第一話 路地裏にて
「スキル、かぁ。」
十歳、になる前。
私はわくわくしながら十歳の時を待つ。
弟のヴィンデートを不自由なく育てられるよう、そんなスキルが手に入ると思ってた。
そんな淡い期待は絶望に塗り変えられ、絶望は私の[道]を踏み外させた。
神様は人間が十歳になったら、スキルという名の人生最大のチャンスをくれる。
それが例え貧乏な少年でも、金持ちの令嬢でも。
住んでいる場所がただ普通の家でも、孤児院でも、豪邸でも、刑務所でも。
生まれた日から十年、生まれた時間に光が降り注ぎ、力が湧いてくるらしい。
そんな日を待ち焦がれる少年がいる。
「ねーちゃん、俺はいつになったらスキル貰えるの?」
「......ごめんね、ヴィンデート。お姉ちゃんにはわからないな。」
夜、街の大通りから少し離れた路地裏。
親もいない俺達は、いつもと同じように身を潜める。
ねーちゃんは緑のショートボブを揺らし、そう言った。
「俺、すっげぇスキル貰ってねーちゃん幸せにするんだ。」
俺がそう言うと、ねーちゃんは目を細めて。
「ごめんね。私、こんなスキルで。」
「ううん、大丈夫だよ。」
ねーちゃんのおかげで、親がいなくとも生き残れたから。
それが例え犯罪でも、ねーちゃんは。
「ごめんね、[盗みの才能]なんて物貰っちゃって。こんな生活、ごめんね......。」
「もうごめんはいいよ。ねーちゃんは俺を育ててくれたから。」
「......ありがとう、今日はもう寝よ?」
スキルを貰ってから七年間、この生活を続けてきたねーちゃんに恩返しをしたい。
今日も俺はそう心に刻んで、寒い夜を越える。
まぶたを越えて光を感じる。
俺は目を開けると、様々な色の光が五~六個、俺の周りを回っていた。
「な、なんだ?」
俺はつい、声を上げてしまった。
その声はねーちゃんを起こしたようだ。
「んん...まだ夜だよ?」
「ねーちゃん、光が......。」
「光?何か見える?」
この光はねーちゃんには見えないらしい。
そう思うとねーちゃんは 「スキル...?」 と、つぶやく。
「スキル、俺...。」
「ヴィンデート、貴方のスキルよ。」
「......うん。」
頷き、光に向かって手を伸ばしたら。
キィン
光は手から吸い込まれ、脳に文字が直接刻み込まれるような感じがした。
スキル獲得 [ステータスオープン]
スキル獲得 [基本剣術]
スキル獲得 [基礎魔力操作]
なんだ、この感覚は。
空気の流れが分かる。
「すげーよ、ねーちゃん!」
「なに?何貰ったの?」
ねーちゃんは目を輝かせ、俺を見つめる。
「三つ貰った![ステータスオープン]と、[基本剣術]と、[基礎魔力操作]だよ!」
そういうと、ねーちゃんはきょとんとした。
「[基礎魔力操作]は私も貰ったの。もしかしたら全員貰えるのかしら。」
「あれ、ねーちゃんは他のスキルあったの?」
そういうと、ねーちゃんは目を伏せて。
「[基礎魔力操作]は、私の魔力の量が低すぎてうまく使えなかったの。通りを歩いていても、子供が魔力操作の話をしてるのを聞いたからもしかしたら全員貰えるのかなって。」
それを聞いて少しがっかりした。自分だけの特別感が薄れてしまったからだ。
「[王の道]も魔力量の関係で使えなかったみたい。」
「魔力量って?」
「うーん、なんか周囲の魔力を動かせる気力?多ければ沢山魔法使えるって事はわかるわ。」
俺の魔力量は多い方なのだろうか。ねーちゃんはスキルの話を続ける。
「[基本武術]も貰ったの。こっちは逃げる時に、ね?」
「......気にしなくていいよ。」
「うん。後は、[盗みの才能]。」
「......」
俺は何を言えばいいのか分からない。
そしたらねーちゃんは気を引くように話を振ってきた。
「ね、ねぇ、ステータスオープンって何?」
「うん。使ってみようかな。」
俺は不思議とこのスキルの使い方がわかる。
使ってみると、脳に文字の羅列が刻み込まれる感覚がした。
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フィリア 17 歳
攻撃力 8
守備力 4
魔力量 1
速さ 43
体力 27
獲得スキル
[基本武術]
[盗みの才能]
[基礎魔力操作]
[王の道]
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「...なんだ?これは。」
「なに?なにかある?」
「数字。」
俺は恐ろしいほどに染み付いている文字の羅列を、一つも間違えずに言った。
「うーん?身体能力が見れるのかしら?私の身体能力が見えるってこと?」
ねーちゃんはそう考え始めると。
攻撃力が8から6に、守備力が4から3に減少したことに気づいた。
「ねーちゃ」
そう言いかけると、淡い光が空を照らす。
「夜更かししちゃったね、ヴィンデート。」