第八十七話 旅の者の正体
「許可を得られました。どうぞお入り下さい。」
案内をしてくれた村人がそう言い、俺、シリアスさん、テッツァーレ、グランデア騎士団長、そしてベルグラート騎士団の一員であるダーロンドを、会議室と思われる部屋に入れた。ただそんなに広くはなく、定員は十五名ぐらいだろうか、木造で質素な造りだ。
「サイサンシュレイト騎士団長、グランデアと申します。貴方達がこの村を解放してくれたのですね。助かりました。感謝します。」
会議室で先に待っていたのは、フードを被った男らしき人と、子供だった。あの男の子は連れだろうか。戦闘が出来るという感じではない。
「レンタレストと申します。......通りかかった所、不自然な村があったもので。」
「さぞ腕利きでしょう。こちらとしては報奨を与えたいのですが......。」
「報奨......。特に何もございません。」
「いえ、こちらの気が済まないもので。」
レンタレストは不自然にフードを深く被る。こちらがばれないように下から覗こうとしても、それに気付かれて水を注ぐ容器で上手く顔を隠されてしまう。それに気付いたシリアスさんは、俺に小声で注意をした。
「止めて下さい、気付かれています。」
「ご、ごめんなさい......。」
探ろうとするのをすぐに止め、話に耳を傾ける。どうやら騎士団長は感謝の気持ちとして何か望みを叶えたいが、レンタレストがそれを拒んでいるという状況だ。
「レシ、レンタレストさん、このままでは不毛です。ここはセントレイクまでの護衛を頼んでは......?」
「......はぁ、そうか。」
レンタレストがため息をつき、体の正面を騎士団長に向けて願いを言う。どうやら、彼らはセントレイクへ向かいたいらしい。
「セントレイク......?何故そちらへ?」
「えっと、サーテレラという者に会いたいのです。」
男の子がそう言い、レンタレストが頷く。それを聞いたシリアスさんが顔をすっと引き締め、俺の肩をトントンと叩く。
「......やっぱり探ってみて下さい。ヴィンデート君のスキルで何か分かるのかも。」
「ええ、やってみます。」
セントレイクでの戦いでサーテレラが誘拐されかけた件がある。堂々と発言しているあたり、怪しさというものは無いが、念のため探っておこう。俺はレンタレストに対して[ステータスオープン]を使った。
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レシアボール 57歳
攻撃力 57
守備力 12
魔力量 273
速さ 15
体力 87
獲得スキル
[基礎魔力操作]
[基本闇魔術]
[ビートの用兵術]
[アンヌレシアの加護]
[王の道]
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「......!」
「どうかしましたか?」
シリアスさんが小声で尋ねる。ただ、今言ってしまって良いのかわからず、それに加えてダーロンドが聞き耳を立てているようなので、話し合いが終わってから言う事にした。
「セントレイクに連絡しましょう。護衛とはいえ、流石に勝手に他領に兵を送るのはよろしくない為、一度サイサンシュレイト城下町に泊まる事になりますが、良いでしょうか。」
「ええ。決まりでしょうか。」
そうして話し合いが終わった訳だが、退出しようとしたところに、レンタレストが騎士団長を呼び止めるのが目に入った。
「騎士団長、少し聞きたい事が。」
「なんでしょうか。」
「サイサンシュレイトの今の領主は誰でしょうか?」
「エデライブジート、です。」
回答に驚いた素振りをみせたレンタレストだが、「ありがとうございます。時間を取らせて申し訳ありません。」と言って、話を終えた。
「ヴィンデート君、彼は何者でしょうか。」
皆が休んでいる建物から離れ、川の近くでシリアスさんとおちあう。ここなら大丈夫だ。
「彼はレシアボール......さん?で、[王の道]を所持していました。」
「レシアっ......、なるほど。王都のゴタゴタで上手く逃げ出したのでしょうか......。」
さっきの質問での反応は、今の領主が昔味方をしてくれた領主の息子という事が分かったからだろうか。ならば、彼を味方に付ける事が出来るかもしれない。
「サーテレラには王都で捕らえられた弟がいるって......。もしかしたら、あの男の子はサーテレラの弟かもしれません。」
「可能性はあります。......情報を与える人を選び、慎重に動きましょう。」
シリアスさんにそう言われ、頷く。
「慎重に......。」