第九十六話 危険な資料保管庫
「対空兵器、なあ。シリアス、地下の資料にあったりしないか?」
「探してみる価値はあると思います。ただ、長時間そこに張り付いていられるほど暇ではないので、ハルセンジアさんが行ってみて下さい。」
一夜明けて、久しぶりに安心できる所で朝食をとる。茨の城団全員で話し合っていたところ、ハルセンジアさんが急に俺に仕事を振ってきた。
「ヴィンデート、頼んだ。」
「良いですけれど、ハルセンジアさんも暇そうですよ?」
「ダーロンドと剣を打ち合うんだ。」
「仕事が無いなら俺だって特訓しますよ。」
「ダーロンドと約束しているんだ。仕事ではなくとも、立派な予定なんだよ。」
俺達の不毛な言い争いを見かねたテレヴァンスが、「打ち合うだけ打ち合ってすぐに地下へ向かえばいいじゃないですか?」と言ったら、エミラッシェさんがそれを肯定する。ただ、そんな事をしているエミラッシェさんには予定がなさそうに見えるが。
「エミラッシェさんが一番暇そうです。」
「だ、そうだ。」
おっとりとした仕草で首を傾げ、暇ではないと言う。
「ディリオーネとトートルートとお茶会があるのです。」
「来い。」
「人脈を広げるのも大事でしょう?主催者が欠席する訳にはいかないのですが。」
その様子を見ていたエデルジート団長が、皆を宥める。
「落ち着け。まあ、そうだな......。エンディストとテッツァーレが主体として動くらしいし、俺らはその手伝いだな。シリアス、二人を地下に入れる事はできるか?」
「誰かが見張ってくれるなら良いですが。最低でも二人ですね。」
「分かった。シリアス、テレヴァンスを借りるぞ。あとヴィンデートも。」
俺は良いが、テレヴァンスに関してはシリアスさんのお手伝いのような役割だった気がする。一番忙しそうなシリアスさんから取り上げてしまって良いのだろうか。
「構いませんよ。大きな予算関係の整理は冬まで無いですし。」
「と、いうことらしい。ヴィンデート、テレヴァンス、よろしく頼む。」
「「はい。」」
「ヴィンデートさんと......。」
「テレヴァンスです。またですが、よろしくお願いします、エンディストさん。」
「テッツァーレです。」
四人とシリアスさんが、シリアスさんの家に集合した。と言っても屋敷に近いかもしれない。門を通って庭を横目にシリアスさんの家に入る。そしてシリアスさんの父親の部屋に入室すると、机やベッドに山のような資料が積み重なっていた。
「シリアスさん、これらはなんでしょうか。」
「今はビートが使えないので、読みたい時には上に運び出してから読むのです。」
「運び出すまでが大変そうですが......。」
テレヴァンスの反応にシリアスさんも頷き、「僕は光が入る手前から読んでますけどね。」と言う。それに対してエンディストは眉間にしわを寄せて問う。
「つまり真っ暗な中、目当ての資料を探せと?」
「火は使いたくないですしね。暗視......、のアグライトも使えないんでしたっけ。」
安全に火を使いたい、というのはできないだろうか。そう言ってみるが、シリアスさんは悩んでしまう。
「私の[転戦]で本棚を手前に寄せますか?」
「順番がずれるので止めて下さい。」
テレヴァンスは嫌気がさしたようで、「もう手前から探しましょうか。」と提案した。光が届かなくなった時はその時考えるというらしい。
「こんな所で言い合うよりは、良いでしょうね。」
エンディストも納得し、地下へ降りようとする。それにテッツァーレも付いて行き、地下に降りる。シリアスさんは。
「じゃあ僕は城に戻りますね。」
と言い置いて、退出した。
少々捜索したのだろうか。思ったより埃っぽくはないが、光が届かなくなるほど、鼻がむずむずしてくる。少々気になる内容の研究はあるが、今は無視だ。
「ここは王国に知られたらまずい資料しかない訳で、対空兵器があるということは無いのでは?」
テレヴァンスがそう小声で言い、俺の方を向く。別にそのような資料だけでこの空間が埋まるとは思えないが。
「ざっと見た感じ、随分昔の資料もあるようですよ?王国とかに関係がない。」
「まあそうですが......。これは?」
何かを見つけたらしい。見せてもらうと、魔族の生活様式や体の特徴をスケッチした紙を纏めた物だ。絵柄や筆跡的に、シリアスさんの父親ではないようだが。
「何かに使えるかも知れません。写本してくれる人が欲しいです。」
「後で一気に渡しましょう。」
「ヴィンデートさん、兵器関連で、これ......。」
テレヴァンスと同じ棚を探っていたエンディストも、何かを見つけたらしい。拡散型の魔弾発射装置だろうか。そのスケッチがあるが、別に珍しい事は書いていない気がする。
「最後のページを見て下さい。」
「......魔弾の軽量化?の研究をしようとした痕跡がありますね。」
途中で終わっている。この資料自体は三枚しかないが、終わり方的にもう少しあったのだろうか。
「爆発させようと努力した痕跡がありますね。......射角と時間を調整すれば、空中で爆発する魔弾に......。」
「......これを世に放とうというのですか?」
テッツァーレが震えながらエンディストに言う。
「十分実践で使えると思いますが?」
「違います!隠していたという理由から察するに、これは世に放ってはいけない物です。私でも、見ただけで分かりますから......。」
「向こうだって、非人道的な実験をしてるのではないですか?相応の物で対抗しなければ。」
エンディストが冷ややかな目でテッツァーレを見下し、反論する。テッツァーレも、キッとエンディストを睨んだ。俺達は恥ずかしくも、固唾をのむ事しかできない。
「相応の物、と分かってやろうとしているのですね......?」
「今までの戦況はひっくり返るでしょうね。そして、これからの戦争ではこれのおかげで沢山の死者が出ることも分かります。まあ、戦争なんてそんなものでしょう?」
「......エンディスト、貴方には失望しましたよ。」
そう言ってテッツァーレは上へ昇る。
「領主様に、ここの危険性を進言させていただきます。」
そう言い置いて、光の先へ消えてしまった。