第八十六話 取捨選択
「グランデア騎士団長、二人組がこちらにやって来ます。」
「ああ、私が対応する。一応警戒はしておくように。」
騎士らを掻き分け最前列に着いた。しばらく待つと、ライアンズの村からやって来た二人が現れる。見た目は王国兵だが、武器は構えておらず、剣は収めてある状態だ。
「サイサンシュレイトの騎士団、ですよね?」
王国兵の内の一人がそう問う。一部ベルグラートの騎士団も居るが、大体は合っているので頷く。そうすると、その王国兵は今のライアンズの村の状態の説明を始めた。
「旅の者の手によって、ライアンズの村は解放されました。我々の格好は王国兵ですが、実際はライアンズの村の者です。」
「旅の者......。その者はどちらに?」
「今も村の中に。」
それを聞き、その旅の者に会いたいと思った。この事が本当ならば、相応の報酬を渡し、感謝の言葉を送らなければならない。
「ふむ、では我々も向かおう。旅の者へと案内してくれないか。」
「分かりました。」
そうしてライアンズの村に入る。村の中に川が横断しており、東部と西部で境界を敷いているようだ。東部の門から入ったが、西部にはサイサンシュレイトの城の面積に匹敵するような畑が広がっている。やはりサイサンシュレイトの食糧庫だけはある。村の者に迎えられながら大半の騎士団を他の村人らに任せる。俺と数人が旅の者に話を聞いたり、状況を整理をすれば良いだろう。
「騎士団長、伝令はどうしましょうか。」
「事情を聞いてからで良い。そして今からその事情を聞くので、付いてきてくれるか?シリアス。」
「了解しました。」
シリアスだけではなく、セントレイクへ情報を持ち帰る者一人、同じくデート・ガルディアよりテッツァーレ、ベルグラート騎士団よりもう一人を追加しようか。直接聞いてもらった方が、面倒が少なくて済む。
「シリアス、セントレイクの者を一人呼ぼうかと思うが、誰が良いと思う?」
「ラクタウト、オスターは不安定ですし......。なんだかエミラッシェも思い詰めてそうで、安心感はありませんね。ハルセンジアさんは......。あ、ヴィンデート君に経験を積ませてみようかと。」
「待て、安心感等で取捨選択をしていたのに何故不安そうな子供を選ぶ!?」
急な思考の切り替わりに思わず怒鳴ってしまったが、シリアスはそれに動じずに淡々と理由を説明する。
「安心感で不安があるのはラクタウト、オスター、エミラッシェです。彼らはそもそも話を聞けるのかが不安なんですね。ただ、ハルセンジアさんとヴィンデート君はしっかりと聞いてくれそうですし、どちらかを天秤にかけたのなら、育成が出来るヴィンデート君を選びます。聞いた話を後で他の皆に振り返ってもらって、足りない部分は僕が付け足して......。」
「付け足せるのなら適当な人でも......。そうか、聞いたという証人が不安定では、情報の信憑性が無いのか。」
ヴィンデートがちゃんと聞いていたのなら、「そういえばそう言っていましたね。」で、終わる。騎士団の者が仕事に集中出来ないというのは考えられないが、何らかの原因で不安定だった場合は何を言っていたのか分からない可能性もあるのだ。シリアスがにっこり微笑むと、ヴィンデートを呼びに行く。俺も近くの騎士にテッツァーレとベルグラートの騎士団一人を呼ぶように命令した。しばらく経つと先にヴィンデートがシリアスと共にやって来て、状況を確認する。
「やらせていただきます。......ただ、シリアスさんでは駄目だったのでしょうか。」
「ヴィンデート君、僕はセントレイクを空けて、サイサンシュレイトに居ます。セントレイクに戻る事はしばらく無いのです。」
「......そう、ですか。」
少し寂しそうな顔をしたと同時に、呼んできた二人がやって来る。人が揃ったので、村人に旅の者へと案内するように頼む。すぐに了承が出たので、俺達は足を前に出した。
「では、行くぞ。」