第二十八話 混乱と希望
「全てはアグライト様の為に!」
大司教様がおかしくなったあの日から、戦争が始まった。
隙をみてここから逃げ出そうとするが、そんなことは出来なかった。
管理支部には多くのギルド関係者が集まっていた。
誰もが現状を知りたいのだろうが、この状況では集まる気がしない。
「貴方はこの状況を知っていて?」
「カルテラッシェ......。」
この街の問題娘だ。面倒な者に目をつけられたな。
「いいや、知らない。おそらくこの状況の原因を知っている人はここにはいないだろう。」
「そう、じゃあ私は帰るわ。行きましょう、プファリア。万が一の為にストレイジはここに残りなさい。重要な情報を入手したのなら、直ぐに逆光の鏡団へ戻ること。」
そう言って彼女はストレイジを置いて、管理支部から出て行った。
「大変そうだな、ストレイジ。」
「......団長が代わってからずっとそうですよ。私がしっかりと守っていなかったから......、サンデルエイト団長はデラストレイレスの犠牲になってしまいました。せめてもの償いですよ、元団長の娘である彼女に命令されている立場なのは。」
「それはあまり褒められる事ではないと思う。」
ストレイジが緑の瞳でむっとこちらを睨む。
それを気にしないで俺は言葉を続けた。
「命令されて言われるままに動くのではなく、団長を支えろ。間違った方向に向かわせる事なく、そうなろうとしたときには何が何でも引き戻せ。」
衝撃を受けたような顔で、額に汗を浮かべながら彼は声を放つ。
「......ストレイジ、重要な情報を入手したため、逆光の鏡団へ帰還します。」
そう言って少し重い足取りで、ストレイジは管理支部から出て行った。
「望む情報は手に入らない。とりあえずこちらも帰還しよう。」
三十分ほど情報を集めようとしたが、やはりこのことを知っている人はいないと結論付けて、茨の城へ帰る。大通りを下っているとき、テレヴァンスが口を開いた。
「もし火打ち石があるなら、試してみてもいいかも知れません。」
「良い案だ。おそらくあるとは思うので、ミレーマーシュに用意させよう。」
茨の城に帰還すると、玄関で知らない老人と幼女が、ミレーマーシュさんと話していた。
「あ、エデルジート団長。」
「今戻った。......それで、この人達は?」
それは説明させてもらいます、と言って老人が幼女をかばうように位置取る。
「私達はここから北に向かったところにある、デート・ガルディアの街のギルドの者です。こちらは団長の一人娘のアンネリア。彼女が来年行く予定である、テル教育校の下見の帰路の途中の事です。急にビート系の魔法が使えなくなりました。持っていた食料が温めなければならない保存食であり、それに加えて、恥ずかしながら護衛である私はビート系の魔法しか使えないのです。そのために護衛を必要としているところにこのギルドを見つけました。」
「なるほど、とりあえず所属ギルドと貴方の名を聞こう。」
老人ははっとして、癖であろう髪を少し整えてから名乗った。
「デート・ガルディアの街にあるギルド、逆毛の霊獣団のプォージートと申します。」
「ではプォージート、ここから北に進むと管理支部がある。そこに依頼内容を申請すれば、この街のギルドの者が依頼をこなしてくれるだろう。」
この街のシステムについて説明すると、プォージートは笑顔でお礼を言って出て行った。まあ無事に辿り着くだろう。それより、大事なことを思い出した。
「ミレーマーシュ、火打ち石を用意できるか?それなら火を起こせるかもしれない。」
「......ヴィンデートも同じことを言っておりましたよ。準備はできています。準備ができなのなら、キッチンへいらしてください。」
キッチンについてはミレーマーシュに任せきりだったからだろうか。初めて見た時よりも、道具の配置が違っている気がする。
「エデルジート団長、いきますよ。」
耐火性の机の上にあるのは少量の藁。
ミレーマーシュは火打ち石と金属を打ち付け、火花を散らした。
カッカッカッ、カッカッカッ。
「......少し燃えていませんか?」
テレヴァンスがそう指摘し、ミレーマーシュが息を吹き付ける。
そしたら、炎が大きくなった。
「本当はこれを炭化させた布等で包んで炎を大きくさせるのですが......。」
「とりあえず、必要な時だけ使ってくれ。これらは有限だからな。......あとは、この結果を管理支部へ提出してくる。火打ち石は高騰するだろうが、炎が使えないのは不便だからな。」
結果としては十分だ。
俺は管理支部へと向かった。




