第二十五話 テレヴァンス
アルニエスへ。
明日、アンデルビート国王が前代未聞の実験をするそうだ。
この手紙が届く頃にはもう終わっているだろうが、全てがひっくり返るぞ。
親愛なる友人、アスタルテより。
「テレヴァンスを迎え入れるぞ。準備を済ませておけ。」
朝起きて、朝食を食べていたらそんなことを言われた。
朝食を掻き込み、部屋に戻って急いで髪を整える。
そんな事をしている途中に、玄関のベルがちりんと鳴った。
「テレヴァンスと申します、これからよろしくお願いします。」
テレヴァンスが丁寧にお辞儀をすると、肩にかかっている金髪が地面に対して垂直に垂れる。そわそわしているようで、目線がふわふわとただようっている。
「大変な事があったとは思うが、頑張ってほしい。今日から茨の城団の団員だ。」
「ありがとうございます。」
そう迎え入れたエデルジート団長は、ミレーマーシュさんに案内させるよう指示する。そして二人は、寮の奥へと消えて行った。
「よし、仕事に戻るぞ。」
エデルジート団長がそう言って執務室へ向かう。
ハルセンジアさんから声がかかってきた。
「ヴィンデート、上から回ってきた仕事を処理していこう。昨日三つ回ってきたからな、急いで消化していく。」
「お、俺もですか?」
よく考えれば上から回ってきた仕事を無視して管理支部にある仕事をするのはおかしいとは思う。しかし、ワンランク上の仕事ということで緊張してきた。
「日帰り、レレティックの討伐だそうだ。レレティックを街に持ち込んだ馬鹿が、集合住宅の屋根裏で異常繁殖させたらしい。素材も回収していいそうなので、全滅させてほしいそうだ。」
「レレティック......。あれですか、素早い魔獣。」
ハルセンジアさんは頷き、準備をしろと言い置き、自分の部屋へ向かう。
俺も部屋に置いている剣を取りに向かった。
「あ、その剣......。」
「はい、テレヴァンスさんから貰った剣です。」
外に出ようとしたとき、テレヴァンスさんが俺が装備している剣を見て、懐かしそうに目を細める。いちど足を止め、振り返ってテレヴァンスさんを見上げる。
「呼び捨てでいいですよ。むしろ貴方が先輩なのですから、さん付けしても?」
「それはちょっと......。わかりました、お互い呼び捨てで呼び合いましょうか。」
そうして、俺は初めて呼び捨てで呼べる相手を見つけた。
今度こそ外に出ようと扉に手をかける。
「この剣は、今は亡き村の者達の魂です。虚しくて、空っぽになるほど擦り切れてきたけれど。貴方がその剣を振るえば、安心する......気がします......。だから......、ここにやって来たのです。」
涙をすする音が聞こえる。
話しかけられても、今度は振り返らなかった。
街の南東。そこにある木造の集合住宅の中には人の気配が無かった。
正確には、それらの周りに人が集まっている。
「よく来てくれました、ギルドの皆さん。」
「ああ。それで、レレティックは?」
ここの管理人によると、大体三十匹ぐらいはいるらしい。
少し骨が折れそうだ。
「ではヴィンデート、仕事だ。剣を振れ。」




