第十四話 サイサンシュレイトの生き残り
「騎士団長、面会依頼が届きました。」
そう言ってミラシュレインとアルニエスが入ってくる。
「なんの用だと書いてある?」
「それが......、反アンデルビート派の貴方達へ......」
そこから続けられた内容は信じられなかった。
朝、雪が降りはじめる。
皆の寒さを和らげる為に、ミレーマーシュは今日の朝食を暖かいスープにすることを決めた。
......ハルセンジアとヴィンデートは今日も森へ向かうのかしら?
確か予定がない日は鍛えまくると言っていたか。
私は二つのビート石に魔力を込める。
これで彼らは寒さを気にせずに、鍛練ができるだろう。
「ありがとう、ミレーマーシュ。今日は凍えずに済みそうだ。」
「あらあらエデルジート団長、大袈裟ですこと。」
そう笑いあっていたら、最近話題の二人組が入ってきた。
「おはようございます、エデルジート団長。」
「おはようヴィンデート、フィリア。今日は温かいスープだ。」
子供達は目を輝かせて、席に座る。
その後、エミラッシェとシリアスが入ってくる。
「雪ですね。お茶会しましょう。」
「エミラッシェ、書類仕事は沢山あるんだぞ?」
「おはようございます、エデルジート団長。エミラッシェ、しばらくお茶会は無理ですよ。明日はハルセンジアさんもいないのですから、今日中に終わらせられる仕事は終わらせて行きましょう。」
ハルセンジアはいつも書類仕事から逃げてるでしょうに。
エミラッシェは不機嫌そうに唇を尖らせ、スープに手をつける。
「そうそう、ヴィンデート。こちらのビート石の一つをハルセンジアに渡しておいてください。こちらは魔力を込めれば寒さを和らげることのできる石です。森で鍛練するのでしょう?」
そう言って渡すと、ありがとうございます、と笑顔で受けとる。
こんな時期がハルセンジアにもエデルジート団長にもあったと思う。
もうこんなに立派になって彼らを率いている坊ちゃんを見ると、やはりエデルジート坊ちゃんが領主になれなかったのがひどく悔やまれる。
......でも、ここでも生き生きしてるわね。
そう思っていたら、エデルジート団長から。
「ミレーマーシュ、話がある。朝食が終わったら執務室に来てほしい。」
朝食後、エデルジート団長に呼ばれて執務室に入室した。
「なんの用でしょうか?」
「......騎士団長を味方につけた後、サイサンシュレイトを奪還しようと思う。」
「......あの子達を巻き込むつもりですか?」
そんなことは、エミラッシェとシリアスが全力で止めるだろう。
「いや、事情を騎士団長に話し、内密に......。」
「サイサンシュレイト領が奪還されたら大騒ぎになりますよ。」
まあそうだな、と頭を悩ませるエデルジート団長を優しく諭す。
「大義名分を手に入れたからと言って、直ぐに行動に移すのは良くありませんよ。奪われた故郷を奪還するのは私も大歓迎ですけど、何事も落ち着いて対処してください。」
「......分かった。」
二十三年前、レシアボールとアンデルビートの戦争が始まった頃。
サイサンシュレイト領はレシアボールを庇う形で戦争に参加した。
しかし、アンデルビート軍の前には手も足も出ずに、必死の抵抗も虚しく三年も経たずに敗北した。その際、サイサンシュレイト領主が体を張り、息子のエデルジート坊ちゃんとその側近を逃したことで、私達は一命を取り留めた。
サイサンシュレイト領の騎士団長の息子、ハルセンジア。
ハルセンジアの父親の弟の三男、シリアス。
エデルジート坊ちゃんの政略結婚の相手のエミラッシェ。
そしてエデルジート坊ちゃんの世話をしていた私。
エデルジート坊ちゃんはいつかサイサンシュレイト領を取り返す資金を集める為、茨の城団を立ち上げた。それについていったのはハルセンジア。その後、魔力量を当てにしてシリアスとエミラッシェをギルドに入れたことで、このギルドの基本の骨組みが出来た。
「未来のことを考えるのは良いことですが、今は目の前の事に集中するべきでしょう?」
「俺の焦りすぎだな。すまない、ミレーマーシュ。」
「いいえ、逆に沢山相談してください。きちんと情報を共有しましょう。」
そうだな、と笑い、退出の許可を出す。
しかし、私は報告があることを忘れていた。
「そういえば、最近エミラッシェの機嫌が悪いですよ?話をきいてみたらどうです?」
「......お茶会不足か?」
「いいえ、エデルジート団長に不満があるようです。」
「何についてかは分かるか?」
「存じません。」
......嘘ですけれど。
エミラッシェはエデルジート団長に好意を寄せているが、全く気づいてもらえていない。元々は政略結婚なので、エデルジート坊ちゃんがあまり相手をしていなかったのだが。
しかし[王の道]を持った少女フィリアを引き取ってから、エデルジート団長の好意の[色]がフィリアに向いていると愚痴をこぼしていた。昨日の午前の事だ。
......ぱっと見、そんな雰囲気じゃないですけどね。
「では、昼食を作って来ますね。また二人分を抜いておきます。」