第二十三話 リア、落ちる
「フィリアはね、お花みたいに可愛く綺麗に生きてほしいの。だからリアをつけたの。」
「おはなのかみさま!おはなだいすきだよ。」
お母さんとの記憶。あの時は幸せだった。
「ねーちゃん、大丈夫?」
「......。」
俺はそばに寄る。ねーちゃんの元気はないように見える。
こちらを見つめて少し微笑むだけ。そして返事は質問で返された。
「ヴィンデートはさ、もう一人で生きていけるかな。」
青い瞳は虚で、なんとなく病気の症状とは思えない元気のなさではあった。ただごとではないと思って、質問には答えなかった。答えれば、後戻りできない気がしたから。代わりに、俺はねーちゃんを助ける言葉をかける。
「なにかあったら俺に相談して。今度は、俺がねーちゃんを守るから。」
そう言うと、ねーちゃんは俺を抱きしめる。
人間の体温。そのはずなのに感じたのは冷たさだった。
俺の首から背中に水滴が走る。ねーちゃんは声を奮わせて。
「ありがと。私は大丈夫だよ。」
ねーちゃんが抱きしめるのをやめるのが退出の合図だとわかり、俺は部屋を出る。
振り返ると、ただ笑顔でこちらを見つめている人間のようなものの姿があった。
怖くて、なにか恐ろしくて。気がついたら早足でお茶会部屋に帰ってきた。
そこにあった光景は、エミラッシェさんが全員から責められている光景。
「はい、全て叔母様言う通りですが......。私はなにも考えていなさそうな頭の中に、責任という言葉を刻み込んだだけです。」
「それがいけなくて、あんな事になったのですよ?私達は勝手に彼女らを保護し、利用している立場です。フィリアは何も望んでいませんでした。」
「ならば勝手に彼女らを保護したのはエデルジート団長ですよね。」
言葉が出かけたが、俺は何も言わずに立ち去る。
それ以上は知りたくなかった。
誰かを許せなくなって、ここが壊れるかもしれないから。
夜は明けていた。花は枯れていた。人が消えていた。
「...い。おい、おい!ヴィンデート、起きろ!」
「はえ?」
エデルジート団長に叩き起こされた俺は急ぎで着替えようとしたが、そのままでいいと言われた。
「フィリアがどこに行ったか分かるか?」
「ねーちゃんが?」
知らないか、と言った団長の顔は青ざめていた。
俺も背筋が凍るような、そんな感じがしたと同時に、ねーちゃんのこちらに向けられた笑顔を思い出した。
「ねーちゃんが、居なくなったんですか?」
「......ああ、起きているだろうと思ってミレーマーシュに呼び出させたら、消えていた。」
言葉が出なかった。なんで。
ただ、あきらかに様子がおかしかった事を告げる。
「予兆は......、ありました。」
「そうか。......ファントレル騎士団長報告する。」
気が進まないが、と言ってエデルジート団長は俺の部屋を出ていく。
俺も着替えて、お茶会部屋に向かった。そこには黒いような、重苦しい雰囲気が漂っている。
お茶会部屋にいたのはミレーマーシュさんと、シリアスさんだ。
「ヴィンデート君、団長から報告はされましたか?」
「......はい。ねーちゃんが、居なくなったって。」
ミレーマーシュさんが朝食を運んできた。
「大丈夫ですよ、すぐに見つかります。」
「そのために、そんな言葉じゃなくて情報が欲しいです。」
つい、口に出てしまった。
すぐに謝り、朝食を誤魔化すように掻き込む。
その時、ハルセンジアさんが駆け込んできた。
「門にいたラッテルタから報告、二十時あたりに門を通過する人影を見たと。」
「それはフィリアちゃんだと確認されましたか?」
「いいや、背丈は確認したところフィリアらしかったが......。詳しくは分からない。」
闇雲に探しても......、と言ったシリアスさんは頭を抱えた。
探す......。俺は全ての始まりを思い出した。
「確かアルニエスが[探知]のスキルを持っていました。今に思えば恐らくこれで[王の道]がばれた事から、あの時追われていたと思います。」
「......そういえば、何故魔力がないのに[王の道]が発覚された......?いやいい、後で聞こう。アルニエスだな?」
何か疑問に思ったようだが、今は[探知]に頼る事にしたらしい。ハルセンジアさんは、騎士団がいる管理支部へ向かった。しかしねーちゃんを探す当てが見つかったのに、まだ重苦しい雰囲気が漂っている。それは悪化しているように思えた。
「[探知]......。あれは特定のスキルを探す場合、そのスキルを自分で解析して理解しなければいけないはずですが。」
「どういうことですか?」
「つまり[王の道]を持っている人と過去に会った事があるということです。」
つまりアルニエスは王族と繋がりがある可能性があるということを言われ、不安になる。
「大丈夫ですよ、ヴィンデート君のスキルのおかげで分かった事です。」
そう言われた時、朝食を食べ終わり、不意に窓を見る。
庭に咲いていた花は、不自然に枯れていた。
目線に気づいたシリアスさんは小さな声で呟く。
「リア......。不吉ですね。」




