第九十二話 シリアスとテッツァーレ
「さあシリアス、こちらへ!」
「えっ、いや、まだこの仕事が......。」
「急ぎですか?」
「ではないですけれど。」
「なら行きましょう、お茶会部屋へ!」
エミラッシェが帰って来て早々、お茶会部屋に引っ張られる。どうしようかと引っ張られている途中で、テッツァーレが目の前の階段から降りて来た。
「な、何をして......?」
「良いところに来ましたね、テッツァーレ。今お茶会部屋に連れて行かれている所なのですが......。」
「まあ!私も付いて行っても良いですか?」
目を輝かせて言うが、そういう言葉が欲しいのではなかった。エミラッシェも、もちろんという顔で頷き、僕にはますます逃げ場がなくなる。
......一日一回付き合わされて、ようやく解放されたと思っていたのに!
忙しくなって、お茶会から解放されたと思ったが、つかの間だったようだ。諦めて肩をがっくり落としながら連行されていると、テッツァーレが近付いてきた。
「少しは息抜きをしましょう?最近は本当に忙しくかったでしょうから。」
「まあ、そうですね......。」
「そんな顔をしないで下さい。......私、リラックスしたシリアスの顔を見たことがないですし。」
「そんな顔が見たいんですの?面白いものではないですのに。」
それに関しては同感だ。ただ、確かに最近は気を張りっぱなしだったような気がする。ヴィンデート君と話した時でさえ、他の皆と同じ仕事の話のみをして、笑えるような話をしてこれなかった。ふと、ハルセンジアさんの言葉を思い出す。
「ハウッセンの攻略会議をした後......ほら、地下であったやつ。あの時から、こう思うんだ。セントレイクを奪還した後は、ヴィンデートを戦いから遠ざけるべきだったって。馬鹿だよな、俺達。」
......ヴィンデート君に対しては、仕事だけではなく、ちょっとした話でも一緒にしてみましょうか。
ヴィンデート君は今、幸せではない事は確かだ。親はおらず、親の代わりに育ててもらった姉は失踪した。だからこそ、僕達が支えなきゃいけなかった。早めに気付けたのは幸いだ。
「付いたわ、城のお茶会部屋。」
机の上は既に整えられていた。着席するとミレーマーシュが、僕とエミラッシェが好きなお茶を入れてやって来る。
「あら、テッツァーレ様が来るとは聞いていないわ。」
「さっき出会ってそのまま......。」
「申し訳ありません。」
テッツァーレが謝罪するとミレーマーシュはたじろぐ。特に謝る必要はないと思うが、そういう性分なのだろうか。
「いいのよ。すぐに整えるわ。......好きなお茶はあるかしら?」
「モルインで採れた物はあるかしら。」
「ええ、モルインですね。少々お待ち下さい。」
ミレーマーシュがお茶をいれ、テッツァーレの前に置くとエミラッシェが口を開いた。
「そういえば、テッツァーレは何故ここにいるのかしら。あ、いや、お手伝いって事はわかっているのですけれど。」
「サイサンシュレイト奪還の為と、後はシリアスのお手伝いですね。」
それだけじゃあないだろう。人手が足りないということを聞いたデート・ガルディアは、セントレイクで繋がっていた僕らの関係が切れる事を恐れて、誰かを手伝いに行かせる事で僕らとの関係を続行させるチャンスだと考えた。そこにテッツァーレが立候補したのか、指名されたのかは知らないが。
「シリアスの手伝い?サイサンシュレイトではなく?」
「結局同じような物ではないかと。」
「まあ、始めて見た時は驚いてしまいました。」
軍部、経済部、生活安全保障部等の上に立ち、まとめていかなくてはいけない役職だ。自慢ではないが、エデライブジート様がセントレイクから僕を取り上げるのも納得いくだろう。だが、テッツァーレは心配そうな目でこちらを見て、言った。
「後輩を育成しないんですか?流石に自由な日がこれから一日もないなど......。」
「この戦争が終わって、しばらく経てば楽になれますね。テレヴァンスにも仕事を分担していることですし。」
「え、初耳ですが。」
エミラッシェにとっては初耳なのか。テレヴァンスに対しては金銭管理等の仕事を割り振っている。楽ではないが、できない訳ではないと思う。
「少し様子を見たりとか、質問に答えたりしていますしね。」
「なるほど。」
二人は納得したようで、すぐに他の話題に興味を移す。
「私、実は研究が大好きなのです。特にクアロバを使う風魔法の応用等ですね。」
「クアロバ......、これまた珍しいですね。」
クアロバなど、自分もあまり使った事はない。使ったとすれば、セントレイク救援戦で使ったストゥールだろうか。あの時はビートもアグライトも使えず、咄嗟に出てきたのがクアロバだっただけだ。が、これから神が宿される度に魔法が消えていくなら、少しでもマイナーな魔法でも安定させなければならないのか。ふと窓に目をやると、そろそろ各部の長らの昼休憩が終わる頃だということに気付いた。
「僕はそろそろ仕事に戻らないといけません。エミラッシェ、お茶、ありがとうございます。」
「ええ、テッツァーレはどうします?」
「私もここでおいとましようかと。急な参加でしたが、ありがとうございます、ミレーマーシュさん。」
お礼を言い、僕達はお茶会部屋を退出した。
すると、テッツァーレから、話しかけられた。