に乗る。
「ギルドは依頼をこなして、お金を稼ぐ仕事をする人が集まる機関です。」
「あ......、そういうことじゃなくて。えっと、楽しい?」
それは......、今までの生活に比べたら。
「......楽しい、です。」
「......私、団長の娘なのに勉強ばっかりで、ギルドのこと全然知らない......。」
落ち込むように目を細めたアンネリアさんに、プォージートさんが慰めるように頭を撫でる。そして諭すように、優しい声で。
「あと少しの我慢ですよ......。テル教育校でギルドについて沢山学びます。」
「そういうことじゃない!私は......、データとか、資料じゃなくて......。」
アンネリアさんが涙目になりながら激怒し、プォージートさんをキッと睨む。
その時、馬車が減速し始めた。
「ヴィンデート、サウディパウロが三匹だ。こちらに向かって来る。」
鋭い声で俺を呼び、戦闘体制をとる。俺も馬車から下りて剣を持った。
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サウディパウロ 1歳
攻撃力 8
守備力 32
魔力量 40
速さ 4
体力 61
獲得スキル
なし
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速さはないが、しぶとさはピカイチ。口から魔力の塊を飛ばすために放置はできない。見た目は鎧を着たような大型のレレティックだ。鎧のような物は実は皮で、分厚い為に本当に鎧に使われるそうだ。
「魔力攻撃は剣で弾ける。隙を見て皮の隙間を斬れ。」
そう言われた瞬間に、サウディパウロは口を開き、青色の魔力の塊を放った。思ったより速いが目視でき、真っ直ぐにしか飛んで来ないので、対処は容易だ。剣で横に弾き、攻撃をかわしながら詰める。サウディパウロは鈍い魔獣なので、横を取ることは簡単だ。
「やっ!」
一匹だけ皮の隙間を斬って引き、[ステータスオープン]で体力を見る。数字は17。致命傷を与えることが出来たようで、地面にうずくまり、やがて動かなくなった。
「追撃が来るぞ。」
数が少なくなったために、飛んで来る魔力攻撃の数も少なくなっている。次々と横へと斬り落とし、次のチャンスを窺う。魔力量を見てみれば、7と3という数字が見える。
「もう魔力攻撃が切れそうです。」
そう言ったそばから、片方のサウディパウロは魔力を出すことが出来なくなり、辺りをうろうろし始めた。そこから約二十秒後、もう一匹も魔力攻撃をして来なくなる。
「念のため、ヴィンデートは馬車の周りで待機だ。俺が死骸をとって来る。」
サウディパウロの死骸を三匹分馬車に詰め込んで、移動しながら解体作業を進める。プォージートさんが手伝ってくれて、思ったより速く終わった。
「......森だ、気をつけろ。」
気を引き締めて森へ入る。昼近いのか、木漏れ日が激しく光っていた。