第十八話 <即討伐>
「助けて下さい......助けて......。助けて助けて助けて。」
自分でも何を言っているのか分からない。
けれど、目の前に起こった事を信じられなくて、怖い。
「シリアス、命令により参りました。」
「門で異変が起こっています。」
昼食中、管理支部にいるハルセンジアさんがお茶会部屋に駆け込んできた。
「何が起こっている?」
「南の村から来た村人が数人街に入れてほしいと......。詳細な情報は伏せられていますが。」
南の村......。もしかして初めて仕事をした村だろうか。スウィントゥーの駆除をして、お礼に剣を貰ったあの村だ。
少しばかり心配する。彼女らになにかあったのだろうか。
「そしてそのことに対して、騎士団がシリアスを呼び出しています。」
「何故だ。」
「村人はかなりのパニック状態に陥っており、過去に会ったことがある顔なら落ち着くだろうと。ヴィンデートに関してはまだ新米なのでという理由で騎士団から呼ばれなかったと予想されます。」
理由を聞いてエデルジート団長はシリアスさんに門へ向かわせる。
シリアスさんが昼食を掻き込んで、席を離れた。
俺はパニック状態と聞いて、さらに不安になる。
そんな俺を見て、エデルジート団長は。
「シリアスの報告を待とう。まずはそれを食べ終えろ。」
門から帰ってきたシリアスさんは、いつもとは違う無表情で帰ってきた。
それを見たエデルジート団長は異常事態が起こったと察し、全員をお茶会部屋に召集させる。
「それでシリアス、なにがあった?」
「......村人と報告されていたので大勢いると身構えていましたが、実際は三人しかいませんでした。」
三人......。使いとして村から送られてきたのかとも思ったが、シリアスさんは少し口ごもってから報告をする。
「村人によると、生存している者はその三人だけだと。」
「え?」
なにがあったのか。そう呟くと今報告します、と真顔で返された。
「魔物の襲撃です。そして報告された形状から見て、おそらくデラストレイレスと予測されます。」
「デラストレイレスだと!?騎士団に報告はしたのか!」
「はい、門にいたラッテルタが管理支部へ走って行きました。」
「......あの、デラストレイレスとはなんでしょうか。」
そう質問すると、ハルセンジアさんが答えてくれた。
「デラストレイレスは元々ここにはいるはずのない、発見されたら即討伐対象の魔物だ。見た目は大木だが、地面の中にある根が泳ぐように動いて各地を移動する。そして地面の中にある根を地上に突き出し、資源を絡めとって再び地面に取り込み、養分にする。石ころも木も魔獣も人間も例外なく、だ。」
人間が地面に引きずり込まれるのを想像して、ぞっとした。
これで村人が惨殺されたことも事実だ。
「デラストレイレスは<即討伐>。ギルド騎士団関係なく協力して危機を乗り越えろ、だったな。準備をしろ、今すぐに。」
その後、予想通りに団長召集命令があり、デラストレイレスが出現されたことが報告された。今日の午後四時に討伐するらしい。あと一時間半、討伐に参加するメンバーを決める。
「ミレーマーシュとフィリアは待機だ。」
分かってはいたのか、ねーちゃんはこくりと頷く。
しかし待機メンバーに俺の名前が呼ばれなかったことに驚いた。
「ヴィンデート。今回は君のスキルで攻撃のタイミングを見てほしい。それさえ分かれば地面からの不意の攻撃をかわせる確率がグッと上がる。協力してくれるか?」
「......少し怖いですが、出来ることをします。」
ファントレル騎士団長に、この街の全ギルドが街外の門の前に召集された。
「デラストレイレスが出現した!階級は<即討伐>!我等はギルドも騎士団も上下関係なく、ただ一つの目的に対して突き進むのみ!強大な魔物からこの地を守れ!」
「「「はっ!」」」
ファントレル騎士団長が声を奮わせ、皆を率いて南へ向かう。
歩いているはずだが、何故だか速く進んでいる。そのことをシリアスさんに聞いてみると、身体能力を強化させる魔法を振り撒く石があるらしい。
「思ったより早く着きそうです。」
そう言うと、地震。
いや、振動。
「下だぁ!!」
一本の根が地面から現れる。それは丸太かと思うほどに太く、長い。
「怯むな!ただ一本!魔力探知より追撃はない!」
「希望の森団!攻撃を開始します!」
その言葉と同時に、その人は剣を振り抜き光の刃を飛ばした。
しかし根はそれを掻き消し、全体を鞭のようにしならせてその人を捕らえようとする。
「希望の森団を守れ!」
ファントレル騎士団長の怒号で全員が魔法を放ち、それに怯んだようで根っこは地面に潜る。その後、一人の男性が空高くジャンプして大声を放つ。
「ラクタウトより報告!四十三キロメートル先よりデラストレイレスを目視!通常種より約四倍の大きさです!三百メートル先の丘を越えれば全員目視可能だと思います!」
「四十三キロメートル先からこの攻撃だと!?」
しかし怯んでいられない。まとめて捕らえられないようにしつつ、ある程度の対応が出来るように三手にわかれて丘を越える。
それは想定していたよりも巨大で、少しずつこちらに近づいている気がする。
「エデルジート団長。」
「ああ、頼んだ。」
「はい、[ステータスオープン]。」