第百話 開戦
「風魔法を教わったのですか。」
「ええ。三日前ですね。」
朝、茨の城団の団員で朝食を食べている時、シリアスさんにそんなことを聞かれた。あれから三日、ベルグラートの騎士団が帰って行ったり、テッツァーレとエンディストの溝が深まったり、領主様を見かけなくなったり、色々な事があった。
「領主様は何をしているのでしょう。」
「まあ、そうですね......。」
「知らん。というかエミラッシェは何をしているんだ?」
ハルセンジアさんはエミラッシェさんを睨みながらそう言う。しかし、「ちゃんと仕事はしていましたよ。」と、ミレーマーシュさんがフォローした。
「テッツァーレの手伝いとして、複数の計算が回されましたね。それとシリアスの家の地下を捜索したり......」
「え?勝手に入ったと?」
「勝手にではないですよ。エンディストに許可をもらいました。」
それは、テッツァーレの手伝いをして、エンディストと共に資料を探したと言うことだろうか。エミラッシェさんが二人の仲を引っ掻き回しているとしか思えない。
「そういえば、シリアスさん。領主様から任せたと言われていた仕事って......。」
「出来ましたよ。魔弾を軽量化する技術を外した設計図を作りました。」
「それをしている間、私は大変だったのですけどね。」
そうテレヴァンスが苦笑する。確かに「テレヴァンスに仕事を振りましょうか。」と言っていた気がする。
「大変でしたが、良い経験になりました。」
「ともかく、これを提出すれば仲直りしてくれないでしょうかね。」
「まあ二人の仲はともかく、速めに兵器は完成させた方がいいだろう。領主様に許可をもらって、デート・ガルディアに持っていけば......」
「まあ、そうですね......。」
領主様の話をすると、シリアスさんの反応が鈍い。何かを隠しているのだろうか。そう思いながら朝食を終えると、少し外が騒々しい。何だろうと顔を見合わせていると、扉が開いてグランデア騎士団長が入室してきた。
「シリアス様、申し訳ないですが話が......。」
「テレヴァンス、行けますか?」
「はいっ!」
あっという間に三人は退出し、ミレーマーシュさんが二人のお皿を片付け始める。ぽかんとしていると、朝食を終えたハルセンジアさんはぽんと肩を叩き。
「情報を集めるぞ。」
そう言って外に出て行った。俺も後を追って退出する。
「ミレーマーシュさん、お茶会しましょう?」
「仕事をしてきなさい、エミラッシェ。」
ざっと城内の人達に話を聞いたところ、大通りで何かが起こっているということが分かった。ハルセンジアさんと共に大通りへ向かうと、広場に人々が集まっているのが見える。
「広場の人々は、何が起こるのかは知らないそうです。」
ハルセンジアさんにそう説明した時、ざわりとして、人々が上を向いた。視線の先には、バルコニーから顔を覗かせている領主様の姿があった。
「隣にはシリアスとツーリュスがいるな。」
「何が始まるのでしょう。」
民衆も動揺を隠せずに、隣どうしでこそこそ話し合っている。すると、声を拡散させる魔術具を使ったのだろうか。領主様の声が、城下街に轟く。
「我々は領内の王国兵を掃討し、一時の平穏なる時間を得た。しかし、これは一時的であり、元を潰さねばならぬと判断した。」
「ハルセンジアさん、流石に今の兵力じゃあ、王国と戦争なんて......。」
「領主の判断だ。最後まで聞こう。」
これは宣戦布告だ。自分はサイサンシュレイトだけでは心許ないと思いながらも、領主様の演説を聞く。
「よって、サイサンシュレイトを含めた、デベロバード、ベルグラートの三人の領主と話し合い、宣戦布告をすることとなった。」
この報告により、途端に広場は大騒ぎとなる。自分も動揺を隠せずに、ハルセンジアさんに何が起こっているのかを聞いてみた。
「三人の領主、ですか?いつ話し合ったのでしょう。」
「内密に領を抜け出したか。あの雰囲気、シリアスは知っていたらしいな。」
二日前より領主様を見かけなかったのは、そういうことだったのか?少し納得は出来ないながらも、演説に耳を傾ける。
「王国に攻め入り、元凶のアンデルビート国王を降ろし、新たな王を決める。しっかり統治し、民の声に耳を傾ける王を決める。そのために力を貸して欲しい。」
「あったりまえだあぁぁ!」
どこからかそのような大声が聞こえ、それを皮切りに領主様へ声援が送られる。
「ありがとう、皆......。」
そう呟いて息を吸うと、エデライブジート様は高らかに宣言する。
「デベロバード、ベルグラート、サイサンシュレイトの同盟が結ばれた!これより、三領の名義により、王国に対して開戦を布告する!」