第九十三話 戦うわけ
「あ、テレヴァンス。」
「帰っていたのね、ヴィンデート。」
サイサンシュレイト城に帰還し、昼食を食べ終えたところ、廊下でテレヴァンスに出会った。
「セントレイクでの仕事は終わったのですか。」
「ええ、デート・ガルディアからお手伝いにやって来た人のおかげです。デベロバード等の国に協力を貰いました。」
デート・ガルディアからのお手伝いとは、誰だろうか。と、思っていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「ヴィ、ヴィンデートさんじゃあないですか!」
後ろを向くと、全速力で駆けて来るエンディストの姿があった。
「無事でしたか!?ハウッセンに向かったと聞いて、生きた心地がしなかったのです。あぁ、生きていて良かった!」
肩をがっちり掴まれ、ぐいっと顔を近付けてそう言う。
「エンディストさん、落ち着いて......。あ、彼がセントレイクで私の仕事を手伝ってくれました。」
「はっ、申し訳ありません。」
「だ、大丈夫です。」
「嘘は良くないですが......。」
エンディストはそう言って肩を落とした。そういえばセントレイクでテレヴァンスを手伝っていたということだが。
「書類仕事はできるのですか?」
「できますよ。というか本業です。下手な騎士よりも剣術は嗜んでおりますが。」
それは意外だった。セントレイク救援戦で剣を振っている姿を見てからか、どうも騎士というイメージが払えないが、嗜んでいるなら納得できる。嗜むという程のレベルではなかった気がするが。
「ということで、次の戦いは私が参戦します。ヴィンデートさんに付いて行って......。」
「それは駄目です。」
いつの間に居たのか、シリアスさんがそう言う。シリアスさんに付いて来たテッツァーレは、「エンディストも居たのですか?」と、言う。
「あなたたちが帰って来る数日前に。それより、駄目とはなんですか。」
「ヴィンデート君......。」
「はい?なんでしょうか、シリアスさん。」
ふう、と息を吐いて、シリアスさんは語り始める。
「僕はヴィンデート君を見すぎて、慣れてしまっていました。戦うのは僕達大人の役目なのに、と痛感して......。」
違和感は感じていた。軍の中に子供はおらず、アンネリアもセントレイク救援戦では参加する為に俺との約束を使って参加していたか。シリアスさんの言う通りかもしれない。
「......そうかも知れません。でも、グアンでの惨劇を見て、王国兵から守りたいって考えたんです。それに、ねーちゃんを探すっていう目的も、王国兵に邪魔されたくない。」
「......嘘は言っていない、と。覚悟は充分ですね。」
「覚悟は決めていても、死ぬ時は死にます。」
シリアスさんは震えながらそう言う。テレヴァンスも、シリアスさんの意見には賛成だそうだ。
「ラッテルタの死亡を知らせる時、デザリードにも顔を合わせて、きちんと話し合いました。彼は凄く悲しみ、涙を流して部屋を出て行きました。僕は、彼のようになりたくはないし、他の皆にもそんな気持ちをさせたくはありません。」
「残された者の気持ちは、オスターさんやラクタウトさんの豹変具合から、嫌でも伝わってきます。」
オスターは口数が少なくなり、ラクタウトは荒れてオスターに八つ当たりを繰り返している。
「でも、俺はそんな人を増やしたくはないです。俺が死ぬことで悲しむ人がいるのも知っていますが、俺が動く事で救える人がいるって分かったのです。」
グアンで民を救出したあの時、子供でも人を救えるって分かった。俺でも救えるって分かった。
「だから戦場に身を投げます。今までは周りに流されてきたけれど、これからは、自分で考えて戦います。」
数秒、沈黙が場を支配する。しばらくして、シリアスさんの声色がいつもの感じに戻った。
「......分かりましたよ。ここまで食い下がるヴィンデート君は始めてです。」
「そういえばそう、ですね。......エンディストさんは何をぶつぶつ呟いているのでしょうか?」
「ヴィンデートさんが言った言葉を、一言一句忘れずに暗記しています。」
若干引いた。ぶつぶつ呟きながらこちらを笑顔で見てくるので、怖くもある。この人を対処しないと危なそうだ。
「そ、そういえばハルセンジアさんに挨拶は済ませましたか?一緒に昼食を終えた後、騎士と剣を交わすと言っていましたが......。」
「はっ!良く考えればハルセンジアさんも帰って来ているではありませんか!お会いしなければ!」
エンディストさんは一言さようならと言い、駆けて行った。