第九十七話 テッツァーレの魔法特訓
「と、いう事があったのですが......。」
「......予想していた事態だ。」
地下の資料保管庫で起こった出来事を領主様に伝える。テレヴァンスが事情を説明し、シリアスさんが記録をする。
「あそこに入っていたという事は、そういう事ですからね。」
「ああ、シリアス。......で、どこまで線引きする?」
「まずいのは魔弾の軽量化ですね。見た限り、僕でも残りの道筋は分かるぐらいには完成に近付いています。......というか、不自然に途切れているのを見るに、あの人もまずいと思ったのでしょうね。」
逆に、魔弾等を宙に発射する技術はセーフという事だろうか。そう言ったところ、領主様にそういう事だと頷かれた。
「ではシリアス、任せた。」
「僕しかいないですからね......。明日にはテッツァーレに残りの仕事を振りましょうか。」
「わ、私にも仕事を与えて下さい!」
それでは、俺は何をしようか。悩んでいると、領主様からハルセンジアさんの所で訓練をすればいい、と言われた。今俺がすべき事はあまりないだろうから、少しでも力をつけるのは必要だ。執務室を退出し、俺は訓練室に向かった。
「ハルセンジアさん、俺も訓練しに......。」
「ハルセンジアはここにいないけれど。」
訓練室にハルセンジアさんの姿はおらず、テッツァーレがいた。魔力操作をしているようで、この空間にざわざわした空気が張り詰めている。
「魔力量、多いですね。」
「あ、ごめんなさい。」
ふっと、空気を漂っていた魔力が四散し、不快感が消える。同時に訓練の邪魔をしたのではないかと申し訳なくなってきた。
「大丈夫です。......訓練に付き合うね。何をしましょう。」
「えっ?いや......。」
「私はいいですし、ハルセンジアを探すのも手間でしょう?」
それなら良いだろうか。何を教わろうかと思考を巡らせる。すると、一つ思い浮かんだ物があった。
「俺は近接戦闘しかしていなくて、間が開いた時には何も出来ない気がするのです。遠くを攻撃する手段を、攻撃魔法を教えてくれませんか?」
「......あれ、シリアスからは何も教わってなかったということ?」
何も教わっていないということはない。ヴァインドという防御手段を教えてくれたのは、シリアスさんだ。
「今は使いやすいビート等の魔法が使えない為、と言っていました。」
「ああ、なるほど。......では、割と使いやすい風魔法等はどうでしょうか。」
そういう事で、風魔法ことクアロバの練習をすることになった。と言っても呪文を覚えて魔力があれば誰でも使う事ができる。魔法の練習というのは、魔力操作の安定化と精度の上昇を試みる事らしい。
「クアロバ・ザンネル・タイトレア。」
細い光線が空を裂いて的に向かっていく。しかし中心からは大きく外れた部分に当たってしまった。やはり攻撃魔法は、固定して使うヴァインドと違って魔力操作が安定しない。ヴァインドを動かしたあの時も、かなり辛かった記憶がある。
「ここまで訓練を継続できるとは、貴方の魔力量も大概ですね。」
「そんなに多いのですか?」
「大人と比べるのはちょっと、と思いますが。同年代よりは明らかに多いですね。」
団長からも魔力量が多いとは言われた......気がする。ただ、流石に疲れてきた。肉体的にも、魔力的にも。
「魔法をこれだけ使うのは初めてでしょうし......、休憩しましょう。」
壁に寄り掛かって座り込む。テッツァーレは、訓練の感想を聞いてきた。
「風魔法は使いやすいですか?」
「これで使いやすいとは......。かなり苦労しそうです。」
「ふふっ。まあ、努力次第、か。......私の[転戦]は、風魔法を応用したものなんですよね。」
それは初耳だ。ということは、極めれば彼女みたいに[転戦]を使えるようになるだろうか。そう問うと、難しいと言われた。
「理解はできるのですが、スキルですので。私が使うよりも汎用性は落ちますね。」
「そう、ですか。どのように?」
「......自分より重い物を入れ替えられなかったり、大きめの本棚を移動出来なかったりですね。」
本棚......、さっきの事か。冗談かと思ったら、やろうと思えばできる事らしい。
「そんなこんなで、風魔法は極めたと思ったのですが......。シリアスの魔法に魅入ってしまって。」
「もしかして茨を引き裂いた......。」
「そうね。」
それは自分も感動した。シリアスさんの本気を、遠目からでもはっきりで見えた。風魔法を極めたと思った彼女にとって、魅入ってしまうのも納得だ。
「だからシリアスが居ると聞いて、お手伝いに立候補したのです。」
「教えてもらう為に......?」
俺の言葉に頷き、彼女はこれからの目標を語る。
「そうですね。超えるとか、そういうんじゃなくて......。ただ教えてもらいたいのです。それで、一緒に訓練するという約束を取り付けてもらえたのですよ。」
「すごいですね。」
......凄く忙しそうだけど、頑張れ、シリアスさん。
「疲れも取れてきたし、訓練を再開してもいいですか?」
「そうですね。では次は......。」