第九十九話 逆毛の霊獣団の会議
「皆、聞いてくれ。」
夕食後、団長は皆を集めた。私は一度アンネリアを呼びに行ったが、まだ顔を合わせたくないと言う。皆を集めた、と言ったから、いない人がいるというトラウマを刺激したくないのだろうか。
「アンネリアは......、いないか。」
「後で私から説明しておきますね。」
「ああ、頼んだ。......少し顔色が良くなったか?」
「アンネリアとの関係が、深まった気がするのです。」
そうか、と笑顔で頷いた団長は、皆を見渡して表情を硬くした。
「今日、お偉いさんとギルドの団長らが集まる会議で話し合った。というか、上層部からこんなことがあったからよろしく、みたいな感じだったんだが......。」
「言う、渋る。団長、らしくないです。」
確かにそうだ。なにか伝え辛い内容なのだろうか。そう考えていた時、団長の口から衝撃の言葉が出てきた。
「どこかの国で、宣戦布告がなされる可能性がある、ということだ。正直、候補がありすぎる。」
「団長、それはどのように分かったのですか?」
団員が何故分かったのかを問う。
「各国の情報が急に入らなくなったらしい。商人として各国の様子を探っている者がいるのだが、その者が情報を掴めぬぐらいには情報統制がなされているようだ。」
「軍備強化が最後に入った報、だということなのね。」
少し前にそんな話をしていたか。だが、この時代なので特に疑問を感じなかった。なので、その情報だけで宣戦布告がなされるというのがよく分からない。
「最近の軍備強化に動いている国は、デベロバード、ベルグラート、サイサンシュレイト......、は微妙だが。で、テル方面とフウアンテルラで、今までではありえないぐらいの物流が流れている。」
「あ、最近食材が安くなったって......。」
「そうだな、ストルラッシュ。で、我々はこれらを支援と見ている。」
「まあ、フウアンテルラが宣戦布告したら真っ先に潰されるし......。」
団員の言葉に頷き、団長は会議でまとまった概ねの予想を告げる。デベロバードとベルグラートは確実に宣戦布告をするだろう、と。
「私たち、巻き込まれます。拒否権、ない、理不尽です。」
「ああ、だから覚悟を聞きたい。降りたい者がいたら、遠慮なく言ってくれていい。」
「ま、待ってください。拒否権はないのでは......?」
「ない。確実に我々は前線に飛ばされるだろうな。だが、一応逃げることは出来るんだ。」
団長が言うには、サイサンシュレイトでエンディストやテッツァーレの代わりとなれば、実質的にベルグラートの戦いとしては降りられる可能性があるそうだ。
「だけど、向こうが宣戦布告したら、参加だがな。」
しばらく沈黙が続いた。手を上げる者は現れず、団長は打ち切る。
「で、では、私はアンネリアに聞いて来ますね。」
「ああ、頼んだ。......正直、驚いたな。誰もいないなんて。」
「アンネリア、今回の話なんだけど......。」
アンネリアの部屋に行き、彼女に話し合った内容を伝えて、戦いに参加するかを聞く。
「でも、アンネリアは子供だからもしかしたら......」
「行きます。」
私としては、参加してほしく無かった。王国兵と戦うアンネリアの姿は、見たくないから。
「せっかくの殺せる機会を、逃したくありません。」
「そう......。」
「あの、ストルラッシュにはすごく感謝しているのです。」
急にそんな事を言われて、戸惑う。でも、アンネリアは戸惑う私に微笑んで、話を続ける。
「王国兵は、憎いですよ。でも、なんで憎いかって考えたら、死んでいった皆の事を思い出してまた辛くなるのです。でも、今日ストルラッシュが踏ん切りをつけてくれました。」
「そう。」
納得したが、少しもやもやする。私はアンネリアを救うつもりであり、王国兵を殺すのを後押ししたつもりではない。
「王国兵を殺すための戦いではありません。勝手な真似をすると.....」
「分かっています。」
彼女の目は復讐を果たす為の目だ。私は心配でならないが、これ以上の説得は出来ないだろう。私はこの空気を和ます為、話題を変えた。
「ねえ、私に対しては敬語じゃなくて、さっきみたいに普通に話してほしいな。」
「さ、さっきは感情的になったからで......。」
「本心から喋っていたのでしょう?お母さんに対しては、取り繕う必要は無くない?」
そう諭すと、アンネリアは赤くなりながらもこくりと頷いた。