第八十九話 護衛と報告
夕食後、すぐに騎士団長にレンタレストらの護衛の参加の旨を伝えた。レシアボールの事は隠し、皆が帰って来る頃までに細かな仕事を終わらせるという事を、自分がエデライブジート領主に接触しやすい事を前面に押し出して説得したところ、了承をもらう事が出来た。
「では、頼んだぞ。シリアス、ダーロンド。」
「「はっ。」」
僕とダーロンドを中心に、ミリスト私兵団の生き残りとサイサンシュレイト騎士団で編成された護衛隊は約三十人。護衛対象の前後左右を囲い、移動力強化の魔術具を使って、まずはハウッセンへ向かう。魔獣にはだいぶ出会ったが、魔物には出会っていない。山賊もおらず、二日目の昼には無事にハウッセンに着くことが出来た。
「外で待機......、じゃあ危ないですね。中でも転落の危険がありますし......。」
「シリアス、ハウッセン攻略の前日に使った地下のアレ、使えるか?」
「なるほど。良い考えですね、ダーロンド。」
ぐるっと回って対岸へ渡り、森をほんの少し歩いていく。すぐ例の木を発見して、取っ手を掴んで開いた。
「レンタレスト様、サイファリア様、こちらへお入り下さい。......シリアス、トートルートとディリオーネを拾ってきてくれるか。」
事前にディリオーネとトートルートは連れて帰るという事になっている。その言葉に僕は頷き、ハウッセンへ向かった。
「もう騎士団が来られたのですか?」
「はい。流石に十数人ですが......。ですが、引き継ぎは終わりそうですし、我々も連れて帰っていただいても?」
ハウッセンの入口で、防衛の為に置いて行った騎士がそう説明した。ならば連れて帰っても構わないか。置いて行ったのは十人程。問題なく部隊に組み込める。部隊を率いている者に挨拶をし、元々いた者達を連れて帰る事を説明した。ちゃんと許可を貰え、トートルートとディリオーネの下へ向かう。トートルートは目を覚ましており、元気そうだ。
「私達は撤収、ですか。」
「まあ、来てくれた人達にやってもらえばよろしいのではないかしら?」
「シリアスが戻って来たという事は、もうサイサンシュレイト領内に王国兵はいないという事ですね。ここの防衛はするべき人に任せ、私達はやるべき事をやりましょう。」
なんだかトートルートとディリオーネの距離が前よりも近くなった気がする。前はかなりギスギスしていたが、和解でもしたのだろうか。
「お待たせしました。......もう昼食を終えたようですね。上に上がって、移動を再開しましょうか。」
「いや、騎士団の者達も食べてくれ。いざという時に体が本調子ではないと、困る。」
では、とお言葉に甘えて保存食を五個ほど口にする。お腹が膨れた訳ではないが、本気が出せないという訳ではないだろう。周りの騎士らも食べ終え、レンタレストらを上へ案内し、移動を再開する。移動力強化の魔術具を入れた荷車に入るかとトートルートらに言ったら、大丈夫と断られた。
「完全という訳ではありませんが、この程度気にしないわ。」
「トートルートは大怪我だったでしょう?休んでもよろしいのでは。」
「いいえ、大丈夫ですわ。ですけれど、ご心配ありがとうございます。」
やはりトートルートはディリオーネに対して態度が柔らかくなっている。そんな事を気にしつつ、夜になる前にディルークに着いた。ディルークは、ハルセンジアさんが指揮をとって難なく奪還した街だったか。今日はここで泊めてくれないか、と頼んだら、笑顔で了解をくれた。
まだ日も昇っていない頃、ディルークの門に騎士団らが集合し、人数確認をする。ディルークは名工が多い街で、人数確認の途中でカンカンと音が鳴り響き始めた。その音が合図となったのか、人々の生活音が聞こえ始める。
「では、行きますよ。」
ダーロンドがそう言い、先頭に立った。それに続いて護衛対象を囲み、移動を始める。もうサイサンシュレイト城下町は目と鼻の先だ。昼前には着くだろう。
道中は今までと同じく、対したものに出会わなかった。しっかり護衛対象に気をかけ、前後ろを気にかけていると、ふと穴だらけの城が見えた。
「着きましたね。でも、最後まで気を抜かないよう。」
何事もなくサイサンシュレイト城下町へ到着し、騎士寮でレンタレストとサイファリアを待機させる。ダーロンドが二人の相手をしているので、その間に、僕は玉座の間に行ってエデライブジート領主に報告をする。
「シリアス。伝令は来ている。」
「その護衛対象について、話したい事があります。なるべく二人がいいのですが......。」
「構わない。会議室へ。会議室では人払いを。」
「領主様!?」
茨の城団以外のエデライブジート領主の側近は驚いた素振りをする。しかし領主の意向は変わらないようで、「早く用意してくれると嬉しい。」と言って、側近らを見つめた。すぐに会議室が整えられ、案内される。
「では、シリアス以外は退出してくれ。」
「......。」
ツーリュスが「エデライブジート様が言うなら。」と、すぐに部屋を退出した。部屋の外から、「これ、早く退出なさい。」と言って、戸惑っている側近を諭す。
「私もシリアスを信用しています。事など、起きませんよ。」
ミレーマーシュさんもそう言った事で、会議室から僕達以外の人がいなくなった。
「ふう......、領主様ってやっぱり疲れるな。」
「しょうがないですね。万が一があったら、それこそ本当にこの領地が終わるのですから。」
エデルジート団長はお茶を飲み、こちらを見つめる。
「では、何があった?人払いをしてでも話したい事だろう。」
「はい。その......、レンタレストと名乗っている旅の者の事です。ヴィンデート君のスキルで調べた所、彼はレシアボールと出て、[王の道]を所持している事も確認しました。どうしましょうか。」
「レシアボール......?そうか。」
エデルジート団長が悩み始めた。少し悩み込むだろうと思い、お茶を飲む。しばらく経つと顔をあげる。
「呼び出すか。シリアスとミレーマーシュに出席してもらおう。」
「......王国を本格的に侵攻するのですか?」
エデルジート団長はこくりと頷く。やはりそうか。元々アンデルビート国王を失脚させたら、フィリアちゃんを王にするつもりだった。だが、そのフィリアちゃんが行方不明になり、アンデルビート国王を失脚させても後釜がいない状態になってしまったので、ゆっくりと事を進める事になっていた。
「レシアボールが居れば、旗頭となってくれるだろう。サイサンシュレイトには人手が無いが......、ベルグラートやフウアンテルラ等と同盟を組むか。」
「サイサンシュレイトは、城下町だけでも、僕達がいた頃の四分の一まで人口が減っていますからね......。」
ただ、今後の方針については固まった。レシアボールさえ居れば、王国の肩を持つ領地は一気に失せるはずだ。残るとすればあの地域......。
ホルス=デルタ区域。