第九十一話 サイファリアとサーテレラ
「セントレイク、見えた!」
シリアスが準備をすると言ってくれた翌日、僕は騎士団に連れられて無事にセントレイクに着く事ができた。門で一度止められ、騎士が前日に送った伝令の事を確認する。ふと門から町を見ると、門周辺は馬防柵や魔防陣があり、建物は北に集まっているようだ。だが、妙に防衛施設と居住区の間に更地が多い気がする。
「ああ、あれは......、確か爆撃を受けて南が前回したと記憶しているが。......簡易的な防衛施設になっているな。」
ダーロンドがそう説明し、僕は衝撃を覚える。この一体を更地にせざるを得ない程の爆撃など、想像がつかないからだ。
「......伝令の確認がとれました。サーテレラ様をお呼びしますので、部屋でお待ち下さい。」
門の中にある待合室の中で一人で待機していると、扉が開き、何年ぶりだろうか、お姉様が入ってきた。
「サイファリア!よく無事にここまで......。」
「お姉様......。」
立ち上がり、歩みを進め、抱き合う。こうやって抱きしめられるのは、本当に久しぶりだ。ただ、お姉様の背中の隅ぐらいまで手が届くようになり、成長も実感できる。
「前日の伝令の通り、レシアボールさんと一緒にサイサンシュレイト領まで向かったのです。」
「信じられないけれど、本当なのね......。ただ、今は再会を喜びましょう?」
たくさんの話をした。八年前、お姉様が結婚で家を去った後、正式に我が家の跡取りが長女になったという話。お姉様が去る直前に、アンデルビート国王と繋がりを作るためにアグライト教に入った直後の環境の変化の話。それから熱心にアグライト様を信仰していく内に、十歳にして重要な役職に就いた話。そうして大司教様やアンデルビート国王から我が家が認知されたことで家族全員に褒められ、これをアグライト様のおかげだと信じ込んだ話。それから......。
「信じていた大司教様が王国に刃を向け、荒廃していった話でもしましょうか。あの時から、自分の信じていた神は存在しないんだって思いました。だって、仲間も、友達も、僕も、願っても救ってくれなかった。」
「......ごめんね。助けてあげられなくて。」
「大丈夫。......そして結局、アグライト様は人の支配下に置かれて、好き勝手されています。王国の女王に宿されたって。」
でも、お姉様に会えた。今はそれだけで満足だ。お姉様を見ると、もじもじした後、話題を変えるように声色を変えた。
「......ねえ、もうお家のしがらみもない事だし、今日から私達の間は敬語を止めない?」
「あ......。いいです、い、いや、いいね。」
「ふふっ、ありがとう。結婚準備をしている途中でごたごたしちゃって、結局今は騎士だからね。」
僕達はもう貴族じゃあない。考えに概ね同意しようとした時、重大な事に気が付いた。
「お、お姉様の事、なんて呼べば良いかな......。」
「うーん......。」
お姉様が考え込んでしばらく経つと、ふと顔をあげた。
「何か思いついた?」
「あ、いや......。サイファリアより少し幼いこの街の子が、ねーちゃんって言っているのを思い出して、ね。」
「ねーちゃん......、いいね、それ。」
「うぇ?いいの?ねーちゃん、ねーちゃん......。慣れないと。」